■『椰子・椰子』川上弘美/絵・山口マオ 新潮文庫
- 椰子・椰子 (新潮文庫)/川上 弘美
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「妊娠中のもぐらと一緒に写真をとったり、町内の縄文人街を散歩したり、子供たちを折りたたんで押し入れにしまったり、中くらいの災難に見舞われ一時乳房等の数が二倍になったり。奇想天外でヘンテコで不気味な出来ごとが、次々と繰りだされる日常を、ごく淡々と送る女性の、ユーモラスな春夏秋冬。一足踏みいれたらきっととりこになる、とっぷりと心地よい「椰子・椰子」ワンダーランド」裏表紙から
いま読んでいる本がちょっとむずかしいので、息抜きになにか手慣れた作家のものを、と買ってみたのだけど、まさにその役目にふさわしい、じつにナンセンスかつ愉快なおはなしだった。
おはなしのかたちとしては、一年を通して書かれた日記と、季節ごとに挿入されるちょっと長めのエピソードから成っていて、あいまに山口マオのヘンテコな絵がちょこちょこ入り、印刷技術の都合なのか、理由は知らないけど絵本系の本はみんな紙質がかためだからページをめくる感触もよくて、そのうちかかっていた文教堂のカバーもなんだかシックにおもえてくるくらい、ぜんたいに充足した作品でした。一家に一冊ボンですね。
あとがきによればこれは川上弘美の夢日記がもとのようで、夢らしく理不尽にして不気味な出来事が連続しているのに、特に違和感とか怖さみたいなことはまるでなく、非現実的なはなしもなんとなくそのまま受け入れさせてしまうのはいかにも川上作品らしくて、まちがいなく読んでいる最中は、この世界に僕は住んでいたのでした。
そして、なんというのかな、主人公含め通してあらわれてくる人物もいるのだけど、それぞれ別個に、さっきは連続と書いたがじつは不連続に、ぽつぽつと本の中にエピソードがつったっているような印象もおもしろかった。日記のあいまに挿しこまれる長文だけど、僕はなにか、このぶぶんだけは、このナンセンスな不条理の世界に住む主人公が書いたナンセンスにして不条理な「物語」のような感じがしましたね。日記一般の役割として、日常のあるぶぶんを取り出して、ぽこぽこ、前後もなく記録していくという感覚以外に、こちらの長文にはどこか確固としたものがあるというか…。
山本アユミミという名前とか、折りたたんで押し入れにしまわれちゃう子供とか、数学コンテストの女の子たちとか、いちいちかわいいね。山口マオさんというかたが、小説の内容を絵にしようとしていない、というのもよかった。いや、小説の内容を絵にしていることはいるんだが…。起こった事実ではなく、小説を踏まえて、画家のなかに出てきた絵を描いているというか。要は、「ヴィジュアル化」されてないってことです。あくまで小説だからこそ、この世界は“こう”なのだから。
それにしても、やっぱり乳房は惜しかったね。