今週のバキ道/第141話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第141話/「マスキュラー」ポーズ

 

 

 

 

宿禰との手四つをオリバが圧倒する。握力でダイヤモンドをつくりだす宿禰を、いくら力自慢とはいえ、オリバが圧倒しているのである。身長差も30センチくらいあるとおもうが、もはやオリバのほうがうえの目線であり、宿禰は左手の手首に右手を添えてようやく耐えている感じだ。

 

だが、これには理由がある。うっかり忘れていたが、宿禰はジャックによって、試合前に小指を奪われているのである。それがいま使っている左手だったのだ。純粋な力比べと見せかけて、オリバは右手で宿禰は左手ということもある。前回考えた、「筋肉はすべてを解決する」が暗黙の了解で含んでいる条件のようなもの、ここに、オリバはなにくわぬ顔でこうしたじぶんに有利な状況を忍ばせているのだった。宿禰の薬指の外側にオリバの薬指と小指が食い込んでいる状態だ。薬指と小指はもともとひとつの強力な指だったという説もどこかで聞いたことがあるし、たしかにこの状況はいくら宿禰でもつらいかも。

 

このまま屈してしまうわけにはいかない。宿禰が右手をはなして張り手をくりだす。至近距離でもあり相当な衝撃で、オリバの手も離れる。オリバは平気な顔のまま、宿禰は決して弱くないという。ただ、小指が欠けていることの意味を説く。おそらく、宿禰を二代目野見宿禰たらしめていたダイヤモンドのあの儀式、あれが、小指なしではもはや不可能であるというはなしだ。これは「強いことは強いけど、もう「野見宿禰」じゃないよね」という意味だろうか。

 

宿禰の踏み込みにオリバが拳をあわせる。一瞬間があいたところで、体勢を立て直した宿禰は異様なものを目にする。まん丸の球体と化したオリバである。バキ戦で見せたパックマンだ。「なに・・・?これ・・・」という宿禰のふつうすぎるリアクションにちょっと笑ってしまった。

 

 

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来なさい。降参か?と煽るオリバだが、その前に宿禰はあまりの筋量に感心してしまっている。オリバの基本イメージはボディビルダー、トレーニング方法も格闘技者というよりは筋肉を育むものだ。その見た目が一種の感心を誘うのは自然なことである。だがそれにしてもすさまじい筋肉なのだ。宿禰はこれをモストマスキュラーポーズと受け取る。ふつうこのポーズは、コンテストの最後に、ポーズを指定されない自由時間などで選手が見せるものだが、それの究極形としての「球体」だと宿禰は受け取ったのである。その視点は新鮮だ。

勇次郎と出会ったときと同じく、宿禰は「世界は広い」「こんな男もいる」という感想を抱く。オリバの煽りを受け、喜びとともに跳躍した宿禰がこれを踏みつける。しかしながら信じがたい感触とともに宿禰は弾き返される。巨大なスプリングでも踏んだかのような弾力なのであった。

 

 

 

つづく。

 

 

 

オリバのパックマンはマッスルコントロールを闘争に組み込んだ実にオリバらしい方法である。マッスルコントロールとは筋肉の緊張と弛緩を自在にコントロールする技術で、胸の筋肉をぴくぴくさせたりするのもその一種だろう。曲芸的に力こぶが僧帽筋を通って反対の腕に移動するように見せたりすることもある。オリバはこれが全身でできる。つまり、ちからをこめようとおもえばどんな場所でも、どんな小さな筋肉でも、そこだけを膨らませたりかためたりすることができるのだ。格闘技者やアスリートは基本的に筋肉をあるひとつの目的に向けて働く連続体ととらえるものだ。だがボディビルダーはそうではない。これは、筋肉を小さなところまで細分化してアイソレートして鍛える、極めてボディビルダー的な思考法がもたらした闘争技術であるといえるのだ。バキ戦ではこの方法でバキの攻撃を弾いていた。たとえば前腕のあたりを蹴ったとして、蹴りのちからが前腕の緊張に劣るというのは考えにくいわけだが、そこはこの体勢そのものにも意味があると見たほうがいいだろう。要するに、このかっこうではちからを入れても入れなくてもちょっとした刺激でころころ転がっていってしまう。つまり、そうならないために、オリバはもっと複雑なコントロールを行っているはずなのだ。たんに「ヒットポイントにめっちゃちからをこめる」というだけの技術ではないのである。ないのであるといっても、じゃあなにをしているのかっていわれると、ちょっとよくわからないが・・・。

 

ただ、このオリバボールは基本的には防御の技術である。パックマン的に相手を内側にのみこんで、ぐったりするまでもみほぐし、ペッとすることはできるが、ふつうに考えて宿禰はさすがに飲み込めないだろう。とするとオリバはただ防御に徹するだけとなってしまう。バキ戦でもけっこうとっておきっぽい技だったし、パックマンから先がまだある可能性もある。たとえばすごい転がるとか。そうでないと、だからなに?ってなってしまう可能性が高い。少なくともアライジュニアはため息とともに丸まったオリバをそのままにして帰宅してしまうだろう。

 

 

ただ、これまでの三角形・逆三角形のくだりと比べて考えてみると、少し興味深い。いままでのところでぼくはこれを、ごく単純化して守りと攻めのタイプととらえてきた。要するに土台のしっかりした三角形の体型で聖地を守る宿禰のありようと、バランスを欠くものの肉食獣的な攻撃力で相手を屈服させる攻めのありようである。じっさい、そういうふうにはなしは進んできたようにおもう。そういうところで、オリバが球体になったのである。みたように、オリバボールじたいは守りの構えといえる。だがこれを図形的に考えたとき、球体は両者を弁証法的に包括したものとなる。三角形と逆三角形のちがいは、上下に区別があるところで生じる。数学的には差がない。ただ、重力がわたしたちにもたらす上とか下とかいう感覚が、ここに区別を設けるのである。しかし球体、あるいは円というものには上下がない。むろん、ある点に色づけなどをすればはなしは別だが、数学的な世界に重力を持ち込んで生じる上下の感覚が備わった世界の段階では、円に上下の区別があらわれることはないのだ。つまりこれは、三角形・逆三角形の図示で比較されていた攻めとか守りとかいうタイプを超越したものなのである。もっといえば、そもそもその上下の感覚をもたらす重力というものが、地球という巨大な球体によってもたらされているものだ。円周が中心に向かうちから、それが重力であるとするなら、上下の感覚のみなもとは、足元にある球体なのである。そうなると、これは二種の三角形をともに含むというより、そうしたせめぎあいが生じる前の段階であるともいえるのかもしれない。いずれにせよ、オリバボールは攻めとか守りとかいう「言葉のあや」を克服するちからをもっているのだ。

 

文字通り象徴的なたたかいとなっているわけだが、具体的にいって、ではここからオリバはなにをするのかというと、よくわからない。つまり、パックマンはいくらなんでもできないし、あとは転がるくらいしか攻撃方法がなさそうなのだが、いったいどうすれば・・・。でも、中心に向かうちからが上下を生むという考えからすると、やっぱりパックマンなのかなという気もする。もし宿禰をパックマンすることができたら、サイズ的にブサイク総統に殺されかけたときのタンクトップマスターみたいになりそうで嫌だな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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