認知症の父が退院したので、特養に会いに行きました。

 

 

 

 

 

 

自分の年齢をちゃんと言えるから、今日は頭が冴えてるのかな?と一瞬思ったんですよ。

 

でも、きょうだいの存在を忘れているあたりから雲行きが怪しくなってきました。いつも通りといえばいつも通りではありますが。

 

 

「今日はこれから一緒にカキゾエに行こう」

と父は神妙な面持ちで言いました。

 

娘「え、何?書き初め?」

父「カキゾエ!今から行こう」

娘「お父さん、わたしは今日お家に帰るから行けないよ(どこだか知らんけど)」

父「ええ?そんなこと言わずに一緒に行こうよ」

娘「お父さんだって、今日はここ(特養)に泊まるんだから行けないでしょう」

父「カキゾエに行って、2〜3時間したら帰ってくればいいんだよ。あんた一人じゃ行きづらいだろう?おれも一緒に行った方が気が楽だろうから」

 

とにかく、父が「カキゾエ」なる場所に一緒に行こうと繰り返し繰り返し誘うのです。

 

「ちょっと待って、お父さん。『カキゾエ』って何?」

と問うと、父はちょっと止まった後に答えました。

 

「(祖父)さんの家のことだよ」

 

 

なるほど。スタイルズ荘みたいなことか、とわたしは思いました。

 

「スタイルズ荘の怪事件」はミステリの女王アガサ・クリスティのデビュー作。海外では家に名前をつける文化があるらしい。住んでいる人の名前とは関係ない。

 

 

 

娘「カキゾエって地名じゃないよね。どんな漢字を書くの?」

父「ひらがなだよ」

娘「(祖父)さんの家のことをカキゾエって呼ぶの?」

父「(祖父)さんの一族のことをそう呼ぶんだよ。おれなんかは子供の頃、『カキゾエの◯◯ちゃん』と呼ばれたもんだよ」

 

スタイルズ荘的なことじゃなかった。

 

しかし、ふと思いついて、

「もしかして、同じ名字の人がたくさんいるからそうやって区別してたの?」

と問うと、父は、

「それもあるねえ」

と言いました。

 

今までカキゾエなんて言葉、一度も口にしたことなかったのにこの日はやたらカキゾエに固執していました。

 

話を掘り下げていくと落ち着いたようです。話がそれると最初の目的を忘れてくれるので助かる。

 

本当に祖父の一族がカキゾエと呼ばれていたのかどうか、それすら怪しいと思っています。

父の言うことが事実でも作話でも、もうどちらでもいいのです。