第122話/対野人戦準備
いろいろ合体させた少年誌的な必殺技、真マッハ突きがついに完成だ!試しに打ち放たれた拳は、その衝撃波からか、フロア中の窓という窓を砕いてしまう。「バシャア」という音は窓の破れる音だったのだ。
この音には下で稽古指導をしていた末堂やウェイト・トレーニング中の加藤、またピクルにやられた傷も未だ癒えぬ寺田などが過敏に反応する。
マッハ突きの圧倒的な破壊力にも驚きだが、なにより末堂だっ!ドリアンにジェットコースターから落とされて以来の登場。安否不明なキャラは多いが、そのなかでも僕はけっこう気になってました。ドリアンとのバトルは、まあ一方的だったけど、僕はわりと好きなのです。よかったよかった。
なにごとかと、テロかと、またドイルかと、階段をダッシュで寺田が克巳のもとに駆け付ける。(そういえば死刑囚の面々はドリアン以外まったく見ないなぁ。けっこう魅力的なキャラばかりなのに。まあスペック、ドイル、柳、ドリアンは再起不能としても、シコルスキーはいけるんじゃないかなー)
寺田の目前に広がるのは、すべての窓が割れた道場とまんなかに立つ館長だ。寺田ってこんな不細工だったかなぁ…。
「なァ寺田…
えれェもんだな…
何か一つでもいっぱしを身につけるってのは…」
口調が父親みたいになってる。ついに悟りをひらいたか。
寺田の背後には末堂、加藤ら、ビル内にいた稽古生たちが続々とやってくる。稽古中だったとはいえみんなものすごい汗だくで焦ってる。まじで死刑囚編のときを思い起こして緊急事態を考えたっぽい。ヤクザの事務所ばりに危険なところですよ。少年部とか大丈夫だろうか。ちゃんと入ってるのかな。
克巳にもたしかなことはわからないが、とりあえずは「完成」したっぽい。しかしまだなにかがある。
(不思議だ…
あの感触…
右手に残る…
想像(おも)ってもいなかったあの感触…)
時速60キロだか80キロだかで走る車の窓から手を出して空気を受けると、おっぱいを触るのとおんなじ感覚になるんでしたっけ。
音速ではいったい何カップになってしまうのか?!
そのころ、主人公の刃牙は、現在の相棒ルミナくんと、夕焼けっぽいがおそらく朝焼けの美しいどこかの河原でたたかいの準備中だ。わけわかんない理由で呼び出されて朝から大変だなルミナも。
たぶん池袋にある本部と、バキのいるところではどのくらい離れているかはわからないが、克巳の必殺技完成の報せは特殊な波動となってバキにも届いていた。というか、バキのほうの特殊な感覚がそれを受け取った。ルミナには音は聞こえていないようだから、これはまさにグラップラーとして特別に有する共振感のようなことかもしれない。いずれにせよドラゴンボール的だ。
とにかくなにかを感じ取ったバキは、「急がなきゃ」と柔軟体操を続ける。克巳がマッハ突きを完成させた…というよりは、誰かがなにかを完成させたという程度の認識かもしれないが、とにかくピクル争奪という意味でライバルにある誰かがじぶんに先んじているっぽいので、急がなきゃ、と言ってるのかな。バキはこれから試合のようだ。
土手のうえにあらわれたのはストライダムだ。ルミナは驚く。
「ストライダムさんと!!?」
…って、キミはこのおっさんを知ってるのか!?…え?会ってましたっけ?
もちろんちがうヨ。彼は一流だが、ファイターではなく観戦者としてだから。
ストライダムも詳細は知らされていないようだ。もちろん相手はリアルシャドーの妄想だろうとバキ読者は誰もが見当をつけるはずだが、このひとたちはぜんぜんそんなことおもっていないみたい。
体操を終えたバキがシャツを脱ぎ捨て、構えて妄想に入る。ストライダムはよくわからないが、ルミナは敏感にバキの「相手」を知覚する。だがまだそれが通常では考えられないほど大きいということしかわからない。
「この時点で―――
対戦相手を想定し終えているのは
まだ刃牙一人だった…」
刃牙の目前に現れたのは太古の暴君、ピクルの最大の親友、ティラノサウルスである!こんな巨大な生物を、なにをどうすれば倒せるのか?
つづく。
バキのリアルシャドーを目撃したことのあるルミナ、それに観るだけなら百戦練磨のストライダムが召喚されたのは、バキの相手がいかに想像を絶するものかということを示すためだろうか。げんにストライダムはまだなんのリアクションも見せていない。驚くほどのこともないとおもってるなら別だが…
しかしどうやって倒すんだろ。最強動物説にもいろいろあるが、格闘技ファンが酒の席で「誰が最強か」みたいな不毛にして楽しいはなしをするとき、無邪気に「やっぱ全盛期のタイソンでしょ」というときのような説得力が、ティラノサウルスにはある。いくら主人公といえど、サイヤ人ではない生身の人間がこれをどう倒すのか…。
方法もうまく浮かんでこない。勇次郎が巨大象を仕留めたときも、脚を蹴ったり鼻をしめたりしていたが、具体的にどうやって倒したのかはよくわからなかった(僕が覚えていないだけかな?)。絵が浮かんでこないのは、致命傷を与える方法がわからないからだ。ちまちま体力を奪ったって野生の動物を倒すのは(殺すのは)難しい。しかし素手で致命的なダメージを加えるには、こちらの技の威力に関わらず、頭部や胴体の位置があまりに高すぎる…。とびつくなり組み付くなりして夜叉猿のときみたいに穴越しに脳を攻撃するには、これはイメージなのだから、バキは鶴仙流舞空術を取得しなくてはならないが…。やはりドラゴンボールだな。
ていうかそもそも、バキはなにをもとにティラノサウルスをイメージするのか…。これまでのリアルシャドーは、身体と直結した刃牙の圧倒的な想像力で、1の情報から100のふるまいを構築する…というものだったはず。烈しかり、アイアン・マイケルしかり、カマキリしかり。しかしティラノサウルスではもとになる設計図がどう頑張っても映画情報だ。まさか『ジュラシック・パーク』じゃないだろうな。いまはどうか知らないが、当時の研究ではその脳みその小ささから、「ティラノサウルスは停止しているものを生き物として知覚できない」というのが定説だった。あの映画で動きを止めたグラント博士にティラノサウルスが気付かず、鼻息をかけるだけで終わったのはそういう意味でした。バキの構築するティラノサウルスがこのときのものなら、この性質を利用して顔を引き寄せることができるぞ。グラント博士がそうなったように。しかもこの場合は不意打ちだっ!
しかしこの研究はもちろん当時のもので、現在のT-REX観がどのようなものかはよく知らない。脳は小さいが視力を司るぶぶんは大きかったという発見もあるようだし、なんの本かは忘れたが、とまっているものを知覚できないようでは、緊急時の鹿などを考えればわかるように、草食動物を捕まえることなんかできなかったはずだ、みたいな説も読んだような気がする。要はバキがなにを参考にしてどの段階のティラノサウルスをイメージするかだ!