今週の刃牙らへん/第13話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第13話/人類史上二人目

 

 

 

紀元前564年、古代ギリシャで行われていた、現代でいう総合格闘技であるパンクラチオンで、嚙みつきが実行された。スパルタ代表のメガクレスという男である。相手のヒゲの男は、左腕のあたりから出血している。とはいえ、食いちぎったとか咀嚼したとかそういう次元ではなく、歯をつかって攻撃したくらいの感じかもしれない。

ヒゲの男は審判に抗議する。これが容れられたのかどうかは不明だが、女のように噛みついたというクレームに対し、メガクレスは不敵に笑いながら、ライオンのように噛みついたのだといいなおすのだった。

 

このメガクレスが、ジャック以前で唯一、公式試合で嚙みつきを用いた選手だという。

それから2600年、すきのない技術として嚙みつきを完成させたのがジャック・ハンマーだ。謎の握手から鎬昂昇の左側僧帽筋のあたりにかみついている。服のうえからなのが心配だ。本部がやったように、ちょっとからだを返されたら歯をもっていかれる状況だけど、嚙道はその対策もしているのかな。

 

そこからジャックは首をつかって噛み切る。鎬の肩口から肉がごっそりもっていかれる。見た目よりまず痛いらしい。刃物で切るような怪我とちがうからな。肉をもぎとってるわけだから、そりゃあ、猛烈に痛いだろう。

 

握手はしたままだ。激痛で体勢を崩しつつある鎬を、腰に手を当てた余裕のジャックが見下ろす。今度は握手を返し、鎬を後ろ向きにして、首をとる。きっちり裸締めが決まってしまった。格闘漫画ではいちどかかると絶対にほどけないで有名な裸締めである。

独歩が、これをジャックらしいというふうにいう。有効の証である握手を利しての位置取りが象徴的だというのだが、正直ぜんぜん意味がわからない。いつかふと理解(わか)るかもしれないので、そのときはみなさんにお知らせします。

 

裸締めじたいは完璧に決まっているところ、ダメおしでジャックは足で胴も締め、全身をロックしてしまう。鎬は微動だにできないだろう。終わったか?というところで、ジャックが腕をほどく。そして、無防備にさらされている鎬の首筋に噛み付くのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

あのまま裸締めをしていればジャックは勝ったわけだが、それでは満足できなかったということだろうか。

完全にきまった裸締めからは逃れられないというのは、バキに限らずよくいわれることだが、脱出した例がないではない。花山薫は握力にものいわせてスペックの腕を破裂させて逃れた。ケンガンオメガでも腕力で突破したやつがいたな。また、なりふりかまわなければ、まったく不可能ということはないだろう。前腕をものすごいつねるとか。独歩が天内にやったみたいに、爪をはぐとかもいいだろう。いずれにせよ、使えるものが限られていることはまちがいない。だが、指は動く。花山も、独歩も、ケンガンオメガの誰かも、握力や指のちからでなんとかしていた。そして鎬昂昇は指技の武道家である。とすれば、もしかするとあのまま密着し続けているのはむしろ危険ということになるかもしれない。ジャックは笑みとともに鎬を解放しているので、危険を感じたということではないだろうけど、結果としては正解だったのかもしれない。

 

今回、うそかほんとか、パンクラチオン時代に嚙みつきを行使した選手が紹介されていた。これの意味するところは、それだけ嚙みつきという技に意外性があるということである。ふつうの闘争、子どもどうしの喧嘩ならともかく、特にある程度技術を修めたものどうしのたたかいでは、嚙みつきが出現することがほぼ予想できないということなのだ。当初ジャックが嚙みつきを使い始めたときも、最大トーナメントの実況や客たちは、まず、なにが起こったのか理解できなかったのだ。この意外性という点に、まずは嚙みつきのアドバンテージがあった。天津飯みたいに背中から手が2本出てくるような人体を、我々は想定して行動していない。だから、そこからにょきっと出てきたら、対応できない。同じように、多くのファイターは嚙みつきの強力さというより意外性によって葬られてきたのである。

嚙みつきを「技」とする噛道の難点は、これを失うところにある。そうでなくてもジャックが嚙みつきを用いることはもはや周知のこととなった。そのうえで「嚙道」なのであるから、意外性もなにもない、ボクサーがパンチをつかうのと事態は変わらなくなったのだ。

だが、逆にいえばそれは、意外性が別のところに移ったということでもある。ボクサーが蹴りを使ってくればそれがどんなに稚拙なものでも、多くの相手選手はそれをもらってしまうだろう。同様にしてジャックが嚙みつき以外の技を決め技にもってくれば、多くの相手はこれを台本があるかのように受けてしまうのだ。今回の裸締めは一瞬そのようにみえた。けれども、ジャックはそれで試合が決まることをよしとしなかった。これは、計画性のある行動ではなかったろう。なぜなら、最初に握手から嚙みつきが決まった直後の鎬は、ほとんどなにをしても決まったであろう状況だったからだ。あのまま前から首に噛み付けばよい。そうしなかったのは、上記のような事情があったからなのかもしれない。それはわからないが、計画性がもしあるとすれば、裸締めまでだったはずだ。そこからの嚙みつきは、衝動的なものである。

 

ジャックのほうはそれでいいとして、鎬昂昇である。あれだけ煽っておいてこれで終わりかよ、という感じがないでもないわけで、もしこれで終わらないのだとしたら、試合直前に見せていたウォームアップが布石になっている可能性がある。

あのとき考えたように、あの柔軟体操に見えたものは、ジャックにもある、鎬昂昇の逸脱性である。武術の極地にいるバキは、ウォーミングアップをしない。わざとらしいほどに、しない。“エエカッコしい”で、しないのだ。武術は、日常に潜む脅威に対抗するものだ。だから、修めた技術はいつどんなときにも使えなくてはならない。風呂に入っていても、寝ていても、酔っ払っていても、使えなくてはならない。こういう哲学だから、その技術を確認する試合にあっても、日常のように臨まなくてはならない。こういう理屈で、バキら“エエカッコしい”は、まるでじぶんが武道のことをよくわかっているということを締めそうとするかのように、わざとらしいほどに準備をしない。からだをあたためないし、それどころか、おそらく眠くもないだろうに、横になって眠るのである。だが、これは、ウォーミングアップを「してはいけない」ということでは、ほんらいなかったはずだ。別にしてもいい。その結果として試合でいい結果を残せたとしても、あるいは意味がなかったとしても、そのものの武術性、日常の脅威にいかに対応するかというリアリティとは、なんの関係もないからだ。鎬は、そういうことを実践するものにおもわれたわけである。

だとしたらなにかというと、彼はジャックの嚙みつき対策をしてくるのではないかということなのだ。武術性をつきつめれば、日常に出現する脅威の質はふつうわからないわけだから、試合でも相手のことはなるべく調べないようにするだろう。だが、くりかえすように、調べてダメということはない。今日調べて試合に勝ったり負けたりすることと、明日通り魔と遭遇することとは、なんの関係もないからだ。そうおもわれたわけだが、何回読み返しても、ジャックの歯は鎬の首筋に食い込んでるんだよなあ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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