フランスの原発 - その2 歴史 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

めのおの家の近所には原発が2基ある。
ジアンの町を挟んでロワール河の上流と下流。ベルビル(Belleville sur Loire)と ダンピエール(Dampierre-en-Burly)で Gien の町からはそれぞれ2・30km。ウチからは4・50km離れている。(下の地図のほぼ中央にみつかる)

フランスの田舎暮らし-げんぱつ2


Gienへ買い物に行く度に、最初高速の入り口でBelleville の冷却塔が火山のように蒸気を上げているのが見え、Gien からは下流の Dampierre が見える。

この家を見つける前は、ロワール河畔に売り家を探した。一軒古い農家を改造した魅力的な家が見つかり、写真を見た限りでは、どの家よりも良く欲しくなった。ただ値段がひどく安い。もしやと不動産屋に電話し、原発が眼の前に見える村じゃありませんかと訊くと、暫く黙っていたが、やはりそうだと言った。

冷却塔の水蒸気とわかっていても、毎日、怪異な塔が蒸気を吹き出す様を見るのは気味が悪い。いくら家の中の住み心地がよくても、一歩外へ出れば眼の前に原発があると、恐怖感を与える。原発のすぐ近くに住んでいる人たちは「慣れてます」とテレビでよくやっているが・・・。

フランスでは、いまや家庭電力の8割近くを原発でまかなっているのだから無関心でいるわけにゆかない。めのおがフランスへ来た当時は、ここまで原発大国ではなかった。

フランスの田舎暮らし-原発



歴史を振り返ってみる。

フランスの前にまず、世界の原子力のエネルギー利用はいつ始まったのか?

核分裂の際に生じる巨大なエネルギーを実際に生みだす実験は、やはり「マンハッタン計画」と結びついている。

まずウランの鉱石からウラン235を分離抽出するという困難な作業を実地に行わなければならず、天然鉱石にはわずか0.7%しか含まれていないウラン235の分離をどの様に行うかが「マンハッタン計画」でも最初の最大の課題だった。

分離には気体拡散法、熱分離法、電磁処理法が用いられた。遠心分離法は膨大な電力を消費するためこの時代では用いられなかった。

1942年末には約51トンの金属ウランの抽出が出来た。
このウランを使って世界最初の核反応装置パイルと呼ばれる)がシカゴ大学のスクワッシュ・コートに作られ、フェミニが実験を主導した。初日には出力0.5ワット、10日後に200ワットが観察された。

1944年9月 ワシントン州 ハンフォードにコロンビア川の水を冷却用に使った反応炉が建設された。

しかし原子力を平和目的(発電)に使おうと最初に考えたのはカナダのチョーク・リヴァーに居た英仏合同チームの研究者たちだった。

1947年 彼らは、重水を減速材に普通の水(軽水)を冷却用とするCANDU炉(カナダ型重水減速炉)を完成させた。

1956年 世界初の商業用原子力発電所が英国コールダー・ホールで稼働した。電力は全国送電網へ供給された。

これを見てもわかる通り原発は英国が先陣を斬った。アメリカ合衆国は石油が豊富なために核エネルギーの利用への関心が薄く、最初の原発は1957年シッピング・ボートで作られ英国に8カ月遅れた。

ロシアは1955年に加圧水型の原発を作り、1958年には初の原子力砕氷船レーニン号を進水させた。

フランスの田舎暮らし-炉心



さて、フランス

今からちょうど65年前の1945年10月18日にド・ゴール将軍はCEA (Commissariat à l'enérgie atomique =原子力委員会)を創設した。

1948年 初の原子炉ゾエ・パイル(Zoe Pile )を作った。シカゴ大学のパイルと同じ黒鉛を減速材に使い、レンガの様に積み重ねたのでパイルと呼ばれた。

フランスの原子力エネルギー利用が本格化するのは1960年代で、ピエール・メスメル首相により大規模に原子力開発が進められた。アルジェリアの独立によってサハラ砂漠の石油と天然ガスに頼れなくなった事情と呼応している。

フランスの原子力産業の詳細は次回以降に譲るとして

2008年現在フランスには19基の原発( Centrales nucleaires )に計58の原子炉(Reacteurs)が稼働している。各原発に2~4台の原子炉がある。

フランスの田舎暮らし-地図



ほとんどが加圧水型の原子炉。

上の地図でわかるようにパリ周辺に原発は無く、一番近いのがセーヌ河上流の ノジャン(Nogent sur Seine)。

過去に建設された原子炉の内12台が運転を停止し、原発の2基が解体作業中。

過去最大の原発事故は1980年にサン・ローラン(ロワール・シェール県)原発がレベル4の事故を起こしている。レベル4は外部に被害を及ぼさない事故。

ちなみにチェルノビル原発事故はレベル7とされている。

フランスの原発が使用するウランは国内の鉱石を掘りつくしてしまい、2001年からは全量を輸入に頼っている。毎年8000トンが必要なウランは主に
オーストラリア(オリンピック・ダム鉱山)、カナダ(マック・クリーン・レーク、マッカーサー・リヴァー、シガー・レーク)、ニジール(アーリット鉱山)から輸入している。

ウラン鉱石の主要な産出国のうちカナダはすでに1930年に北極圏のグレート・ベアに瀝青ウランの重要な鉱脈が発見され、1958年には日産4万2000トンを産出する世界最大のウラン生産国となっている。

(つづく)