週刊誌に扱われる裏町の過酷な現実が私の身の上にふりかかったことに驚き、私は底知れぬ黒い悪魔の意図を感じた。赤ら顔とダンテクはそうやって実際いままで何人もの女たちを、快楽をひさぎ、二度と脱け出られない地獄に陥れ、女衒として利益を貪っているに違いない。
愛が嫉妬に変り、嫉妬から人が悪行へ走るのが怖い。善良な神の愛と人の心が抱く悪の所業は別々でなく起源はひとつなのだ、とその時も私は思い、人間の心のまっ暗で巨大な深淵を覗く思いがして、恐怖に沈んだ。
「じぶんじゃやれないから商売男を使うのか!」
悔しまぎれにカズが噛みついた。だが、彼の悔しさには、存在感あふれるダンテクと、大きくて暗い悪の使い赤ら顔の肉体に比べ、淡白で脆弱な自らの肉体を自認してるようなところがあった。
私は性技のプロの赤ら顔に巧みに責められた果てに抗い難い快楽に襲われ、ついには悦楽の極みに昇りつめて肉の深淵からこみあげる狂おしい喜びに耐えられず、のたうって喘ぐ自分の姿を想像し、知らぬまに身体がほてるのを感じた。セバスチャンの言うとおり私は魂を奪われカズを捨てるかもしれない。そうしたら私は身の破滅だ。毎日が肉体の要求に負け爛れた欲望に支配される日陰者の生活を送らねばならない。
そういう女の欲望がもつ恐ろしい性を、くやしいがダンテクと赤ら顔は心得ていて、セバスチャンが私への支配を維持したいばかりにお坊ちゃんらしい哀れな欲望に駆られて、私を性の奴隷に変身させてくれるよう金で彼らにすがったのを、サタンからの贈り物のように舌なめずりして味わおうというのだ。そういう女の性をめぐる男の欲望が星雲のように渦巻く世界に私とカズは漂っているのだった。カズがセバスチャンに負けぬくらいのお坊ちゃんぶりを発揮して言った。
「セバスチャンってのか?キミもいちどは彼女を愛したんなら、その意志を尊重したらどうだ。好きな相手を選び、幸福を追求する権利はだれにでもある」
「へっ。権利ね。キミの説教を聞く耳はもたないね。キミなんかとくっついたら幸福になれないってことを知らせてやるんだぜ。東洋?仏教だ?哲学だって?おれたち西洋人にはわかりっこない。幻想にだまされたら不幸になる。西洋女にはそれにふさわしい深い喜びがあるってことを教育してやるんだ」
(つづく)
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