私があこがれている東洋文化へ彼が中傷を浴びせたのは許せなかった。
「口で言ってわかんないやつには、強要しないとな。どんないいことだって、味わってみないことにはわからないから」
「ばかだわ。魂の交流のない相手にむりやり犯されたって喜ぶはずないじゃないの」
私は昼の世界で信じられている魂の愛を前面に立てて言った。
カズは、セバスチャンがダンテクの依頼主で、昔の恋人には一定の品性のあるところを見せ、ダンテクより感じやすい心を持っていると見、彼を抑えておけば、ダンテクもその手下も手荒なまねはしないだろうと読んだのか、必死の表情で彼に訴えた。
「キミは彼女の魂をつかまえることができなかった。頼みがある。あんたがたのいいなりになってもいいが、その前にフルートを吹かせてくれないか。
魂をつかむのがどういうことか教えてやりたい。肉体の快楽より心の喜びがどんなにいいか知りたくはないか?」
ふん、とセバスチャンは鼻先で笑った。
「おれはサクソフォンを吹く。おなじ音楽ならドラムとかトランペットとか、もっと景気のいいのをやったらどうなんだ」
「フルートは心に沁みる音だ。心の満足と肉の快楽とどっちがいいか比べてみないか」
「坊主みたいなこというね。まあいい。君たちを誘拐したのは、ふたりに一生忘れられない法悦を味わってもらおうって意図からだ。おれにも坊さんみたいなとこはある。それにダンテクには君の知り合いのムホクという男をおびきだす狙いもある。君らがさらわれたことが伝わるまでに丸一日はかかるだろう。時間はたっぷりある。慰みの前にひとつ楽しんでもいいな。フルートってなんかお上品だが、オードヴルにはいいだろう。やってみな。フルートは持ってるのか?用意がいいな。みんなを満足させるようだったら考えてもいい」
セバスチャンはダンテクを振り向いてどうするというふうに眼で訊いた。
「おれはムホクがねらいだ。このふたりはあんたのお客さんだから」
ダンテクは手の平をくるっと上向きに返しただけで文句はつけなかった。
(つづく)
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