■『暗号通貨vs.国家』坂井豊貴 SB新書
ブロックチェーン、非国家の思想、イーサリアム…投資からでは見えない社会の変化を経済学者がわかりやすく解説。一体何がすごいのか?暗号通貨は国家に過度に集中した力を世のなかに分散させていく―。
Amazon商品説明より
『多数決を疑う』を書いた、経済学、社会的選択理論が専門の坂井先生によるビットコイン考察本だ。
ビットコインのような新概念を、ぼくなんかはたいがい「新刊とかでよくみる単語」くらいの感じで認識し始める。当時は前の店だった。ビジネス書を出しているパートさんと、ビットコインというのがけっきょくなんなのかということを話し合って、ちょうど解説マンガみたいなのがあったから読んでみたが、けっきょくよくわからなかったことも覚えている。
とりあえずオカネのはなしであることはわかったので、ぼくの人生にはかんけいのない世界だな、ということで特段意識せず、いまの専門書フロアで関連本をいじるようになってもあんまり興味をもってはいなかった。しかし坂井豊貴が本を書くとなると別である。しかもなにやら壮大なタイトル。「ビットコイン」という語とその周辺事項が宿しているなにやらうさんくさい雰囲気からは遠い「国家」という語が加えられていることで、批評を行うときのあの思考の飛躍のようなものを感じたのである。
しかしそれは別に飛躍というほどのことでもなくて、読んでみたらしごく真っ当な着想のようであった。基本的には、本書はビットコインとブロックチェーンのしくみを、素人にもわかるように書いてある。といってもぼくはそういうはなしになると息も絶え絶えになって、坂井先生の『社会的選択理論への招待』で多数の数式にぶつかったときのように(もと数学科)、わかっているやらいないやら、ごまかしごまかし読み進めた感じだが、それでも、本書はたぶんそうとうわかりやすく書いてあるとおもう。少なくともおもしろくは書かれている。ビットコイン研究にあたって難しいのは、「サトシ・ナカモト」という謎の人物(?)によるその創生のときからの基本姿勢のようなものとして、オープンソース的に主体がないために、公式の見解が原理的には存在しないということがあるが、そのあたり非常に注意深く情報を選別してあるようで、筆者は本書にかんしてその点も強調している。要するに、どうやってもうけるかとか、あるいは未来志向のキラキラした本はたくさんあるけど、正面からそのしくみと社会的役割を考察した本がこれまではなかったのだ。
本書に通奏するある種のわくわく感は、根底的に世界の相を新たなものとしてみていかなければならないという期待によるもので、まだまだ新しすぎる「暗号通貨」というものを、一過性のものではない、世界を相対化するオルタナティヴ的なものとして捕捉していこう、という意図がある。斬新なのは、仮想通貨は戦争を抑止する、という発想だ。ぼくには馴染みのない世界だが、経済的自由主義の世界では、貨幣の発行は国家に任せずに、新しい通貨が出現し、また淘汰されていくのに任せて、競争させるほうがよいという考えがあるようだ。で、現れた暗号通貨がなぜ反戦につながるかというと、戦争には現ナマのオカネが必要になるからである。戦争がはじまったら、国は、お金を作りまくったり、国債を発行したりすることになるが、もし暗号通貨がふつうに流津していて、法定通貨の価値が低ければ、調達は難しくなる。とすれば、必然的に戦争には消極的になる。逆にいえば、戦争への固着がもし人間にとって本質的なものだとすれば、人類はこれからも国家発行の現ナマにこだわることになりそうだが、ともあれ、そのように考えることができるのである。
こういった議論が本筋で、あいまあいまにはさまれていくので、スリリングに読み進めることができたが、それでも、本記事においてこれ以上本書の解説のようなことをすることはやめておこう。畑違いすぎる。だが、暗号通貨というもののシルエットくらいはつかめたとおもう。ブロックチェーンの概念も、そのまま、チェーンのイメージとしてつかむことができた、とおもう。特にビットコインでひともうけをたくらんでいるわけではないが教養として外郭くらいは知っておきたい、というひとにはオススメである。経済のおはなしはなにより専門家なので、いちいち用語をわかりやすく紹介してくれるのも、いかにも『ミクロ経済学入門の入門』の著者という感じだ。なによりおもしろいです
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