和秋は最初断った。情報を提供するだけでそんな大金が手に入る仕組みになにかいかがわしいさを感じた。
武彦は多分情報を持ってるだろう。暗証番号でしかアクセスできないコンピューターの個人ファイルに記録してあるだろう。アクセスは容易ではないが不可能じゃないと和秋は考えた。
技術的に実行可能か否かより、情報と交換に二百万という金を与える者がいるビジネスの世界にとまどいを感じた。額に汗した労働に対する報酬でなく、秘密情報を盗み、競争中の企業に提供し、多額の報酬を得る。
競争に勝つために企業は何でもやる。秘密情報はそれだけ価値があるものなのか?和秋は不正の臭いのする仕組みに手を貸して、競争の倫理、フェアプレイの精神という子供のころ信じた価値を裏切って後悔しないか良心に問いかけてみた。
いっぽうで和秋は空を飛ぶ誘惑に強く惹かれている自分を感じた。この金が入れば、講習どころかデルタ・プレーンと小型エンジンが買える。夢が実現し好きな時に大空を滑空できるのだ。翼とエンジンと車輪付き座席も買った上に、ムホクたちに多少の援助を差し出すことまで出来る。
和秋はその晩、床に就いてから自分に言いきかせた。イカルス石油もアキレス自動車も民営化された。公共事業の入札ならいざしらず、民間の受注競争に正不正のけじめを引くことができるか。すべて取引きだというケバウが正しい。売り手と買い手が満足できれば万事円満、それでいいんじゃないか。その上、音楽を愛するムホクとその仲間に多少の援助ができる。良心の悩みなど余計じゃないか。
ケバウが申し出た十万の謝礼のうち、一万をムホクたちのコンサートに当て、九万でエンジンつきデルタ・プレーンを買おうと和秋は心を決めた。
(つづく)
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