フランスでは野良猫や雑種の猫のことを、「樋(とい)の猫=chat de goutiere シャ・ド・グチエール」という。また「樋のうさぎ(lapin de goutiere )」といえば野良猫のこと。血統書つきの猫は樋など伝ってうろちょろしないのか?
そういえば隣にはきれいな三毛猫がいて、しかもオスだった。どことなく品があり賢そうな顔をしていた。写真の物置の屋根のむこうが隣で三毛は決して屋根に上ったりしなかった。毛並みも美しく、血統書つきのネコはやはり違うわいと感心していた。
ところが、この冬、三毛は毛が脱け落ち老衰したネズミのようになって2・3度庭に顔を見せたままぱったり姿を見せなくなった。エイズに罹って死んでしまったに違いない。純粋種ほど弱く抵抗力が無いとカミサンは言う。
上の写真はクロジである。トラジも雑種だったし、次ぎに来たクロジも雑種の黒猫だ。真っ黒い毛に明るい太陽光線に当たると茶色の縞が見える。
仔猫のクロジは人なつこく、歩くと足にまといついた。じゃれるのが好きでおもちゃのネズミをサッカーボールのように両手でドリブルしながら走りまわった。それに木登りが得意だった。
籠に入るのが好きで、小さい時気に行ったこの籠は、図体が大きくはみ出しそうになるくらいまで中に入って寝ていた↓
この写真のクロの顔には、どこか険しい、キツイ、ヤクザな相が見て取れる。
大きくなるにつれ、クロは、刑事みたいに他の猫の痕を追跡し、忍者のように密かな忍び足で獲物に近寄り、仔猫でも容赦なく爪を立てて攻撃する。野性の激しさが顕著になった。
敏捷で、家具やテーブルに飛び上がっても置いてある物を器用に避けて歩く。でも工事現場の高い所から飛び降りた際に足を切り、指のクッション(coussinet )の肉が裂けたことが2度あった。
トラジの流感の後、クロジを獣医さんに連れて行ったのは足指の間にブリキの破片が刺さりビッコをひいてた時だった。獣医さんが傷口を見るのに抵抗するので麻酔を打った。家へ帰り、麻酔が醒めかけてよろけながらも、腰を引きずりなんども立ち上がろうとする姿に野生の獣の強い意思を感じた。
獣医さんは流感の予防接種を勧めてくれ、クロジだけは3回打つことが出来た。トラジは1年後に3度目を打つ前に失踪してしまった。
クロジは木登りが得意だった。そもそも最初の出会いが、木登りから落ちたクロが、屋根の葺き替え工事を終え積んであった黒いスレートの山にどすんと落ちたのに始まった。音に振り向くと、黒いスレートの山に黄色く丸い二つの眼だけがこっちを向いているのが見えた↓
その頃のクロは後ろ脚が頼りなくヨチヨチ歩きだった。
夜、家へ入れてくれとドアの前で激しく泣くので、仕方なく入れてやった。咽をゴロゴロ鳴らす、音が大きく、飛行機のエンジンのようだねとちょうど遊びに来ていた友だち夫婦が言ったほどだ。
仔猫のクロはカミサンが用意した毛足の長いプレードに触れると喜んで両の前足を交互に「おいちに、おいちに」と押した。たぶん母親の乳房を押して乳を飲んでいた時を反芻してるのだろう。「やあ、また、おいちにを始めた」カミサンはそれがクロが寝付く合図だと知っている。念入りに「おいちに」を済ますと、一回転しころんと横になる。
エサをねだるとき咽の奥で「るる、るる」と鈴を振るように鳴く。ただトラジは朝早くドアの外で「にゃあ~お!」と大きな声で開けてくれと鳴いたが、クロは人の顔を見ずに鳴くことを知らなかった。
トラよりも野生児のクロは肉食で、生のステーキが好きだし、鳥やネズミを捉えるのが得意だった。ハトを捉えた時は、正に野性が蘇り黒いこともあって悪魔的に見えた↓
後ろ脚で立ちあがり咥えた鳥を振りまわす↓
鳥が死んで動かない事にネコはガマンならず突っつきまわす。
クロがリラの木から落ち、ちょうど入口の門の工事をやっていためのおの周りで遊び、やがて家で寝るようになってからも、長い間クロは2・3軒離れた古い庭のある家で生まれ、出て来たのだろうと思い込んでいた。
というのもその家には黒猫の親子が居て、ある晩、クロを訪ねて親子で台所を覗きに来たからだった。しかし、ある日、その家の御隠居に訊くと、居なくなったネコはいないとの返事。それから、うちの門の脇に建っている木造の家から出てきてリラに登ったと解るまでに数カ月かかった。
その木造の家は、めのおの家の前の家主の持ち物で、その頃は90歳を過ぎたマドレーヌが独り借家をして住んでおり、二階にネコが3匹棲んでいた。太っちょ雌猫grosse chatte とその妹のシロとプチット。
プチットは次回に書く「ちびとら」の母親なので、こんな経緯を長々と書くのだが、クロは彼女らと最初暮したのだった。それは、ある日、独りで退屈しているマドレーヌを慰めに訪ねたとき、家の中の階段にクロが現れたので解った。裏庭のドアに40cm四方位の猫の出入り口( chatiere )が切ってある。
クロは出自を暴かれて当惑したニセ貴公子みたいにめのお夫婦の出現に当惑し階段からじっとこちらを見つめていたが、やがてシャチエールから出て行った。
さらに確認ができたのは、前の家主のジャン・セバスチャンと門の工事について言葉を交わした時だった。クロは、5キロは離れている畑の中の道に捨てられていたのをセバスチャンが拾ったのだとわかった↓
「足にまといついてカワイかったからね。お宅がクロ(もっと洒落た名前をつけてたようだが)を可愛がってくれるなら何よりだよ」と彼は言った。
太った雌猫はうちの庭と自分の家の庭をテリトリーにしっかり守り、トラジも追い払われていた。クロはこの雌猫を母代わりに初めの数週間を過ごしたと見えて仲が良かった。
妹の白ネコと、プチット(petite chatte )と呼んでる雌猫は病気がちで白は一日家の中で過ごし、プチットは庭の草の陰でいつも寝ていた。
アスリートで躾正しくテーブルには決して上らず、餌を準備する間もストイックに両脚を揃えて待っていたトラジと違ってクロはお行儀悪く、わがままで、ハムや肉を切る間も待ちきれず台に飛び乗ってくる。
リラックスして手足をだらりと伸ばして横たわる姿は、どこかローマの退廃貴族を思わせる。たぶん、パリで生まれて、田舎に車で連れてきた時に捨てられたのだろうとカミサンと話した。捨て子の孤児だったのをセバスチャンに拾われた。
セバスチャン夫婦は母屋をめのお夫婦に売って5キロ離れたところに広い土地を買い、家を数軒建てて gites rurals (バカンス中の貸家)を始めた。3日置きくらいネコに餌をやりに立ち寄る。
去年の秋、クロが急に痩せ始めたのが心配で獣医さんに診て貰った。採血をして検査をした結果、セロポジテイヴと出た。エイズに感染していたのだ!
元気で野性的だったがゆえに「エイズに罹ってしまったのだ!」
今、クロは1ヶ月半毎に注射を打ってもらっている。注射の後は元気に動き回っているが、1ヶ月も過ぎると元気がなくなり陽だまりで寝ていることが多い。口の中が赤く喉に白い炎症ができる。息が臭い。病気を静かに耐えている気配だ。
心配なのは、いまいる3匹目の仔猫(仮名ちびトラ↓)にクロのエイズが伝染すること。クロはじゃれつかれると煩がり、じきに手を出し爪を立てる。それに、どのネコも他人の皿から人さまの食べてるものを盗み食いするのが大好きだ。
エイズは唾液からも感染する。
「ちびとら」も雄なので、メスを争ってエイズに感染せぬよう去勢すべきか?
そろそろ決めねばならないのだが、雄猫の生甲斐でもあり生きる根源でもある生殖能力を人為的に奪ってしまう去勢にカミサンは抵抗を感じ決めかねております。









