『くっすん大黒』町田康 | すっぴんマスター

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■『くっすん大黒』町田康 文春文庫

くっすん大黒 (文春文庫)


「三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行った。誰もいない部屋に転がる不愉快きわまりない金属の大黒、今日こそ捨ててこます―――日本にパンクを実在させた町田康が文学の新世紀を切り拓き、作家としても熱狂的な支持を得た鮮烈のデビュー作、待望の文庫化」裏から



なんかいっぱい読んでる気でいたけど、まだこれで二冊目なんだな、町田康…。


語りのちからですね~すごいですね~いっきに読ませますね~皮肉屋だね~


もちろん、落語的にして文学としても圧倒的としかいいようがない、ふざけた「語り」がこの小説の武器であり、ぜんたいのだるいユーモアとでもいうか、失笑感を誘ってるにはちがいないけど、根本では、きわめて自覚的な、というか自虐的な町田康の皮肉な反省が、これを滑稽にしているのだ。ふつうは虚無的になってしまいかねないところを、このひとではにやにや自省的に外から捉えなおしてしまう。まっすぐに立てない大黒は言うまでもなく主人公の投影であって、これをおんなじ姿勢で横になってにやにや眺めながら、捨てるやら捨てないやら、もたもたもたもた、むしろ硬質な文体でこそ用いられる四字熟語などのことばをごにょごにょ理屈っぽく混ぜて、結局捨てないでにやにやしてるみたいな、ぜんたいの徒労感というか、時代遅れな感じが滑稽なのだ。大仰なほどに、しかつめらしい顔をして古風なことばの挿入される文体が輪郭をなすこの時代遅れ感は、もう少し高次の視点から見るとおもしろいのだけど、これは文庫版解説で三浦雅士がきわめて興味深い書き方をしているので、ふだんは解説を読まないひとでもこれは一読の価値あり。そしてこの、タイムスリップして現代にやってきちゃったおサムライが、センター街の真ん中に仁王立ち、腕組んでギャル汚やB-BOYを観察していたら通報されてお縄、みたいな感覚は、まあ僕はこれで二冊目だし一冊目もどんなはなしか覚えてないけど、感触としては覚えがあるので、町田康の根幹をなす小説観なのかもしれない。



ともあれ、まずは町田康独特の文章がもたらす乾いた笑いを体感すべきかと。有機的なことばの関係性が生む小説というものが、「映画や漫画」マイナス「絵」、ではないということがよくわかるとおもう。