今週の闇金ウシジマくん/第348話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第348話/フリーエージェントくん28






今夜中に金を用意するため、清栄に優良顧客名簿を3000万円で売ることにした天生翔と村上仁。開催されていた天生生誕祭はそのまま天生引退記念へとうつる。天生がそのまま高い売り上げを維持しつづけてしまうと、清栄にわたしたもの以外にさらに顧客がいることになってしまう。つじつまを合わせるために、天生はどうしても引退しなければならない。天生は、いままさに苅部たちに奪われそうになっているいのちを、これまでの天生翔というイメージを売り払うことで守るのである。天生としても現状ぎりぎりだったので、今後についてのある程度の戦略もこみで、このはなしにのったようだ。


天生がすごいのはあの状況でいつもどおり、いやいつも以上の活力の演説で、弟子たちを熱狂させてしまうことである。ウシジマ史上最凶にあたまの悪い苅部でさえ、笑いものにするつもりで天生を着エロアイドルみたいにしてステージにあげたのに、最終的には感動して涙を流してしまうのだ。まあ、才能としかいいようがない。


ステージの楽屋裏みたいなところからほぼ全裸+ビニール袋に手錠の天生が苅部に連れられて出てくる。苅部は演説に感動したことを貧弱な語彙で説明しているが、いったい、どういう状況か。パーティーなんだから、たぶん裏にもスタッフがいたとおもうんだけど、そういうのはどうやってごまかしたのか。ほかの迷彩3人(おそらくヤンキーくんに出てきた3人)は見当たらないので、やはりあのとき外に出てしまったみたい。苅部はなにをするかわからない男である。天生は未成年だというモエコとやってしまっているが、たぶん、ことばどおり、それで逮捕されることを彼はおそれていない。にもかかわらず、警察を呼ぶなり、クラブのスタッフに助けを求めるなどはしない。それというのは、やはり苅部の危うさを考えてのことだろう。たぶんそれでこの場は切り抜けられても、あとがこわいのだ。だとしたらぎりぎりまでねばって、打開策を探し、ケリをつけたほうがいい。死んでしまっては元も子もないが。


苅部は天生の演説に感動したが、手錠はまだはずさない。弟子になったわけではないのだ。仁はうながされて清栄のオフィスにいき、天生のパソコンをわたす。しかし清栄はそれに1000万円の値をつける。それ以上は出さないと。仁は3000万ないとふたりともやばいのだと説明するし、そんなことは清栄も察しているだろうが、清栄は冷たく突き放す。というか、投資のほうにまわしてしまい、やはり手持ちがそんなにないんじゃないだろうか。加えて、じっさいのところ天生のことはうらんでいるだろうし、仁も正直いってどうでもいいだろう。まあこんなもんだろうとおもう。


というわけで金がたりない。予定通り苅部は麻生りなをまわして、その後に仁と天生を山で殺すことにする。天生は関係ないから帰してくれみたいなことをいうが、苅部はそれをスラッパーで引っぱたいて黙らせる。もともと天生は苅部たちの不満とはべつのところにいて、それを仁が巻き込んだかたちだし、それもそうか。冷静に考えると仁が天生にした裏切りはけっこうなものだな。ていうか、ふつうに外の駐車場なんだけど、ただの喧嘩ならともかく、こんなかっこうの男が迷彩集団に囲まれている状況で、よく通報されないな・・・。


が、前回の演説のときからなにか緊張の解けたような表情の仁が、「俺が払う」と言い出す。心底うんざりしたから、フェラーリも手放し、天生へのフェラーリ代として貯めていたお金をつかう気だ。と、いうことは、フェラーリのことがなければ、少なくとも仁は2000万は持っていたことになる。「てめえ、もってんじゃねえかよ!!」とならないか心配だが、ならない。苅部たちはすっと納得する。3000万なんて見たことない現金にすっかり目を奪われて、どうでもよくなったというところかもしれない。まあ、ふつうに3000枚1万円札が目の前にぼんとあったら、すごい説得力だろうなあ。見たことないけど。

フェラーリがいくらか忘れたが、たしかそのときのやりとりで払えなかったら3000万の生命保険に入って電柱につっこむ、みたいなことをいっていたとおもうので、3000万かもしれない。だから、そのフェラーリを返品して2000万受け取ることになるのか。えーと、そうするとどうなる・・・?仁が貯めていた2000万は天生のものになる予定のもので、それをフェラーリと交換して、天生のかわりとして苅部たちに渡すわけだから、結果としては2000万でこれまでフェラーリを借りていたみたいなことになるのか?(合ってるかな)

まあかわりといっても、もともとは仁が脅されていたわけだけど、状況が状況だし、天生ももうそれでいいというふうである。しかしまだ皮肉をいう程度には冷静で、ほんとに金に関しては怪人という感じである。


どこかの段階からほかの迷彩も戻ってきているが、最初は苅部だけっぽかったのもよかったかも。仁はりなの安全確認が出来次第払いといい、苅部たちもあっさりこれを認める。


そして、やはり3000万の説得力はたいへんなもので、仁たちと別れた四人は大喜びで車をとばし、キャバクラにいこうとかいっている。そこへ、苅部にとってはかなりテンションの下がる相手、マサルから電話だ。今日は返済の日だったらしい。マサルは顔を出せというが、苅部の態度はどこか不穏だ。

電話を切り、フードくんに応えて苅部はマサルくんのところに行くという。ついでにマサルも狩って貯金全部いただいてしまおうと。なぜかフードくんはそれにこたえない。


そのころ、天生はたぶんやっと自宅に戻っている。部屋にはミーナという、一度だけ登場した彼女がいて、天生は相変わらず全裸である。もうなんか天生はワープしてるとしかおもえない。そのカッコウでどうやってここまでたどりついたんだよ。


落ち着いてはいるが、ぶつぶつといろいろなことをつぶやいていて、異様ではある。家について素が出ているのかもしれない。天生は仁や苅部たちの前では徹底して金がないということで貫いていたが、実は隠し金があった。「切り札は先に見せるな。見せるならさらに奥の手を持て」という、幽遊白書の蔵馬と黄泉の名台詞を引き、それを見抜けない仁を三流であると判定する。天生の再起の計画としてはこうである。成功者が派手に転落し、なおかつ心情をさらけだしてじぶんが生身だということを露骨に示せば、大衆は彼を自分以下だとみなし、応援するようになる。そこで、隠し金の2億を有効につかい、これから一ヶ月後、まるでこの期間だけで稼いだかのようにしてそれを示せば、とんでもないサクセスストーリーになる。いちど転落し、「大衆以下」になるということがまたそれ以前まで以上の説得力をもたらすことだろう。彼はじぶん以下の無一文になった、それが一ヶ月で2億も稼いだ、だとしたらオレも・・・という具合に、再び、前以上の速度で天生メソッドは売れるだろうと。見事な計画である。失敗や転落が、道徳論ではなく、そのままのかたちで有効につかわれ、金儲けの道具となっている。やはりたいへんな男である。

しかしそれも、隠し金がちゃんと隠れていればのはなしである。ミーナは「お金ないよ」という。投資家の樺野が天生の指示ということで持っていったというのである。ミーナは天生がだまされると気づく以前のことまでしか知らなかった。清栄への熱弁を考えると、ミーナに対しても天生がこの投資話について話していた可能性は高いし、食事とかもしていたかもしれない。

というわけで、詐欺だとわかったときからずっと考えていたかもしれない計画が見事にパア。天生はミーナをぶっ飛ばし、一貫しておしとやかな印象だったミーナは口汚く天生を罵るのだった。





つづく。





苅部たちが武器をもってマサルの前に立つ。しかしどこか違和感の残る雰囲気である。マサルは薄ら笑いを浮かべ、おそらく苅部が先頭に立ち、他の3人は距離をおいて少し後ろにいる様子である。これはひょっとしたらひょっとするかも。しかしマサルがフードくんたちにも金を貸しているのかどうかはよくわからないが、フードくんはマサルのこともムカツクといっていたような気がする。どこかの段階でマサルとフードくんたちが通じ合い、苅部ひとりだけが泳がされていたのかも。そう考えると、マサルが迷彩集団に対してなんのリアクションもとらなかった理由もわかる。彼らのうちのひとり、おそらくフードくんは、マサルを殺そうとしたものである。それを、以前ならまだしも、いまのマサルが放っておく、しかも仕事がらみでノータッチというのはかなり奇妙だった。しかしもし通じている、つまりすでに彼らがマサルの手のものになっているとすれば納得できる。しかしもしそうなってくると、マサル殺害未遂の再現性がもたらすフードくんの自己満足は、以前までの仮説とはまた異なり、彼の無意識が過去に一度いのちの手綱を握った男に支配されていることへの不満をあらわしていることになるかもしれないが、それはぜんぶはっきりしてから考えることにしよう。

それにしても苅べーはほんとうにダメだ。マサルはともかくバックの丑嶋がこわいといっていたのは苅部と、ここにはいないがそのバカ友達である淀チンである。しかし彼はうまく3000万手に入ったことでそんなことはすっかり忘れてしまっている、あるいは強気になってしまっているようである。その点では、むしろフードくんのほうがそういうことを言い出しそうな雰囲気だったが、いまではすっかり逆になってしまっている。これが作戦だったとしたら、ああ見えてフードくんは意外とキレモノなのかも。


さて、フリーエージェントくんもいよいよおわりが近づいてきたようである。たぶんもう天生は出てこないだろう。清栄はたぶんしんこchとうまく会社をやっていくにちがいない。しかし村上仁は、もううんざりだという。いったいどの段階でそういう気分になったのか、その心理のダイナミズムは単行本で続けて読まないとわからない。が、そのきっかけは、やはり苅べーたちだろう。まあ彼らのようなものは超例外としても、この業態はこういう状況が生まれうるものである。メソッドを購入するものは、誰も彼もがいわゆる「弱者」だった。仁じしんもそうである。弱者の様態にもいろいろあるが、金がない、あたまがない、気力がないなどなど、ネット世界でいうところの情報弱者である。弱者というのは、強者がいてはじめてそう規定される。月給が安くても、全員が同じ額であるなら、理論的には弱者は生まれない。どんなに喧嘩が弱くても、全員同じ強さなら、それでヤンキー生活に支障はない。情報商材ビジネスはその構造を利用している、というかそれじたいをビジネスにしているものである。しかしそれは二重の構造になっており、表面のものは露骨に顕示されている。強者たちは、「わたしはあなたの知らないあることを知っている(だからこのように金持ちである)」というふるまいで商材を売る。だから、それを購入するものはすべて、「じぶんは彼らの知っていることを知らないものである」と認めたものである。「じぶんは弱者である」とみずから認めたものだけが、このビジネスに与することになる。だがもちろん、大半はうまくいかない。それが強者と弱者の二重構造である。弱者はじぶんが弱者であることをすでに認めている。まさにその「大半はうまくいかない」ということを熟知しているのが強者であり、それをよく理解していないのが弱者であるわけだが、すでに「わたしが知らない金儲けの方法がこの世にはある」ということをみずから認めてしまっている彼らは、その二重の構造に直面しても、すべて「それはわたしが弱者だからである(なにも知らないからである)」という理屈に回収してしまう。「いやいやわたしなんてブサイクだしそんなかんたんに彼氏なんかできないよ」と謙遜する身振りそのものが次の彼氏を遠ざけてしまうみたいなことだろうか(ちがうか)。「なにも知らないから稼げない」ということは、「知りさえすれば稼ぐことができる」ということである。そうして、天生が清栄に売ったような太客が完成する。強者たちの身振りの前で、彼らは強さと金、「知る」と「稼ぐ」を等価だと思い込んでしまう。フォルムはそのままに、彼らは自覚なしにみずから抜け出ようとしている「弱者」にとらわれてしまうのである。


しかしそれもまた小さな構造で、ある意味ではその「強者」さえも弱者になりうる。天生が天才的なのは、そうした事実さえも、弱者にむけたロールモデルのいちぶとして有効活用してしまうところだが、丑嶋たちのほうが一枚上手で、あのコンビはほんとに強い。樺谷が出てくると一気に丑嶋は「犯罪者」って感じになる。戌亥とのコンビも強いけど、やっぱりこういう詐欺行為になってくるとこのふたりにはかないません。


仁はこれで苅部の件は片付いたが、問題はカウカウへの借金だ。なんか危機を乗り切って脱力してそうだが、まだまだ命の危険は続くぞ。






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