- 〓2(るーと2)の不思議 (ちくま学芸文庫)/足立 恒雄
- ¥945
- Amazon.co.jp
「見えてはいるけれどないもの。ないようであるもの。納得しがたいがそう考えざるをえない…。見慣れた直角三角形の斜辺の長さが問題だった!誰もその正確な長さをあらわす数を知らなかった。そしてさらに不可思議に、それを一辺とする正方形の面積は、またきれいな整数であらわせた。万物は数であるとした古代ギリシアのピュタゴラス教団にとって、この事実は深刻な教義の破綻だった。その深淵に彼らは慄いた。深淵はどのように克服されたのか。もっとも原初的な抽象的思考から始まったとされる数学が出会った、いくつもの「不思議」をていねいに切り開き、人間存在の「不思議」へまで至る」裏表紙から
ずいぶん前から本棚に積んであったのだけど、このたびやっと読み終えました。途中まで読んであった(らしい)のだが、記憶になかったので最初から読み直した。なにか他のおもしろい本にぶつかって放置してからそのままだったんだろう。
でも、今回もやっぱり時間かけちゃったな…。これは一気に読むべき種類の本だとおもいます。難しいことはぜんぜん書かれていないので。
そういう意図で書かれたものではないだろうし、あとがきにあるようにむしろ文系も理系も超えた高次元の思索を好むひと向けのようだが、僕はいわゆる文系のひと…数学を苦手とするひとに読んでもらいたいです。僕のきわめて個人的な経験ですが、特に文系の女の子にありがちなんだけど、数学に対してほとんど恐怖心を抱いているひとって多い気がする。これも、たぶんそういった数学アレルギーの裏返しでしょう。まあわかるけど。僕もすうがくとかなんかよくわかんないし。
ではなぜそういう数学アレルギーのひとに読ませたいかというと、まあおもしろいからってのがいちばんだけど、けっこうモノの見方変わってくるんじゃないかなーという単純なことなんですよね。なにしろ、第一章のタイトルにあるように、「人間の条件は数学することである」というのですから。
と同時に、本書ぜんたいの主張は、人間がいるから数学がある、ということでもある。題名でもある「√2の不思議」とは、つまり無理数…分数にできない数字(円周率みたいなやつ)が存在するという事実の不思議のことです。というか、むかしのギリシア人がそれを不思議におもったということ。万物の源は「単位=1」であるというむかしのひとたちからすれば、この発見はほとんど驚天動地の出来事だった。いま見えている世界の底には脈々と普遍的な数学的真理が流れると信じる立場からすれば非常にショッキングだったのです。このことが、書かれてあることぜんたいの象徴となっています。筆者は「『自然』と『数学』の乖離は、無理数の発見がきっかけとなったのではないか」(P176)と書いています。
「自然界が数学的なのではなく、われわれが自然言語から抽象した数学という言語を使って研究するから、自然界は数学的なのである」P210
「数学的真理は人間の存在に依存しない実在であるという思想は、それだけを飯の種にしている専門家の陥りがちな迷妄である」P216
類別やアナロジーや帰納法といった思考方法の説明もおもしろかったな~。
ちなみに、式なんかも、わずかですが登場するので、本書は横書きであります。