去年の夏、雌猫のプチットは初めてお産をした。3匹の姉妹の末っ子で姉に頭が上がらず、とりわけ食いしん坊のグロッス・シャットが餌を全部食べてしまうので栄養不良、発育が遅れていた。不妊手術をしたらしいグロス・シャットは食べるだけが楽しみだった。
プチットは複数の仔猫を産んだ筈だが残ったのは濃いグレーの寅ネコ一匹だけだった。セバスチャンの弟が庭でごそごそやってたわ。子猫をきっと埋めてしまったに違いないとカミサンは言った。
この冬は厳しく雪が3回積った。毎回1週間は融けずに残っていた。雪の中でグレーの仔猫が元気そうに雪を掻き分けて遊ぶ姿が見えた。
春になりプチットはまたお腹を大きくした。最近の猫は年に3回出産ができるそうよとカミサンが言う。2月に受胎して5月に生れる猫が一番丈夫だと昔の人は言っていたわ。可哀想に、また「マビキ」されるわね。
5月が来て、日の光が明るく野外で過ごすのが快適になったので庭に出ることが多くなった。
「あん アン あん アン」 どこからか、捨てられた仔猫の鳴き声が聞こえて来た。
もしかしたら、プチットがうちの屋根裏で出産したかもしれない。4・5匹の仔猫が屋根裏でうごめくイメージが浮かんだ。少しやっかいだな。夜毎に天井の上で、動き回る音がしていた。隣との境の隙間からネコは屋根裏に上がるのだ。
屋根裏で仔猫を呼んでるような親猫のせつなそうな声も聞いた。
この日の仔猫の鳴き声は、屋根裏からではなく、一軒置いた隣の庭から聞こえて来るようだった。すこしほっとした。一軒置いた隣は庭に小屋が建ってるだけで人は住んでいない。多分、あの小屋で出産したか、去年の夏、「マビキ」されたのを知ったプチットは仔猫を救うために家から運び出したのかもしれなかった。
かすかな「あん アン」と涸れた喉を震わせるだけの鳴き声だったのが、2・3日経つとしっかり響くようになった。庭の植え込みの下を急ぎ足でどこかへ向かい、また家へ戻るプチットの姿をたびたび見かけた。
10日ほどして荒れ放題の庭をカミサンと手入れしていると、プチットが早足で前を横切った。口になにか咥えている。それを目の前でポトリと落とした。見るとキツネ色の仔猫だった。カメのように両手を広げたままじっと動かない。親猫は怖がって庭の隅に潜んでいる。
首の付け根を咥えて運んできたが重いのか落してしまった。親が動かないので仔猫を拾って親の近くへ移してやった。プチットは即座に口に咥え、木造の家のドアの下部に取り付けてある猫の出入り口(シャチエール)まで運んだが、また落としてしまった。
シャチエールは地面から30cmほど高く取り付けてあるので仔猫を咥えたまま潜れないらしかった。親猫だけが家の中へ入り、仔猫は外に残されている。助けが要った。隣との仕切りの低い塀を乗り越えた。
仔猫はシャチエールの縁に小さな手でしっかりとしがみついていた。爪を立てぶらさがったまま動かずにいる。捕まえようと手を伸ばした時、仔猫は正面からこっちを見た。人間をおそらく初めて見たに違いない。驚いて両眼をしっかりと見開いている。明いたばかりの丸い穴の様な眼がこっちを見ている。恐怖の色はなかった。
仔猫は片手の平にすっぽり入るほどの大きさしかない。顔も眼も小さい。その小さくまだ無表情だが、口だけきゅっとしっかり結んだ顔に両目が、丸く見開いて、じっと動かずにこっちの目を見つめている。
なにかとても切実な、生死の分かれ目といった差し迫った状況を、仔猫はしっかり耐えている感じがした。仔猫なのに強い男の子のような「キカン気」を感じた。
掴んだ手でシャチエールを押し、仔猫を家の中へ落とすと親猫がフウーと威嚇の息を吐いた。
それが、「チビとら」との出会いだった。
それから2週間ほどして、やや大きくなった「ちび」が庭に遊びに出てきた。
その晩は冷えこみ、翌朝になり「チビとら」が庭で夜を明かしたことに気付いた。独りではシャチエールに飛び込めなかったに違いない。
カミサンが抱いてきてクロにあげるミルクをやった。ちびの首根っこは、家の中の階段の上り下りなど親猫にさんざんに咥えられ歯形が黒い瘡蓋(かさぶた)になって肩のあたりまで広がっている。
仔猫はしきりと「くしゃみ」をした。一晩中寒い屋外で過ごしたせいだろう。
トラジもクロジも罹った「コリザ」という感冒にやられたらしい。カミサンは薬局へ行き、仔猫用の薬を買ってきた。薬局の人の話では仔猫はコリザで死んでしまうという。
昨晩、家へ入れてやらなかったのが悪かったとカミサンは責任を感じ、獣医さんへ連れて行った。注射をしてもらい、しばらくは安心できた。クロのエイズが感染する危険があるので「だれか引き取り手があれば知らせてください」と頼んだ。
でも「チビとら」は4ヶ月経った今もクシャミが治らない。オメオパテイ (Homeopathie 自然薬)を水に溶かし餌に混ぜて与え少しは良くなった。昨日コリザの予防接種に連れて行ったが獣医さんのところに引き取り手は現れていない。
夏の間、チビは暑い地面を避け木に登って昼寝をした↓
( 空中を飛んでるって!なに、暑いので金網に乗って昼寝するとこさ。)
庭の繁みに棲んでいるツグミに魅せられて木に登りじっと観察している。そのうちクロみたいに鳥を捕まえるのだろうか?
下は母親のプチット↓
夏の間にセバスチャンはグロス・シャットと白猫を自分たちが住んでる家へ連れて行った。去年、間借り人のマドレーヌは夜間転んで腰を痛め、自炊できなくなったので養老院へ入った。木造の家はプチットと娘のグリーズだけが住むことになった。
夏中クロは家で寝ることはなかった。たぶんプチットたちと寝るか、どこか別の家を見つけたに違いない。寒い日だけ昼間、昔の寝床にうずくまって昼寝をする。
最近、またプチットのお腹が膨らんできた。娘のグリーズまで妊娠したらしい。
この調子だと猫がどんどん増えてしまう。獣医さんの意見が解らないではない。
昨日は親子3匹水入らずで遊んだ↓
姉のグリーズと戯れる「チビとら」↓
もう一枚↓
夜、寝る前にひと遊びしないと寝つかれない「ちびトラ」
最近は柱に開いた穴にひどくご執心です↓
この部屋の柱は400年前の古い家を改築した時、古いのを使い漆喰壁に柱が剥き出しになっている。そのうち一本は「ほぞ穴」が開いたままになってます。
穴に前足を突っ込んで向こうに何があるのか探りたいらしい↓
壁の向こう側にのぞいた手↓
こんな風に日増しに大きくなってゆく「ちびトラ」ではありますが、トラジのように去勢すべきか否か?ラプラプラになっちゃうのも嫌だし、かといって元気余ってエイズに罹る確率が高くなるのも嫌だし・・・。クロとうまく折り合ってくれればいいのだが・・・。









