第103話/敗北の報
魔拳・烈海王が敗北し、喰われた。今週号は題名の通り、この結末を知った戦士たちのリアクションを描いたものだ。まあ、最初にあんだけファイター集わせて盛り上げちゃいましたから。一話ぶんくらいはつかってこれをやらないと、通して読んだときへんですからね。物語的にはちょっとした小休止みたいなものか。週刊連載のもどかしいところですね。
たぶん、時間的にはバキと烈が会っていたときよりちょっとだけもどるのかな、おそらくは神心会本部道場で、克巳たちの見守るなか、愚地独歩は寸剄による氷割りの演武を行っていた。バキではよくこういう場面あるけど、なんなんだろうな。稽古の一環?じっさいの演武にむけての練習?稽古生への手本?いずれにせよ日常的にやることではないとおもうんだけど。
ふつう氷割りって、もう少し薄くしたものをやや離して、叩いた際氷と氷がぶつかりあうことで割れやすくしたりするものだけど、このひとのはそんな生易しいシロモノではない。一枚というか一個のでっかい氷塊を机のうえにただ載せただけだ。そういえば烈もピクルとのファイト前に試し割りやってたな。
氷の横腹、表面にあてた拳を気合いとともに回転させ、腕の運動以外が生むエネルギーを氷に送りこむ。やや遅れて、巨大な氷のかたまりはひび割れ、がれきと化す。正拳突きがきちんと蹴りこめていれば、原理的にはできることなんだろうけど…。
つづいて、克巳も初めて見るという「針金切り」だ。離して立てられたコンクリート・ブロックのうえに置かれた一本の針金。独歩はむしろ無造作に、超スピードの手刀を振り下ろす。これだけ軽いものを切るには、それが勢いでずれたりしてしまう前に振り抜く必要がある。ふたつにわかれた針金の断面は溶けたように下に向けて流れている。すさまじい速度だ。克巳もびっくり。初登場のころは、父親よりはやい年齢で瓶切りを達成したことを自慢していたくらいだったのにな…。諸行無常…。
そんな独歩のもとに徳川さんから電話が。だがなにを言ってるのかわからないくらい徳川さんは興奮だか混乱だかしている。落ち着いてください、烈が喰われたとはどういうことですと、「喰われた」という内容の非現実性も手伝って独歩は聞き直す。変わらず徳川は興奮しっぱなしの、異星から受信した電波信号みたいなしゃべりかただが、独歩は冷静に状況をつかんでいく。いっさいを了解して電話を置いた独歩の表情は…なんだろう。驚きとも困惑ともつかぬ妙なものだ。
独歩は、いちおうは当事者といっていい息子の克巳を呼び出し、事情を説明する。克巳は真っ青(真っ黒?)になって、烈が負けたという事実に戦慄するが、独歩は、負けたのではなく餌にされたのだ、と克巳の認識を修正する。
「~~ッッ
舐めやがって…ッッ」
独歩の落ち着いたリアクションとは対照的に、若い克巳は目を血走らせ、とにかく怒っている。いきり立つ息子を父は諌める。本質がわかってないと。
「舐めとらんよピクルは
いや…正確に言うなら
俺たちゃ舐めてすらもらえてない」
それが舐めてるっていうんだ、と克巳。若いなぁ…。
「舐められる…ってのもおめえ
一つの権利―――資格だぜ
ピクルは舐めとらん
我々が魚や肉を舐めてないようにだ」
冷静で俯瞰的な父親の言に、まるっきり反抗期の克巳は、わかってないのはアンタだという。それを舐めてるって言うんだ、と。
ため息まじりにさらに諭すのかと思いきや、「ナルホドね」と独歩は納得してしまう。こういうひとを食ったような諧謔性というか柔軟さが独歩の真骨頂ですよね。松尾象山然り。
「烈海王喰われる!
この報は
厚木基地
同窓会員達の元へ
野火の如く
燃え広がった」
みんな受話器を手にしているが鎬弟だけは持っていない。神心会で直接聞いたのかもしれない。広がるというからには徳川さんがみんなに伝えたわけではなく、それこそ連絡網的に伝わっていったのかな。ガイアには誰が伝えたんだろう。あのときガイアがいたことを知っているのは勇次郎だけだったはずだけど。仮に誰かがいたことに気付いていたとしてもガイアとはわかるまい。久しぶりすぎて。ジャックかな?シコルスキー戦以来仲良しになってたりして。ていうか、こうやってみると、ガイアってほっしゃんみたいだな。
勇次郎にはストライダムから連絡いくだろうけど…、こんなささいな描写においても、勇次郎いわく「烏合の衆」とは一線を画している。勇次郎だったら、烈が喰われたことをストライダムから聞くだけで一話はつかいそうだ。
改めてこうみてみると、戦力もバキ的知名度もばらばらな、へんなメンバーだ。そしてみんな古い!いちばん新しいキャラで寂海王だけど、このひとだってアライJr.の前からいる。
さらにいえば、烈同様、いわば最強のパンピーたちといっていい彼らのなかにジャックが混じっているというのもなんだかさびしい。諸行無常…。いちおう最大トーナメントのファイナリストなんだし、からだも大きくなってさらに強くなったにちがいないのだから、理論的にはまちがいなく対ピクル、勇次郎の最右翼なのにな…。姿を見せなかった潜伏期間が長すぎたからな…。
立ちつくす徳川さんと博士の前では、分厚い鋼鉄の扉がぐにゃぐにゃに破壊されている。麻酔から目覚めたピクルが脱走したのだ。たぶん、最大トーナメント編、同様に麻酔で眠らせた範馬勇次郎を捕縛し収監した核シェルターみたいなやつとおなじ。博士は白サイを一晩眠らせるという麻酔が数時間できれてしまったことに驚き、また徳川さんは危険な野人が逃げ出してしまったことを「エラいこと」としながら、半笑いだ。なぜならこの鋼鉄のドアを破ったのは、過去範馬勇次郎ただひとりなのだから。脱走したピクルは東京ドームホテル(たぶん)の屋上にあぐらをかき、強風のなかドームを見下ろしているのだった…。
…えーと、どうやってピクルはあんな高いとこまで登ったのかなー…。
このまま独歩たちフツメンズはフェイドアウトして、ついに範馬とピクルの個人的究極バトルに入るのかとおもいきや、ふつーに独歩たちがからんできた。うーむ、どうやってつかう気なんだろう。スーファミの『超サイヤ伝説』というゲームでは、対ナッパ・ベジータはともかく、ナメック星に着いてからの天津飯やヤムチャは完全にお荷物だった。ボス戦ではバトルに参加させただけで、1ターンで死んでしまったし。ドラゴンボールのバトルが後半完全にサイヤ人の領域になってしまったように、このおはなしも結局は血と個的な強さのはなしに収束してしまうのかとおもったのだけど、そうかんたんではないみたいですね。だけどもう、正直烈レベルなら「**対ピクル」ってのはお腹いっぱいな感じ。これをどう運ぶのか?漫画家として腕の見せどころだ。