高橋源一郎と村上春樹 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

文藝 2008年 11月号 [雑誌]
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↑これは最新号かな?

いつからやっているのかは知らないし、いまもやっているのかどうかは不明だが、河出書房新社季刊の文芸誌『文藝』では、連載小説や書き下ろしの短篇、評論、新人賞の発表などとは別に、毎回三分の一くらいのページを割いてひとりの小説家の特集をやっている。僕のてもとには2005年から2006年にかけて連続したものが四冊あって、山田詠美、吉田修一、星野智幸と、いかにも「文藝ぽい」のだが、2006年夏号では僕の大好きな高橋源一郎が特集されていた。なかでも内田樹と柴田元幸それぞれとの対談がおもしろい。

こういうのを見ると不思議な気分になる。というのは、僕のばあいたとえば内田樹は、ユダヤ人論の本をなにか読みたくて『私家版・ユダヤ文化論』で名前を知り、柴田元幸はポール・オースターの翻訳や村上春樹の翻訳業のアドバイザー的なことで知っていたわけで、つまり高橋源一郎とは別の場所で知ったひとたちなのに、彼らのほうでもそうやってつながりがあるということが。それが文壇というか業界の狭さを示すのか、僕がまだまだ表層の、有名どころしか知らないというだけなのか、あるいは思考の作法や感性のかたちがじぶんと似たひとたちを僕のほうで無意識に選別しているのか、それはわからないが。


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だけど、高橋源一郎というのがひとつのラインだよなーということはよく感じる。つまり、(著名人としての、ではなく)「高橋源一郎」を知っているかどうかで、そのひとの位置がわかるということ。こういったことはよみてとかきてが背中を向けあってある「共感」を助長する土壌となってしまうものなのだけど、そういう実感はげんにある。たぶん、すでに「かきて」の領域に息づいているひとたちは、コイツはなにを言い出すんだ、むしろ高橋は露出しすぎなくらいだろ、とおもわれるかもしれませんが、ほんとに、これは僕の実体験に基づいたはなしなんです。オマエの情報収集力がふつうじゃないんだ、といわれればそれまでですが。つまり、あるさかいめの以前と以後で、「高橋源一郎」という名前を目にする機会が段違いに変わってしまうのです。僕にとってこのさかいめというのは、批評を読むようになったこと、文芸誌を手にとるようになったこと(というか文芸誌というものの存在を知ったこと)、そして小説を書き始めたことでした。そのさかいめ以前の段階でもあるいは高橋源一郎の名前は目にしていたのかもしれないが、以後の目のつきかたは尋常ではなかった。ミュージシャンでいったらまあDABOみたいなものか。これまで知らなかったのが信じられないくらい、小説やら評論やらコラムやら選考委員やら、もうあっちこっちで見かけるようになったのです。このことで僕は、ああ、たったいまおれは深いトコに入ったんだなということを知るとともに、この業界のびっくりするくらいの閉鎖性と、同時に「よみて」側の不勉強を知ったんです。こんなによく見るひとなのに小説がぜんぜん売ってないっていうのも、つまりそういう状況がありうるということも衝撃でしたね。特に初期のものなんかは、読んでみたらほんとうにすばらしいし…




まあそれはいいや。とりあえず内田樹との対談。もしかしたらこれまでにも紹介したことあるかもしれないけど、おもしろいのは、ここでほとんどはじめて(少なくとも僕は読んだことがない)、高橋源一郎が村上春樹について語っているのです。


村上春樹は79年、『風の歌を聴け』で第二十二回群像新人賞を受賞してデビューした。いっぽうの高橋源一郎は第二十四回群像新人賞に「すばらしい日本の戦争」(現『ジョン・レノン対火星人』)を投稿し、最終選考まで残ったが審査員からは総スカン、瀬戸内晴美(寂聴)ただひとりが推すのみであった…というのはたぶん有名なはなしですよね。このあと担当編集者のすすめで当時あった群像新人長篇小説賞に『さようなら、ギャングたち』を応募し、受賞作なしの優秀作としてデビューすることとなった。その「すばらしい日本の戦争」のころのはなし。



「八十年代に入る直前に書きはじめたんだけど、そのときは書かなきゃ、という思いと自分には新しいものが書ける、という確信があったんです。それで一応ひと通り、過去十年くらいに出たものも読んでみたんですね。「過去十年間で出てないな、よし、やらなきゃ」と思っていたんですけど、一つ目の『ジョン・レノン対火星人』になる作品(「すばらしい日本の戦争」)を書き出す直前、村上春樹さんの「風の歌を聴け」が群像新人賞をとったんです。『群像』に応募しようと考えていた時だったから、『群像』を立ち読みしていて、新人賞受賞作だった「風の歌を聴け」の一ページを読んでそのまま読むのをやめた覚えがあります。これは読んじゃまずいと思った。「しまった、もしかしたら同じことをやろうとしているやつがいるのかな」と思って読まなかった」

「本当にそのとき有隣堂で一ページ目を見てしばし立ったまま考えてた。「この小説の価値がわかるのはたぶん僕だけだろう」とか、「この人はこれから何十年も書いていくんだろう」とか。「近いところにいるけど方向が全然正反対なんだよね」とかいろいろなことを考えながら、でも「邪魔だな」って思いました」



内田樹もいってるけど、これはほんとに貴重な証言ですよね。高橋源一郎は村上春樹の小説に芸術的シンパシーを覚えたわけだけど、いちかきてとしてはある種のトラウマとなっているわけですよね(笑)


↓この三冊は、日本人…日本語をつかうにんげんすべて必読だとおもう。


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ジョン・レノン対火星人 (講談社文芸文庫)/高橋 源一郎
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さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)/高橋 源一郎
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