綴 of  ハチミツバイカイシ -2ページ目

綴 of  ハチミツバイカイシ

文字によって気持ちを伝えたい。
そんな気持ちで旅の日記と
小説:掌編~長編までを書いているツヅレのページです。


遠くで


何かが軋む音がした。

錆び付いた鉄が想像を絶するほどの圧力で

擦れ合う音。


ギギギギギ

ギ、ギ、ギィィィギギギギ



いつもは遠くに感じていただものが

この日ははっきりと音として聴こえた。


私はとっさに持っていたワイングラスを握りしめて

周囲を警戒した。


ギギギギギギギギギ

ギィィィィギギィギ


怖い。

たったひとり、この屋敷に住みだしてもう3年になるが

こんなに気を張り詰めたことはなかった。

そういえば、

この屋敷はこんなにシズカだったんだ。


ギギギギギ

ギギギギギィィィィ



ギギギギギギギ

ギギギギギギギ

ギギギギギギギギギギギ


その音はだんだんと大きくなり


ギギギギギギギギギギギギギギギ


そしてついに


耳元で


ギ


といって

音は消えた。





怖かった。

とても。

何者かわからない者が近づいてくる恐怖。


どうなってもいいと思ってここに住むことを決めたのに。


最初から言われていた。

ここは怖い場所だと。

入るヒト入るヒト、すぐになにかわけのわからないことを叫びながら出て行ってしまうと。


それでも私はここがいいと思った。

怖くたって

辛くたって


たったひとりだって。


ここが最後の場所だというのなら

それでいいと思った。



それでも



とても。


怖かった。




最後の場所ならば

いつどうなったっていいはずなのに。

最後の場所ならば

守るものなんて何もないはずなのに。



たって一人でもなにも思わないはずなのに。




自分自身の感覚に戸惑いながら

ワイングラスをテーブルにおき

ソファに腰掛け

顔をあげると




目の前に女の子がいた。

可愛らしい目の大きな赤いワンピースを着た女の子。

ちょっと笑った顔をシテイタ。


突然の来訪者にびっくりはしたけれど

私はとても冷静で


「こんにちは。」


と声をかけた。


「あなたの名前はなぁに?」


そうすると彼女は答えた。



ギギギギギ



と。



錆び付いた今にも壊れそうな鉄の塊が無理矢理擦り合わせられているような

恐怖の音。



ギギギギギ



可愛らしい半分笑った顔から出るおぞましい声。



ギギギギギ




でも、私は怖くなかった。

むしろ安心した。


ああ、一人じゃなかったんだと。



彼女が微笑んだまま背中からナイフを出したのを見ていながら


私は安心していた。



ギギギギギ



ナイフの切っ先が私に近づけられ

そっと首の皮膚に当たる。



可愛らしい笑顔。

おぞましい声。


きっとこの子も一人だったんだろうと思う。

皆に怖がられ、逃げられ、迎え入れてもすぐに裏切られて。


どんなに悲しい想いをしてきたのだろう。



ギギギギギ



皮膚が切られ温かいものが流れるのを感じる。



それでもやっぱり

私は怖くなかった。



ずっと前から、私は一人じゃなかったんだ、と、思った。



自らひとりを選んだはずなのに。


もう、一人だと感じなくていいんだと、

傷つかずに済むんだと

安心した。


女の子を見つめ、その笑顔に私もちょっと笑った。

すると。



ギギギ・・・


ふと女の子は笑うのをやめ、怒ったような顔をした。

そして



「早く、死にたい。」



と言った。

涙を流しながら。

高い、女性の声で。

私の皮膚をナイフで突き刺したまま。


「早く、死にたい。早く、死にたい。」


その顔は

どこかで見たことのあるような顔。

長いあいだずっとずっと見ていた顔。


「一人になりたい。一人になりたい。」


怒った顔で涙を流しながら

彼女は言った。


ずっとひとりだった彼女。

きっともう本当は死んでいるだろう彼女。

ずっと仲間を探している彼女。

生きたくて仕方がない彼女。






一人になりたいと思っていると信じていた私。

本当は一人になるのが怖くて不安だった私。

最後だと思っていたのに

最後なんてもっともっと遠い世界のものだとどこかで鷹をくくっていた私。



そう。

彼女は

遠い過去に置き去りにしてきた、まだ小さい小さい、なにも知らないはずの、幸せなはずの、


私だった。


何年も時が流れ

幸せな時に置き去りにしてきた私は

寂しさと辛さと絶望に傷つけられ

感情も表現できない、

学習すらできないまま

ずーっと


たった一人ぼっちで。


ここで幸せを待っていた。



今まさに私を殺そうとしている彼女は

本当はただ


私を置き去りにしないで


と言いたくて


本当にただ


人生を本体の私とともに歩んで行きたかっただけなのに。


それすらも言えないほどに朽ちて錆びて歪になって。



「早く死にたい。一人になりたい。」



そんな彼女に私はもう謝ることしかできない。


「ごめんね。ずっとひとりぼっちにしてしまって。」


次第に深まっていくナイフの冷たさに意識を朦朧とさせながら

私はいった。


「ごめんね。ごめんね。」



そうして

最後の私の意識が切れるときに彼女はいった。



「さようなら。」



と。





次に意識が戻った時は病院の一室にいた。

両親がパニックのように

「秋子。秋子!秋子!」

と叫んでいる。


医者と看護師が私を取り囲み、

指を立てたり振ったりして反応を見ている。


そのうちに警察まできて

まだはっきりとしていない意識の私に懸命に話しかけている。




そんなことはどうでもいい。

窓に映る自分の姿を見て

クビに巻かれた包帯に気づく。


「ねぇ、これ、何?」


誰とも問わずに口にしてみた。


そして誰かが答えた。


「あたしよ。」



と。

高い、女性の声で。



きっと、幼い朽ちて寂れた私は

これからはずっと一緒にいましょうということすらいうことができなかったのだ。




これから私は幼い私が私に溶け込むまで

一生懸命生きていかなければ行けない。

辛く苦しいときでも

せめて自分だけは信じてあげないといけない。


たったひとりで耐えてきた私のために。

そしてこれからを生きていく私のために。










どうして

こんな気持ちになってしまうんだろう。


それは偽りのない疲弊の気持ち。

人生には数え切れないくらいの山と谷があって

それをどの時代の人も

徒歩で、時に大きな荷物も一緒に超えていく。


その中で

僕は共に歩む人を排除した。

いつ飢餓で苦しみ、共食いされてしまうか怯えながら

懐のなけなしの温もりを盗まれるのかと警戒しながら

1世紀も歩き続けることはできないと

そう、判断した。


それなのに

不安と不信はどんどん重なり

何故か背負うはずのない荷物も重たくなって


下ろすことすらできなくなって



そうして失踪したくなる。

全部リセットして

一から十まで数え直して

記憶もまっさらにして。



「信じれないとかいうけど


そこは信じるようにしないといけないところじゃないの。」


きっとそうなんだと思う。

でも、僕はきっと早くに普通の人間をやめた。


「冷酷だ。」


と言われ続け生きてきた。


理解のできないグループ行動。

YES意外を認めない仲間意識。

出る杭をうってうって下から引っこ抜いてしまう人間関係。


そんな中に溶け込むなら

冷酷で生きていくほうが心地よかった。

少なくともそれよりは人間らしく生きれた。




眠りたい。

深く深く。

出来れば信じられる人のそばで。

半永久的に。

世界の人類が全て入れ替わった頃に目覚めて

もう一度ここから生きていきたい。


人間という生き物に

もうしたくはないはずの

期待を込めて。





私は。


人間のことがだいっきらい。




だと信じていた。

本当に鬱陶しくて

真実味を帯びなくて

もやもやしている

煙のような存在。


そうなんだと思っていた。


けれど

違うんだと初めて知った。




私は人間のことが大好きで

大好きで

大好きすぎるから


傷つけられるのが怖くて

疑って

疑って

疑って



何も信用できなくなってしまった。


そうして人のことが嫌いなんだと

勘違いをしていた。



まだこの事実に

全然納得がいっていないし

正直納得できるようになるのかすらわからないけど


真実はいつも意思とは別の場所にあるから

理解するしかない。


とても難しいことだけど

私にとってなかなか辛いことだけど


受け入れていきたいと思う。



綴


叩きつけるような雨が窓に映る私の顔をぐちゃぐちゃにする。

ベッドの上に座ってココアを飲みながら外を見る。

何にも見えない真っ暗な外。

湯気で窓が曇る。


『もう九時かぁ・・・』

独りごちてため息をつく。


つい一週間前まではこんなではなかった。

何もないただ平凡な日々を過ごしていた。

それなりに忙しくって、それなりに暇を持て余して。

なんとなく仕事をこなして、なんとなく小説を読みながらブレイクタイムを過ごしたりしていた。

そこになんの不満もなく―満足もなかったわけだが―波風なくそこそこ落ち着いた生活が出来ていた。


それなのに、だ。

そこに、まさか天変地異かと思うような衝撃が我が身を襲ったわけだ。

一週間前に。


桂雄二。

どこにでもいそうな、おちゃらけた中途半端なやつだ。

それが一週間前に

どこにでもいそうで、どこにでもいないやつという認識に変わってしまった。

お茶にいこうという話になって

車を走らせて

街を歩きながら話をして。

その何気ない会話の中に

いつもとは違う興味を見つけたのだ。

そのいつもとは違う興味の中に、私の心をくすぐるポイントが凝縮されていたのだ。


例えば、ふとした景色に感動した私の声に同調してくれたり。

例えば、ブラックしか飲まないと思っていたのにミルクコーヒーをがぶがぶ飲んでいたり。

例えば、同じ曲しか聞かないと思っていたのに私に合わせていろんな曲を流してくれたり。


本当にそんな些細なこと。

そんな些細なことが山積みになってしまって大きな塊になった。

いつもとは違う―いや、いつもがこっちなのかもしれない。それすらも知らない。―その一挙手一投足に驚かされて、魅せられてしまったのだ。


桂はそれがいつのも自分なのだろう。

なんら変わりない、一人じゃしないことだけれど、ちょっと気を遣ってしたこと。

それはきっと

子供が前を見て走ってきたら立ち止まってしまうような

家を出るときにテレビだけ付いていたら思わず消してしまうような

なんなちょっとした、気にも止めない気遣い。

ただただ、私の認識が間違っていただけの話。

その間違いに気づかされて

余計に揺さぶられてしまった。



そんなことがあって

今、私は冷めかけたほとんど満杯のココアを片手に何も見えない外を眺めているのだ。


全く、これは深刻な問題なわけで。

なぜならこのことは他の誰にもいうことができない。

相談したりいじけてみたりできればとても楽なんだろうけれども

そういうわけにもいかない。

これは世界を震わせてしまうほどの衝撃だったから。



今もなお噴水のど真ん中にいるのかとおもうような雨が降り続き

いよいよ雷の音と光の感覚が空かなくなってきた。

私は冷め切ったココアを片手にもったままテレビをつける。

天気予報では次々に発生している台風の続報をながしては

「命を守る行動を」

と視聴者に呼びかけている。


私は思う。

この衝撃が桂にも届けられるなら

こんな命を守る行動をとるよりも

この嵐の中を駆け抜けて桂に会いに行きたい。


冷たいココアを一気に飲み干す。

喉を大量の液体が流れて胃に貯まるのがわかる。

これが生きているって事なんだろう。

でも、桂に会えるならそんな感覚もいらないと思ってしまうのは

最早病気の範疇だと思う。

自分でもそう感じるのだ、馬鹿なことに。


強い脅迫概念にかられテレビの電源を消してベッドに戻る。

カラになったコップをもったまま布団に潜る。

少し残ったココアのぬくもり。

すぐに消えてしまう寂しさ。


外で雨がうねるような勢いで降っていて

なんだかよくわからないけど私の顔まで濡れてしまって。

手はふさがっているのでどうすることもできなくて

だからすべてのモヤモヤが拭えなくて。


そんな雨の日の夜。

私の中に一つ青い斑点を残した出来事。

一週間前の昼下がり。


一週間後の深夜0:00のこと。




風の香りが鮮やかで

どことなく心寂しくなる季節のせいなのかしら。

情熱的な気候が過ぎて

温かみのある色が目立ち始めそうな

10月。

遠くにあるのもは何でも美しく見えて

当事者になると

痛みがひどく感じられてしまう

この世の全ての通例に

何度も何度も悩まされて

そして私はいつも堕ちてしまう。

深い深い真っ赤な闇。


不幸になるとわかっていながら

なぜ法的には認められている関係は築くことができないのかと

ぐるんぐるん回る回る。


愛おしいのは不法の愛だと

それに嵌っている私を引き抜いて欲しいと求めている時に

現れたひとつの闇。


こんなに辛いのなら

法をを犯してでも癒しの中に住んでいたほうがいいと

必ず思うはず。


闇から闇への移動は

只の営業だろう。

それを承知の上で回る世界は一体。


ぐるんぐるん回る回る。

止まらない世界。

回る回る。

10月の寒さ。

ぐるんぐるん。

回る回る回る。

抜け出せない愛はもういらないとおもっていた9月の後悔。

目まぐるしく回る10月の気づき。

きっと回り続けている11月と12月。


愛を求めている10月の闇。



多少悔いがあっても後悔はしていないことは

たくさんある。

私はいつだってそう。

どんな道に進んだってどうにでもなるわけで。


ぐるっと一周しそうでしないバスのロータリー。

それはそんな状況によく似ている。


たくさん失うものがあるとしても

私には遠く遠くのことに感じる。

そしてそれは実は毎日きているTシャツと同じくらい密接にかかわっている物質。


迷って迷って

色んな人の期待を裏切って自分の道を進むことは本当にいいことだろうか?

たった数年でもそれはしていいことだろうか?


でも、例えそれに従ったところで

彼らは私のしたいことを唐突に述べたところで

受け入れてくれるのだろうか。



「今の生き方をやめたいの。遠くに行きたい。」



それを言うだけで

私は彼らにすれば異次元の生物に見えるわけで。


自分らしく、自分の思ったように生きるのがどうしてそんなにいけないことなのだろう。

自由になりたいと思うことは悪いことなのかしら。

自由になるには不安が付きまとう。


けれど

この日本のシステムに従ったまま生きていくのは

私には辛い。

苦しくて、非生産的で、痛い。

心も、体も。



よく考えると

私に逃げ場なんて必要ない。

だって、私はどこへでもいけるから。


本当は

縛るものなんて何もないんだから。


笑えるね。

この私の現状を作っているのは私だなんて

やっと気付くなんて。


自由になりたいといって

それを手にできていない現状を嘆くだけの生活なんて

何が楽しいのだろう。

嘆いてもがいている自分に満足しているの?


ロータリーに入ったバスは


出ていくの。

ちゃんと自分の目的地に向かって。

今、まだ私はロータリーにすら


入れていない。


遠い街にきた。

白い海が見えるこの街に。

今歩いている道をもう少しだけいくと

そこがこの街で一番高い場所だ。


そこからは白い海が見えるという。

その白い海を見たものは幸せになると言われていて。


白い海は決して珍しいものではない。

ある時間になると太陽と波と

そこに集まるイルカたちの加減で海が真っ白に見えるのだ。


つまり誰でも見ることができるのだ。



だからこの街の人はいう。



『私たちは、白い海を、毎日来る日も来る日も見ているから

皆がみんな、すっごく幸せなの。』



ここの人たちは

白い海を見ると幸せになる、というはなしを

根本から疑ったりしない。

その話はそう、


満月の日には狼男が目覚める


という話と同じように

心のどこかで信じきってしまっている

真実なのだ。



それを僕は見たかったのだ。

だからこの街にきた。



ここから見える景色



それが僕を幸せにしてくれるという事実を。



この街の一番高いところまであと少し

あと少し。

あと3歩。


2歩。




1歩。




そうしてそこから見えたものは。




黄色いワンピースをきて

麦わら帽子をかぶった

東洋の女の子だった。


まだアドケナサの残る真っ黒に日焼けした女の子。

帽子を押さえながら

半身でこちらを見ている。


目の白さだけが目立つ

真っ黒な女の子。




「あなた、誰?」



質問された声にはっとする。



「遠くから来たのね。海を見に来たの?」



そう、海を見に来たんだ。

口だけがそう動く。



「そう。今がちょうどいい時間よ。」



ほら、というように両手を彼女自身の前に、海へ向かって広げる。



「白い海はね、私たちを幸せにしてくれるの。なぜだか知ってる?」



いいや。

僕は首をふる。



「それはね。」



僕は不幸になるのかもしれない。



「そこに海があって、太陽があって、生き物がいて。

時間と私たちという生活があって。

何千年と変わらない流れをつくってくれている証だからよ。」




ねぇ、君。

君が海を隠してしまって見えないんだ。



「あ、私がいたらよく見えないわよね。」



道の横へずれたって一緒なんだ。

真っ白すぎる海を背景に

ピントは君に合ってしまったままなんだ。



「遥。私、はるか、っていうのよ。

ここの下町に住んでるの。


またね、おじさん。」



ああ、またね。




僕は多分ここに来て不幸になる。

叶いもしないくせに

少女から目を離せなくなってしまって

それからもう二度とあうことなんてないんだから。



白い海。



不意に見たものは幸せになる。


そういう風にこれから言い換えて伝えて欲しい。

僕のような不幸なものを出さないために。





遠いところで静かな音が聞こえる。


キーン


何もないときに聞こえるあの音。

真夏の昼下がり。

誰もいない

何もない

昼下がり。


それがいいことか悪いことかわからないけれど


ここに私しかいないということは本当のところで。



そうね。

今日はここにいよう。


無機質な草原に

透明感のない空気

あたたかみのないコーヒーに

有機質なコンクリート


そんな混沌とした世界に

ただひとり


無機質で

無色で

無形の


私だた一人。


笑っている私、ただひとり。


そう。

今日はここにいる。


その事実こそが

根っからの真実で


明るい

沼の底から伸びてくる

希望の刺。


そんなトゲトゲした優しい世界に

私はずっと浸っている。

そんな四半世紀。


そんなのも、悪くない。

そんなのは寂しすぎて

素敵かもしれない。


そんな静かな昼下がり。


ああ、幸せだ。

一緒にいるだけで温かくて、心地いい。

不安もなにもない、そんな空間。


恋だとか、愛だとか、そんなものは

もう役所に紙を出した時に



捨てた。



これでもうあとは自分の人生だけを歩めばいいと思った。



それが。

まさかこんなことになるなんて。



年下は眼中になかった。

いや、女なんてどうでもよかった。

だって僕は法律上妻という続柄を抱えているから。

そこに愛があろうがなかろうが。

そういうものだと思っていたんだ。

そういうものだと信じていたんだ。



それが壊れたのはほんの少し前。

たった半年。

そんな短い期間に

この何年ものあいだ信じてきたものが

一蹴されたのだ。



彼女は言った。

僕が法律に縛られていることは最初から知っていたと。

じゃあなぜ。

なぜ僕に返事をよこしたんだ。

確かに。

今までにない衝動に駆られ

もう一度会いたいと、

このままもう会えないなんて嫌だと思い

僕から連絡したんだ。

でも

君が返事をしなければ

ここまで・・・



幸せを感じることはなく



そのままでいられたのに。




彼女はまた言う。



法律は関係ない。

法律は

人が幸せに生きるためにあるものなの。


だから

私が幸せだと思う道を選んだの。


ただ。

それだけよ。




彼女は僕の胸の中で眠る。

壊してしまいたいほどの衝動を僕はまだ理解していない。


ああ、このままでいたい。

この温もりを抱えていたい。

守っていきたい。

彼女の笑顔がその衝動を強くする。


幸せだ。

元々形のないものを形にしてしまったことを後悔してくやみ。

しかしその形をなくそうとしない僕は

何なんだろう。

今、そしてきっとこれからも

形のない幸せ。

形の生まれない幸せ。


葛藤を描き

心模様に酔いしれて

顔を顰め

彼女を見る。



その安らかな顔に

この幸せを至上だと感じる。


ああ、馬鹿だ。

いや、馬鹿でもいい。

このままの幸せを


死ぬまで抱えていきたいんだ。









ここのところいろんなことを沢山考えていました。

そうして色んなことに諦めを付けることができました。


そうするととても穏やかな気持ちになって

永眠につきたいなと思いました。


とても前向きな永眠。


何か大きな不安がごっそり私を飲み込んで

涙が溢れてどうしようもなかったので

数限りある先のいくつかに連絡を入れてみて。


でもその連絡をいれた先は

一つだってつながることはありませんでした。


きっとみんな忙しくて

慌ただしい一日を送っているんですね。


そうしたら

私の中でひとつ、あきらめがつきました。

一つあきらめがついたら

また一つ諦めがついて


最後にとても穏やかな気持ちになりました。



凄く幸せな諦めでした。


私はある人に言いました。


「今ならここからいなくなっても私は幸せだ。」



それから数日たって

私の中でまた不安が溢れかえって。

今その真っ只中。


今度はいつ穏やかになれるのかしら。

もう諦めるものは他にはないのに。