今週のバキ道/第138話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第138話/嫌(や)な夜

 

 

 

 

 

満身創痍の蹴速が決着後すぐ独歩に再挑戦する。本人は「仕切り直し」といっているが、「仕切り直し」が勝ちを目的とした方法だとすると、なんか奇妙な行動である。このコンディションで、さっき万全の状態でまったく歯が立たなかったひとに勝てるわけはないので。

 

とはいえ、その心意気やよし、みたいなことかもしれない、独歩は受けて立つ。だが、動き出した蹴速はすぐに気絶してしまいそうな動きである。これがそういう「ふり」だったらたいしたものだが、そうではない。まず、両耳がない。独歩の正拳連打で胸骨や肋骨はぐしゃぐしゃだし、脇腹には貫手もくらっている。そして、蹴りの彼にはもっとも重要な右の踵は完全に破砕された。ファイナルファイトのミニゲームで破壊されきった自動車くらいぼろぼろだ。

迫り来る瀕死の蹴速から、独歩は逃げることもできた。だが、二本の指をつきだす。くちにするように目をついたのではなく、両鼻に根本までくいこませた強烈な一撃だ。すさまじい攻撃だが、目突きのように、相手の今後の人生を左右するタイプの技ではない。独歩の太い指で蹴速の鼻が裂ける。そのまま独歩は親指をあごにひっかけ、口蓋全体をわしずかみにするようにつきさしている指も曲げる。そしてその闘志をたたえ、床に投げるのだった。せめてもの敬意として、むかえうち、そして目を回避したのである。

 

 

どこかの大病院、リハビリテーション室である。非常に充実したウェイト器具のなかでベンチプレスをしているのはビスケット・オリバだ。宿禰にアバラをつかまれ大半が粉々になってしまったが、鎬紅葉になんとかしてもらったようだ。そしてそのまま、その病院でリハビリという名の筋トレをしているというわけである。

ベンチプレスは400キロにもなる。これは鎬紅葉のマックスということだ。これは1RM、1回だけ持ち上げることのできるマックスということだろう。ここから筋肥大、筋力アップなど目的にあわせて回数と重さを計算していくのが標準的な方法だ。かつてはパワーファイターとしてはまず紅葉だったこともある彼のマックスである400キロを、オリバは複数レップ、というか複数セットこなすらしい。ということは1RMはもっといくということだよな。

ともかくからだはもう大丈夫なようだ。再起不能レベルの負傷だったのでこれはよかった。

 

これはリハビリ完了ということなのかな、オリバのお礼の口調からして、もう退院っぽい。これからどうするかといわれ、おとなしくしているというはなしだが、もちろんそうではないことは紅葉にもわかっている。ジャックをあれだけとめた紅葉である、心変わりした彼は危険なら止める男だ。ということは、ほんとうに完治してるっぽい。

 

夜の街を行くのは久しぶりの宿禰だ。オリバはその行く手をふさぐ。宿禰はぎりぎりオリバを思い出してくれた。リハビリという名のリベンジである。

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

オリバは好きなので復活はうれしいぞ。バキでは1回負けるとけっこう続くことあるから、これはオリバのいいところがみれるかも・・・?

 

 

独歩が目ではなく鼻の穴で勘弁してくれたのはよかった。強さという点では宿禰程度、もしくはそれに劣るとしても、ファイターとしてのありようは久しぶりにはっきりしているタイプだったから、ここで退場は惜しい。ぜひ、ここから成長して、独歩、そして宿禰を倒してもらいたい。

 

いまのままでは蹴速は独歩には勝てない。前回、前々回に描かれた勇次郎描写がほんとうのところなにを意味するのかはしばらくたってみないとわからないが、現状では、蹴速の「若さ」のようなものを指摘したものと受け取れる。蹴速は、当麻家の方針としての「仕切り直し理論」を用いて、「勝つまでは負けていない」を実践する人間である。その彼が、独歩に負けた直後、仕切り直しということで再戦を望んだ。ほんらいの当麻家の「仕切り直し理論」は、少なくとも勝ちに向けた理論、詭弁であったはずである。だから、からだを治し、体感した独歩の強さを勘定にいれて、日を改めて挑むというのであれば、はなしはわかる。だが今回の行動は、「仕切り直し理論」によって導かれたものとはとてもいえない。そういう“ズルイ”行動ではなく、言葉のままの、ただの仕切り直しである。そういうことではないはずだ。であるのに蹴速は立ち上がらずにはいられなかった。それだけ独歩に「完敗」したという感想が強かったということかもしれないが、勇次郎の描写とあわせて考えたとき、これは若さがさせたことかもしれないな、というふうにはおもわれるわけである。

蹴速の敗因はというと、いろいろあるだろうが、いちばんは独歩の拳の強さを理解していなかったということがあるだろう。蹴りは突きよりスピードが劣り、運動距離も長いぶんとらえやすい。だとするなら、空手の達人である独歩の拳が蹴速の蹴りを叩くという状況は、じゅうぶん想定できたはずである。そして、独歩の拳は部位鍛錬により鍛え上げられている。タコでおおわれ、骨じたいも鍛え上げられた空手家の拳は、ただじょうぶであるというだけでなく、一個の自律した凶器として機能するものだ。筋肉や技術でコントロールされた突きは、当然シャープで、重い。しかし巻き藁で鍛えられた拳の重さはそれとは異質なのである。ぼくが通っていた道場にも、偏執的に巻き藁ばかりやっているおじさんがいたが、拳それじたいが重さを孕んでいるようで、スパーリングするのがほんとうに嫌だった。部位鍛錬は拳の安全のためだけではなく、もっと積極的な訓練なのである。そういう拳がありうるということを、蹴速はおそらく考えていなかった。たんに事実として知らなかっただけなのか、じぶんの蹴りに自信があったせいか、それはわからないが、ともかく、「独歩に踵を叩かれる」というじゅうぶんありえる事態を、彼は想定していなかったのである。だから、様子を見るまでもなくいきなりあの蹴りが出せたのだ。

こういう、じしんを捕鯨砲の銛と考えるようなところが、特に若い格闘家にはあるのかもしれない。なぜなら若さは、筋肉を無限に成長させ、その威力に天井というものがないとおもわせるものだからである。サムワン海王にかけた言葉からもわかるように、範馬勇次郎じしんは、実はこれを肯定するものだ。だが今回勇次郎が強いんだエピソードにも見える捕鯨砲の描写で示したのは、こういう、若さが保証する筋肉信仰の先にあるものだったんではないかとおもわれるのである。

蹴速がこういう敗因分析をしていないことは明らかだ。なぜなら、満身創痍の状態で、闘志やプライドなどの理由で無謀にも再び独歩の前に立つという行動じたいが、ダイヤモンドの拳を持つ独歩の前にじぶんの体重がのった踵をさしだす行為の延長線上にあるからである。勇次郎くらいの異形の筋肉の持ち主であればはなしは別かもしれない。だがそうではないのであれば、それが一般的にみていかに突出したものであっても、人差し指でさばける捕鯨砲のふるまいを出ることはないのだ。

 

直観的にはおそらく勇次郎の指摘には宿禰も含まれているのではないかとおもわれるが、気になるのはオリバである。というのは、オリバもまた筋肉星人だからだ。げんに彼は、よせばいいのに肋骨をつかまれた状態で、それを弾こうとしてちからをこめ、みずから骨を砕いてしまったのだ。まさしく捕鯨砲状態、「威」を高めることにこだわりすぎて失敗してしまっているわけである。だが、このあたりは単行本で読むとより強い印象を帯びてあらわれるとおもうが、オリバが傷を癒し再び宿禰の前に立ったのは、蹴速が満身創痍のまま捕鯨砲状態で独歩の前に立ちはだかった直後なのである。ここはおそらく比較されているぶぶんだろう。闘志に突き動かされて動けないのにたたかう蹴速と、しっかり治して異常なリハビリをこなし、おそらく脳内で対策も立ててきているオリバでは、同様に捕鯨砲的筋肉人間でありながら、明らかにしたたかさの面でちがいがある。しかも宿禰はジャック戦の傷がまだ癒えていない。たぶんそういう、経験がもたらすしたたかさのようなものが、宿禰と蹴速には欠けていると、おそらくこういうことを、強いんだ描写の過程で勇次郎は体現したのである。

 

 

↓来年の1月6日、板垣先生の自衛隊漫画をまとめた単行本がついに出るもよう。最近本誌に載った新しいものだけでなく、これまでは読むことじたい困難だった以前の伝説的な読み切りも収録される。ほんとうにおもしろいのでおすすめです。待っていた!

 

 

 

↓バキ道15巻、2月8日発売予定

 

 

 

 

 

 

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