綴 of  ハチミツバイカイシ -3ページ目

綴 of  ハチミツバイカイシ

文字によって気持ちを伝えたい。
そんな気持ちで旅の日記と
小説:掌編~長編までを書いているツヅレのページです。


「綺麗だね、空。」


土手で右隣に座っていた奈々の声ではっと我にかえった。


「そうだね、紫の空。」


何のひねりもないオウム返しのような返事をするのが、私の今できる精一杯の言葉だった。風は全く吹いていない。


「紫?」

「え?」

「紫じゃないよ、ハル。ほら、ちゃんと見て、あそこ。」


奈々の指差す先を見る。頭が重い。


「あ、緑色。」

「そうだよ、ハル。よく見なくちゃ。空はさ、気分屋なの。毎日、ううん、ちがう、一分一秒で機嫌が変わるの。だから、あの緑色が現れたのも、それから、あの緑色が消えるのも、全部一瞬。」


奈々が何を言いたいのか、私にはわからない。そんなことよりもさっきから、目の前が暗くなったり明るくなったりしている方がよっぽど気になる。


体調がここのところ悪くて、ずっと奈々の誘いを断っていた。奈々はその度に気遣ってくれていたけど、私にはそれが悪い気がしてどうしようもなかった。だから今回はちょっと散歩だけでも、という奈々の誘いにのったのだけど、やっぱり失敗だった気がする。



「ハル?」

「ん?」

呼ばれた声にようやく奈々の方を見た。横顔からみてとれるいつになく真面目な、ちょっと儚い表情。

切れ長の目。ややつり気味。こじんまりした鼻と口。一見きつい顔立ちに見えるけど、笑った時の顔は誰にも負けないくらい可愛らしい。そんな風に見える同い年、同じ誕生日の、赤の他人。細い、整った髪が彼女の輪郭にそって流れている。

奈々はこちらを見ないまま言った。


「ハル、早く、元気になって。」

「え?」

「ハルが、元気にならないと、私、辛くて、おかしくなりそうだよ。」






義之が、交通事故に遭ったと聞いたのは2週間前の夕方だった。部活からかえってパソコンでメール画面を開いたら『緊急』とつけられた題名のメールが入っていた。


「加藤義之が交通事故でなくなりました。明日、17:00よりお通夜、翌日10:00よりお葬式です。何かあったらこちらまでご連絡ください。

090-xxxx-xxxx (井上拓真ケイタイ)」


最初は何のことかわからなかった。

何の冗談かと思った。だから私は焦っているフリをしてすぐに井上に電話をした。


「ハイ。」

「井上?あのメール何?」ちょっと笑いをこらえながら。

「・・・。」

「井上?えー?ちょっとー?」

「メールの通りだよ。藤原はどっちいくの?俺は両方行くから、行くならのっけてやるよ。」

「は?何?冗談でしょ?ちょっとー、・・・。」

「まぁ、決めておいてよ。今日、遅くまで起きてるから、何時でもいいしさ。連絡して。」

「え、あ、うん・・・。」

「じゃあ。」

「じゃあ・・・。」



それからはよく覚えていない。気づけば私は両方に出席していた。


加藤義之、私と菜々、井上と四人で小さいころからバカばっかりやってきた仲間だった。中でも私と義之は遊びにしても、勉強にしてもいつも競っていて、かと思えば辛くなったときや悩んだ時にはお互いに相談し合った信頼できる関係だった。男女の友情なんて成立しないってよく言われたけど、私と義之に限っては間違いなくそこに友情が成立していた。


大きな大きな箱に入った義之の顔は、正直、見ても誰かわからなかった。それまで洪水のように溢れていた涙は、その顔を見た瞬間にぴたっととまった。隣に付き添ってくれていた菜々の方を見て、

「誰?これ?」

と聞いた。それを聞いて奈々が泣いていたのは覚えている。





それから私の体調は優れない、と奈々はいう。そんなつもりではないのだけれども、私も時間の感覚がわからなくなっている気がするから、もう何が本当なのかはわからない。


「ハル・・・。」

膝を抱えてうつむく奈々に、私は罪悪感を感じていた。

「ごめん、菜々。」

重たい腕をあげて、奈々の頭に手を載せてみた。びっくりしてこちらを見た奈々は、顔をくちゃっとして私に抱きついて激しく泣いた。

ああ、ごめん。

と声にならない声で言った。



「菜々、ハル!」

遠くから聞こえる声。奈々は顔を上げてその声の方を見る。私も奈々からそちらに視線を移した。走ってくる背の高すぎるその姿は、見慣れた、だけども久しぶりのような姿。

「井上・・・。」


「菜々、ハル!今、義之の家に行ってきたんだけど・・・。」

息を切らして走ってきた彼の片手には紙袋が握られていた。

「これ・・・。義之のお母さんが・・・。きっとあんたたちのだって言って・・・。」


奈々がその袋を受け取る。

そして中身を出す。


「あ。」


そこには絵が書かれていた。




土手沿いに並ぶ3人の座った後ろ姿と

妙に縦長の一人の男。


その背中越しに見える

大きくて美しい


緑色の空。




私は空をみた。

いつの間にか緑一色に染まる大きな、雄大な空。


「ハル・・・これ・・・。」

「うん。」


その絵を見ていると

何かが左肩に触れた気がした。

ちょっと温かい安心できる感触。


「菜々・・・。」

「何?ハル。」


「義之は、ちゃんとここにいたね。」


私は空を見つめながらそう言った。

奈々は多分笑顔になったんだと思う。

「うん、そうだね。ここにいたね。」

声がちょっと明るかった。



「なんか、俺も嬉しかったらさ、お前らにみせないとって思ってさ。」

「ありがとう、拓真・・・。」

「じゃー、井上、菜々、今日はこのままカラオケにいこうか!久しぶりに!」


私の誘いに二人はちょっとびっくりしたような顔をしたあと、顔を盾に振ってくれた。


「ジャンカラにするー?」

「今日はシダックスで豪華に・・・。」

「豪華っていうか、それー。」

「いいじゃん、いっつもクーポンどうのこうの言ってる人がそんなことよくいえるよねー!」

「はー、うるせーし!」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



いつの間にか頭の重さも、体の気だるさも、貧血のような感覚もなくなっていた。


私はふと空をみた。

空はそう、もうすっかり真っ青になってさっきの緑色なんて誰も信じてくれないような機嫌になっていた。

多分、もう緑色のそらなんて見ることはないと思う。

だってもう、そんな不安定な機嫌になることはないから。


もう大丈夫だから。


















唐突にそれは降って湧いてくる。

あることないこと全部含めて一気に。


私は蟻の行列を見るといつも思う。

なぜ彼らは生まれ朽ちていくのか。

そしてそれから空を見上げて

空に地球が包まれていることを不思議に思う。



最近薄めのブラックコーヒーを飲むことができるようになった。

まだ砂糖は一本まるまる使用しなければいけないけれど。


でもあまり美味しいとは思わない。

それでもミルクを買う手間を考えたら

これでもいいかと思ってしまう。



いつもそう。

何かに追われて

何かに流されて。

そうして生まれ、生き、沢山のもののそばに歩み寄っては離れ、

そうして朽ちていく。



波のように。



海は母なる空間と言われる。




ああ、だから。




瓶についているコーヒーの粉を

トントンとして落とす。

資料に目をやり

沢山の暗号で作られた世界へ。


この作業一つ一つが

本当に母なる空間から生まれたものとして相応しいのか

不安になる。

そんな不安を抱えたままで

私は・・・



私は・・・





時計を見て思う。

もうすぐチャイムがなる。

そしたら



旅に出よう。


不安を抱えて

絶望を感じながら


旅に出よう。


涙をためて

打ちのめされて

悲壮感を漂わせながら



旅に出よう。


そうして

また新しい空に包まれたつもりで。

また新しい母とであったようなつもりで。



またコーヒーを飲もう。

砂糖がなくても美味しく飲めるようになるために。


桜が満開であるよりも

緑のふんだんに混ざった淡い花々が好き。

雨の中で滴る花びらに

ほんの少しの想いをこめる。


あんなことがあって

こんなことがある。

季節が一周して、またココに花びらがつくとき、

去年の私とは違う私がそこにいる。


でも、私は私で、

桜は桜だ。


写真にそっと手を伸ばして

見開きをめくったときに

そこに確かにある真実。


偽りない鮮やかな真実。



前をみて。

遠く遠くを見据えて。



またこの季節が来ることを

愛おしいと思いたい。


両親たちはその昼過ぎに帰ってきた。走ってきたのか、全員が頬を赤らめていた。春子、と勢いよく肩をたたかれ振り向いた私の顔を見て、母は驚き、踵を返して受付へ走って行った。そうして、4人そろって、祐樹の眠る部屋へ向かった。


私は結局あれからどうしたらいいのかわからなくて、待合い室から見える外の景色をずっと見ていた。空は見たこともないほど快晴で、遠くの山までくっきり見える。木の生えそろっていない様子まで見えて、何度か遠近感を失ってしまいそうになった。時々、隣に誰かがいる気配がした。それは紛れもなく祐樹のそれだった。そんなのは見なくてもわかる。その気配は私を見つめていて、今にもあの甘ったるい声で私の名前を呼んでしまいそうな、そんな状態だった。

でも決して。決して私はその顔を見ようとはしなかった。見てはいけないと思った。だって、見てしまうともう立ち直れないと思ったから。そこに祐樹は確かにいた。けれどきっと私は、それを見た途端に失望してしまう。もう二度と祐樹を失いたくないと思ってしまう。次に祐樹がいなくなってしまったとき、私はきっと私ではいられなくなる。祐樹を悲しませてしまう。


「祐樹。」窓をみたまま呼ぶ。外の景色はもう視神経を通っては行かない。


私たちはきっと最初からそうだったのだ。出会ったとき、いや生まれた時から。生まれるその前から。命が芽生えるその瞬間から。もしくは、私の母と父が、祐樹の母と父が出会ったその瞬間から。私たちはお互いに愛し合っていた。深く深く愛し合っていた。それはもう、片方が悲しそうな顔をすればもう一人はムチで全身を切り刻まれるように。どちらかが怒りを感じれば、その他方はその怒りをおさめるために自分の身をいけにえとして差し出す所存で。そうしてその時間は地平線よりも長かった。出会ってもいないのに、出会ってもう数百年が経とうとしているように。もうお互いがお互いのことを知りすぎてしまっていて、今更「愛してる」なんて言えないほどに。だからこそ、私たちはその大切さをどこか遠くにしまっておいた。愛おしさを見えないように隠しておいた。だってそうしないと私たちがそれぞれ違う場所で、お互いの知らないうちに消えてしまうから。その大きさに、一人一人ばらばらにいると耐えられなかったから。


今、お互いは片方ずつしかいられない場所にいる。隠しておいたものがどどんと見える場所にさらけ出されてしまっている。けれど、今はまだ手に届かない。触れたくて、抱きしめたくて仕方がないけれど、まだ私はその感触を実感できずにいる。もし、今。私の手にそれが触れてしまったら、もう二度と私は話せない。きっと、飛行機が目の前まで迫ってきても、私は動かずにそれを抱きしめて佇む。



「祐樹。」

『ごめん。』


名前を呼ぶと、すぐ後ろから祐樹の声が聞こえた。


「祐樹?」

『一人にしてごめん。』


「祐樹…」

『ずっと守っていくつもりだったんだ。』


「祐樹。」

『でもいつでも傍にいるから。』


「祐樹…やめて…」

『姿がなくても。』


「お願い・・・。」

『だから元気をだして。』


「行かないで…。」

『悲しい顔は見たくないんだ。』




「祐樹…!」

『愛してる。』

振りかえったと同時にぶわぁっと風が抜けた。神風のように、全てが後ろへ流れていくような錯覚をした。一瞬見えた口元は、確かに笑っていた。そうしてその先には、祐樹そっくりの父親がいた。






あなたのことが私から外せないでいる。

全てのモノが私から離れないでいる。


あなたからの言葉も

あなたに纏わる物たちも

これからも形のないものまでも

私から離れてはくれない。



あなたはやさしいね。

でも。

私だけじゃない。

他の誰にでも。


わかってるから辛い。

わかってるから悲しい。

でも。

わかってるから気兼ねなくって。

わかってるから罪悪感も少しは少なくなる。


どんなに想っても想っても

あなたは近づいてくれない。

でも。

どんなに伝えても伝えても

あなたは決して離れてはいかない。



会いたいよ。

毎日会いたい。

本当に、心から。

たった5分でもいいから。

毎日会いたいの。


会いたいっていったら

はぐらかさないで

そっと会いに来て。

とんとんってドアを開いて。


でも。

絶対にあなたは来てくれないってわかってるから

会いたいって


伝えられるのよね。

届きそうな街並みに

目に涙が浮かぶ

白く甘いあの人の

手に触れていたいだけ

なのに・・・



キャンドルサービスが有名でとても素敵なお店

そう言って君は目の前にそっとナイフを置く

磨き上げられたステンレス

細く華奢な指先

ふと見上げた上目遣い

ぎゅうと胸が痛む



いつまでもこんなことが続くなんて

誰も思っちゃいない

だけどそれでもそれを願ってしまうのは

そう、君がこんなにも・・・



届きそうな街並みに

目に涙が浮かぶ

白く甘いあの人の

手に触れていたいだけ

なのに・・・



さようならは私から言葉で彼に告げた

彼は寂しげな顔をして優しく頷いた

最後に一つという君が

私に渡したモノは

翌月の私の誕生日

刻んだウェディングリング



君がこんなにも優しいから

心から泣けてくる

この道が正解かどうかなんて

ああ、自分自身ですら・・・



掴みきれない君の影

遠くに消えてゆく

私がもっと歩み寄れば

幸せになれたの

かしら・・・



私は私の道をいく

そう決めたのは私

でもそう決めたのは何よりも

私が辛かったから



届きそうな街並みに

目に涙が浮かぶ

白く甘いあの人の

手に触れていたいだけ



掴みきれない君の影

遠くに消えてゆく

私がもっと歩み寄れば

幸せになれたの。


きっと・・・




裕樹の甘ったるい声を思い出しながらゆっくり、3回読み直した。最後の行の『まっててな。』。私は裕樹の帰りを待っていた。でもそれは本当に漠然とした待機だった。ぼんやりと未だに工事の終わらない店を半分開店させて、絵本を読んでいた。ニック・バトワースの『雪の降る夜』。動物を擬人化したお話で、皆と仲良しの主人公の家に、寒さをしのごうと皆がやってくるお話。各々色んなところで暖をとる。その温かさが私は大好きで、よく私はこの本を読んでいる。時々、裕樹の声を頭で反芻させて、裕樹がこそこそと暖をとっている姿や、逆にお客様を優しくお出迎えしている様子を思い描いていた。


私は見入ってしまっていた手紙から視線を離し、今、眠ったように優しい顔をしている裕樹を見た。窓からの月明かりは丁度裕樹の顔を煌々と照らしていた。私はベッドの淵に歩み寄り、裕樹の頬に触れようとした。その時に私の手の影が裕樹の顔に映って、しかもそれがあまりにも黒かったものだからびっくりした。白と黒。そんな対比を見せつけられた気がした。頬はひやっとしていた。少し弾力もなくなってきていた。人さし指で少し強めに頬を押す。やっぱり少し硬い。今度は掌で、頬を撫でるように押してみた。何だか、低反発仕様の何かの様で。

私は少し焦った。何にかわからないけれど、早くしないと、と何かに駆り立てられるような、そんな感覚。バッと両手で布団から少し覗いている裕樹の方をがっしりと握った。思ったよりも骨ばった感触に驚いた。え、と思った時その時に思いがけずこんなにも近くにあった裕樹の顔を直視した。


傷だらけの真っ白な、顔。


それを認めた瞬間に、私は裕樹を激しく揺さぶった。肩においた手に渾身の力を込めて、肩が抜けてしまうんじゃないかと思うほどに、頭がとれてしまうんじゃないかと思うほどに激しく、強く、揺さぶり続けた。私の髪の毛は乱れ、裕樹の髪も乱れた。ガクンガクンと揺れる裕樹の体。私は裕樹の顔を見続けていた。そうすると、なんだか裕樹の目が突然ぱっちりと開いて『や、やめろよ。』なんて言って肩の上の私の手を、違う意味でも握ってくれそうな気がしたから。

「裕樹!裕樹!裕樹!」

私は大声で名前を呼んだ。ベッドががたがた揺れて病室の壁にドンドンぶつかった。

「裕樹!裕樹!」

裕樹の眼は開かない。

「裕樹!どうして?!裕樹!裕樹!」

「奥様!!おやめ下さい!奥様!」

「裕樹!起きて!裕樹!バドミントン!裕樹!」

「オクサマ!オクサマ!おやめ下さい!日置さんが可哀そうです!奥様!」

「裕樹!」

「オクサマ!」


は、とした時、私は看護師二人に羽交い絞めにされていた。状況がいまいちよく分からなかった。どうして、看護師がいるのか。あの淡々とした義務作業をこなすような態度。裕樹をそのまま放置したこのこの人たち。

「は、離して!」

両腕を激しくバタつかせた。

「奥様!じっとしてください!」

「何よ、あなたたち、裕樹を見離したくせに!」

「今、奥様が日置さんにしたよりはましじゃないですか!!」

「・・・え・・・?」

一瞬時が止まる。

「私がなにしたっていうの!?」

「日置さんを見ればわかるでしょう!!」


怒声にすこし怯みながら私は裕樹を見た。さっき、裕樹の手紙を読んだ位置辺りで、今度は羽交い絞めにされたまま。そこにあったのは、歪んだベッドの上に横たわった、服や髪がぐしゃぐしゃに乱れて、左右の肩の位置がずれ、口が半開きになった裕樹の姿だった。


「ゆう・・・き・・・。」

「こんな姿にして、あなた、日置さんが喜んでいると思っているんですか。」

「ああ・・・・あ・・・ああ・・・。ああああ!ああああああ!あああああああああ!」


力の限りに叫ぶ自分に、まともな判断が出来ていたとは思わない。けれど、その時の私は自分を冷静に客観視しながら、また自己の意識も持っていた。出てくるモノは涙と叫び声。拭う事もなく、また裕樹の体にしがみついて、今度は強く抱きしめて呼んだ。


「ゆうきぃぃぃぃぃぃ!!!あああああああ!」


いくら叫んでもいくらないても、いくら呼んでも気持ちは納まる事を知らない。最後には声がでなくなって、あんなに苛立ちを覚えていた看護師に介抱されて落ち着きを取り戻さねばならなかった。


今まで、腐れ縁だと笑いあっていた頃も、想いを伝えられた夕日も、結局翌日になくなってしまったシチューの味も。今になって目の前に現れて、まざまざとその幸せを突き付けられた。裕樹の存在がこんなに私の中で成長しているなんて、全然知らなかったのだ。なんて、なんて愚かなんだろう。そうぼうっとしながら想っていると、肩にそっと手がおかれた。看護師だ。


「人の大切さは、人がいなくなって初めてわかるものです。どんなにわかったつもりでも、結局いなくなって気付く大きさは、計り知れないんです。みんな、そうなんですよ。奥様が愚かなのではありませんから。」


私は看護師の顔をみた。日の出にほんのり照らされた横顔。その顔が妙に神秘的だった。ああ。と思った。ああ、この人も、きっとそうだったんだ。私と同じ事をしてしまった事があるんだ。


「知らない事って、まだまだあるんですね。」

呟いた私にびっくりしたように看護師が私を見るのが分かった。そして優しく、

「そうですね。」

と彼女は言ったのだった。




最近そんな言葉が有名で。

少しは納まった想いも溢れて来てどうしようもなくなって。


そんな目で見ないでください。

小さな目

小さな手

小さな顔

優しい気持ち。


ああ、大好きで大好きで。



どうして想ってもらえないのかなぁ。


でも、そうやって傍にいてくれるだけでいいよ。

何にも問題ない。


だぁい好きな君の笑う姿が

一番穏やかに眺められたら

それはとっても幸せなことだよ。


ん。

それがいいな。

あまりにもストレスフル!!

ってことで強行敢行いたしましたドキドキ

最初は石川県に行こうとか言ってましたシラー

いやいやいやいや!無理!っていう同伴者Kちゃんの漸くの制止(笑)

渋々他を探していたらありましたラブラブ


安くて古目で朝夕ご飯ついてて!

っていうのが二つ。Kちゃんに選んでもらいました音譜『清瀧旅館』 ですアップ



あ、ではここでKちゃんの紹介。

小学校3年くらいの時にKちゃんが我が学び舎に転校してきました~。で、私が話しかけたのがきっかけ。家が偶然にも近所で一緒に家に帰るようになりました。何でもずばぁぁぁぁっという性格の女の子。印象的なのは『綴ちゃんってなんでそんなに重たいの?』(自転車二人こぎを交代でしてるときに)(笑)流石のKちゃん。でも、そんなKちゃんだからこそ。私がもうしんどうっくて仕方がない時、どうして生きているのか分からないと悩んでいたときに一言!『綴れちゃんの存在は私が自分の次に大事な存在なんですから!綴ちゃんが死ぬなら私は泣きます。』と。いやー、そんな時にもKちゃんは『あなたが一番大事な存在です』なんて言わないんですよね~(笑)Kちゃん、私の大事な唯一の親友です。そんなKちゃん大学中退です。その理由も…

『出来ない人に嘘ついて、希望与えようとして、落ち込んでしまって、何のために何をしたら、誰の為になるのか分からない。』

Kちゃんぽいでしょう(笑)4年生半ばでやめました(笑)

でもその進路変更の姿も大好きです(笑)

一緒に住まない?と訊くと、速攻で『イロイロ無理!』ってちゃんと正直に答えてくれる子です。無理とわかってて訊いたんですから、そこで『うーん…ちょっと難しいかも…』とか遠慮されたらなんだか歯がゆいですしひらめき電球


そんなKちゃん。

時々電話をすると色んな話をしてくれます。そして私の心配をしてくれます。ホント、いい子です。



当日待ち合わせ時刻より1時間遅れての再開ドンッもう既に笑えます(笑)私はご飯を食べていなかったんで、京都駅に送ってもらうまでの間にマクドナルドを食しました車健康に悪いなぁなんて思いながら、それでもお腹いっぱいになって満足。もう段々面倒くさくなってきたりします(笑)



野洲行きや米原方面の電車に乗る我々。


『何回もこの方向行く電車に乗ったことはあるけど、本当にここまで行ったことってないよね!』

「ないない!なんかわくわくするね!」


なんてわけのわからないテンション(笑)決して我々電車オタクではありません。そういえば彼女、待ち合わせ場所にもこの方面の電車乗ってきたそうです。


『現地集合でよかったやん!』


いや、確かにそうやけど、折角一緒に行くのになんか寂しいやん(笑)と思いながら、そこは胸に秘めておきました(笑)


窓を流れていく景色はものの10分で、実家を思い出させる田舎に変化。穏やかな田園…とまでは流石にいかないですけど、白鷺がいてほしいと思う程の安らぎです。


「何か雨降りそうやな…」

と私が心配そうにいうと、

『あははははっ』

と何やら妙に楽しそうに笑ってくれました。何がそんなに楽しいんだ(笑)


滋賀駅に着いたのは3時半。もう段々暗くなってきています。…何しに来たんだ?(笑)取りあえず地図を見ながら旅館を目指す!路分からんけど!



榊田春子。それは私の名前だ。しかし、必要以上に違和感があった。

「春子…。」

私は裕樹に一度も名前を呼んでもらったことがなかった。私の両親は勿論、裕樹の両親も私を春子、と呼ぶのに、裕樹だけは呼ばなかった。そして私もそれを嫌だとは思わなかったし、「榊田」もれっきとした私の名前に違いはなく不思議にも思わなかった。由来は、私が冬に生まれたからだ。父も母も夏が大好きで―それも尋常じゃない。夏にしか生きる意味なんてないと言いきってしまいそうな勢いで夏を楽しみ、夏に生きて、夏を愛している―、そうして二人して、冬をそんなにかと思うほどに嘆く。そんな彼らの子供が冬に産声を上げたのだ。『寒さを引きずるのではなく、暑さの先駆けになる子になって欲しい』、そんな気持ちを思ってつけたらしい。そしてその願いは上手く叶い、私は夏になると元気になってその終わりがけから家の滞在が時間の大半を過ごす体質になった。裕樹にはよく、少しは外にでないと鈍ると言って外へ引っ張られたものだった。



封筒を空けるのには少し戸惑った。何が書いてあるのか全く予想できなかった。乱れた字に改まった宛名。ほんの少し震えている自分を感じて、裕樹の死を目の前にしているにも関わらず、それよりも彼の想いを知ることの方が怖いだなんて、なんて私は自分に甘いんだろうと思った。それと共に、こんなにも不安がっていた自分の気持ちを知った。

「もう、何もないんだから。知らないより全部知ってしまった方がいいでしょう。ね。」

一人呟いて言い聞かせ、封を開けた。



榊田春子様。


お仕事お疲れ様です。

今、実はそっちに帰る準備をしています。これを渡す時にはもう直接会っているわけなんだけれど、何だか今手紙をどうしても書きたくなってしまったので。字汚くてごめん。あの硝子のテーブル割れちゃってさ。木のやつかったんたけど…がたがたしてて。


そんなことはどうでもいいんだけど。なんて書いたらいいのかな。

榊田。

僕さ、実は海外へ行くことになったんだ。っていってもマレーシアな。そんなアメリカとかさ、ヨーロッパとかさ、全然そんないいとこじゃないんだけど。交流戦が前にあったんだ。その時に向こうの監督に…。ね。


そこでなんだ。榊田。

一緒にマレーシアで生活しないかな?向こうなら、ずっと夏だし、嫌になる時もないし…。きっと生活も苦しくないと思うんだ。


つまりさ。

春子、結婚してくれないかな。

こんなこと手紙で書くことじゃないから、頑張って口で伝えたいんだけど…もしかしたら言えないかもしれないから…。こんな情けないやつなんだけど、春子、守ることは約束できるよ。信じてもらえるかな。

ずっと榊田なんて呼んでてごめんな。春子って呼ぶのはこれ言ってからにしようと思ってて…。とかっていってみたり…。


春子の返事がどっちでもこの手紙は渡すつもりなんだ。だから受け取ってくれるだけでも十分嬉しいかな。



では、そちらに向かいます。待っててな。



日置裕樹。