お世話になった平成が終わる・・・ということで、ここでも記念になにか書いておこう。
ぼくは昭和58年、1983年の10月31日生まれなので、元号が昭和から平成に変わった1989年1月ではまだ5歳だったことになる。小さいころの記憶がほぼないぼくのようなものにおいてはだから、平成というのは人生のほとんどを覆っているような印象なのだ。昭和生まれ平成育ち、という感じである。だから、ネットで見られる平成回顧型の書きこみや動画などのほとんどに直撃している世代なのだ。本ブログをどういった年齢層が多く見ているのか、ぼくにはわからないのだが(かつて会社などからのアクセスを解析して、その会社の男女比、また年齢比から、読者の男女比・年齢比を割り出すサービスなどあったのだが、消えてしまった)、世代によって「平成」ということばの意味するところも大きく変わってしまうだろう。平成育ちとして、平成ならではのことがなにかかけないかなと、こうして記事を立ち上げてみたが、予定外のことが起こって時間がないので、ここでは音楽と映画にかんすることだけ思い出として書くことにしよう。
ほんの数年のあいだのことだが、わたしたちが家で映画を観るときのスタイルというのは、ずいぶん変わってしまった。ぼくの少年時代にはVHS、ビデオテープが当たり前であった。それからディスクの時代がきて、やがてテレビのハードディスクに録画するのがふつうになり、いまではネットフリックスのようなものも出てきて、「映画」というものの本体は映画館で観るものとして変わらなくとも、ライトユーザーのありかたは文字通り日に日に変化していっているわけである。
せっかくの機会であるから、あえて懐古調で書いていこうとおもうが、少年時代のぼくは比較的同じ映画をくりかえし見るタイプの映画ファンだった。父親がそうしたAV機器に詳しい、というかそういうのをいじるのが好きな人間だったせいもあって、気になる映画はすべて録画され、ビデオテープの、なんというのが背表紙みたいなところとか、テープとケースのあいだに入っている紙みたいなやつには、父の几帳面な字でタイトルや映画の情報などが細かく書き込まれていた。わりと年のいっている両親でもあり、実家の方針はかならい古風で、ドラゴンボールやドラえもんなどの例外はあったけれども、うちでは基本的に漫画やアニメにかんしては消極的で、ぼくも特にそのことを不自然にはおもわなかった。ぼくはディズニーランドが大好きなのだけれども、学校の遠足で行ったのを除くと、これも大人、というか大学生になるまで行ったことがなかった。そういうハイカラな遊園地が存在していることすら両親は知らないのかもしれない。「不自然にはおもわなかった」といいつつ、奇妙なはなしでもあるが、あるとき「遊園地に行く」ということで眠いなか車で運ばれ、目が覚めてみたらファミリー向けの牧場についていて激怒した記憶もある。いまでもそうだが、ぼくは出不精で、家で読書したり映画みたりゲームしたりしてる時間に幸福感を覚える人間なのだが、両親は旅が好きで、小さいころは日本中あちこちに連れて行かれ、そのときはまあ、仏像とか見てもぜんぜんおもしろくないので、なんというか、どういう感想を抱えていたのかまったく思い出せないのだが、たぶん無感興に時間をいなしていたとおもう。でもいまとなると、それらはまったく無意味な経験ともいえなくて、ふと、いつどのようなタイミングだったかまったく思い出せない、幼少期の記憶の風景みたいなものがよみがえってきたりもするし、そういうのがじぶんの人格を縁取っているのだなとリアルに感じたりもするのであった。
はなしがとんだが、そういう古風な家であったのだが、映画にかんしては積極的で、父がいうのか、ぼくがお願いするのか、記憶にないが、ともかく、次から次へとテレビで放映された映画を録画していくものだから、家には父の手でタイトルが書かれたビデオテープが大量に積まれていくことになった。いま同世代のひとたちと子ども時代のアニメとか漫画のはなしをしてもついていけないわけだけど、これはこれでまちがいなくぼくという人間を形成した行程でもあったわけだし、別にいいか、というふうにもおもえるようになってきた。
で、そういうビデオをぼくは何回も見るのである。おんなじのを、はまると毎日見るのだ。宝塚もそうだった。何回も何回も、おんなじ映画を見るのである。むろん、教養という視点でいえば、もっと広くいろいろな作品に触れるべきだった、というふうにおもわないでもないわけだが、ぼくのスタンスはそうした外部的評価とはまったく無縁で、たとえば『ハワード・ザ・ダック』とか『エリミネーター』とか、いまでクソ映画とされているものも、当時のぼくの内側では黄金の体験をもたらすものだったのである。
それで、どういうことを懐古したいのかというと、その、ひとつの作品にこだわる感覚である。テレビで放映される→それを録画する、という流れじたいが、そもそも映画館で映画を観る、という状況からするとそうなので、だからこそここでは「あえて」という前置きをしたのだが、ビデオテープのもっていた存在感なのだ。そこには、作品を消費するという感覚は皆無であった。くどいようだが、教養という視点からすれば、むしろ「消費」するほうが、広い知見を獲得できた可能性はある。ひとつの映画を100回みて熟知するのと、100の映画を1回ずつ観るのとのちがいだ。ぼくじしん、いまは相方が登録したネットフリックスを楽しんでいる。2時間以上のまとまった時間がいっしょにとれないので映画は観れていないが、ともかく、それを通して、おもにアニメなどを視聴しているのだ。しかし、それはやはり、あのときの感覚とはまったくちがうのだ。
これは音楽についてもそうである。ぼくは音楽にかんしても、特定のCDを何回もくりかえして聴く人間だった。それでも、ぼくにはジャズの分野では本を通して師匠がいたので、なるべく広く聴こうと努力はしてきたので、映画よりはまだマシともおもえるのだが、たとえば多くの場合黒歴史として語られる「自分版ベスト盤制作」も、ぼくはもちろんやっていたわけである。小学生のころはカセットテープを使っていたが、中学生くらいになるといまの若い子は知らないだろうけどMDというイカしたものがあらわれて、それでやっていた。『ラスト・アクション・ヒーロー』という映画で、映画内映画のシュワルツネッガーが戦闘中に車のオーディオにMDをかけるさまや、『タイムコップ』という、ヴァンダム主演の映画で、過去で金儲けをしているヴァンダムの元相棒がガチャガチャと乱暴に(過去のひとたちからは見えないところで)MDを差し込む姿がかっこよくて、当時は音楽的にどうこうというより「ファッション」としてこれを使っていたぶぶんがあった。ま、ともかく、そうした録音機器を通して、じぶんなりの「ベスト盤」をつくるわけである。多くのばあいそれは、「なるべくアーティストを超越したもの」になりがちであった。じぶんの本棚を眺めて、「うーん、おれって、いろんな本読んでて、あたまよさそうだな」と悦に入るようなものである、そうした行為を通じておそらくぼくは(ぼくたちは)、じぶんがディープな音楽ファンであるということを再確認していたのである。が、笑えることに、それをつくることによってぼくは、じぶんが特定のアーティストに非常にこだわる人間なのだということがわかることにもなったのである。要は、どのように主旨を計画してつくりなおしても、けっきょく、チック・コリアやハービー・ハンコックやジャコ・パストリアスばかりになってしまうのである。
いまの若い世代にそういう手段がなく、だからそういう欲望もない、というはなしではない。当然、いまの若者は、いまならではの方法で黒歴史を生産しているはずである。ただ、ネット時代、人間関係の時代に入って、ひとつひとつの事物の存在感が薄まって、消費の感覚が強まっているのではないかな、という気はしないでもない。いまの子たちはそのへん、むしろたいへんだとおもうよ・・・。というのは、中二なのに中二病になれないからだ。どういうことかというと、ぼくとしては、中二が中二病になるのは、むしろ健全だとおもうのだが、「中二病」という概念が広く共有されてしまったことで、中二病に罹りやすい感受性豊かな子ほど、そうなることをおそれる、という状況になっているような気がするから。ぼくはこれからも、中二が中二病にかかることは恥ずかしいことではない!と大声で言い続け、げんに中二病に罹患していて、しかもそのことを隠している子の顔を真っ赤にさせ続けようとおもう。
なんか急いで書いてるからとっちらかってわけわからん文章になってしまった。なんだこの記事。
まあとにかく、昭和から続いたのがビデオテープ的な個物の存在感の時代、所有の時代だったとすれば、平成は令和に向けての過渡期だった、というふうに、たぶん後世には見られるんじゃないかとおもう。そう、たぶんぼくがいま平成的なものとして列挙したものは、たいがい、昭和的なものでもあったとおもう。このあいだ電子書籍について書いたときにもおもったけど、感性のありようも時代とそれに基づく方法によってかわってくる。消費消費と悪くいっても、それはただたんに感性や価値観が変化しているだけで、それを一方的に悪とも呼べない、というか、そうするのであっても多少は躊躇ったほうがいいのである。しかし、昭和・平成人として、そういう感性があった、ということを述べるのもまた、若い世代をバカにしない限りで有効だろう。令和も令和的なものとして平和で豊かになりますように。
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