特養に入所中の父に会った時の話の続きです。
ビニールカーテン越しに向かい合って座っていますが、父はあまりわたしを見てくれません。
スケッチブック(「娘が会いにきた」と買いてある)を出したままにしていると、そこばかり注視するので今回は伏せてみました。
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しかし、やはり父はあまりわたしを見てくれません。窓の外の景色に目をやります。
「あそこに遊園地があるみたい」
と父が言う方角には、子供用の遊具がありました。保育園か幼稚園のようです。大きな鯉のぼりが飾ってありました。
「お父さん、あそこに鯉のぼりがあるよ。木の陰になって見えないかな?」
わたしが言うと、父は窓の外に視線を泳がせて鯉のぼりを探します。
「おー、あったあった。本当だ。鯉のぼりだ」
鯉のぼりを見つけた父は、椅子に横に座り身体ごと窓の方に向けて熱心に鯉のぼりを見つめます。
「鯉のぼりと言ったら五月だな。今は五月か?」
と父は言いました。
惜しいね、四月だよ、と訂正してしまいましたが、五月だと肯定してもよかったかもしれない。