『凶気の桜』サウンドトラック | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

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■『凶気の桜』サウンドトラック



ヒキタクニオ原作、薗田賢次監督、窪塚洋介主演、K DUB SHINE音楽という、ありえないくらい男臭いスタッフで製作された映画『凶気の桜』のサウンドトラック。窪塚洋介がスキンヘッドになり、なにかおかしいことになり始めた例のあのころの映画です。もちろんK DUB SHINEプロデュース。出演は他に原田芳雄、本田博太郎、江口洋介、須藤元気、RIKIYA、高橋マリ子。書いてみてじぶんでびっくり。すごいめんつだなこれ…。



☆渋谷に若きナショナリストの結社が誕生した。その名もネオ・トージョー。山口(窪塚洋介)、小菅(須藤元気)、市川(RIKIYA)の三人は、無垢な怒りと薄っぺらい思想から、特注の真っ白な戦闘服を身にまとい、素手の格闘術と最小限の武器で、脳みそのぱさついたパープーども、主義も主張もない、半端に生きる不良たちを“狩って”いく。みずからの育った、日本の、渋谷という街が、次第にアメリカ化…「アメポン」化していくさまに、彼ら、特に山口は、強烈な怒りを覚えていたのだ。
そんな三人をおもしろがったのが、右翼系暴力団・青修同盟の青田(原田芳雄)。山口と青田は「アメポンを憂える者どうしのシンパシー」から、半ば親子のように親密な関係となる。他方で小菅、市川にも、青田によって若頭の兵藤(本田博太郎)、消し屋のサブロー(江口洋介)が紹介され、本職の匂いを感じとったふたりは、憧れとともにそれぞれこのふたりを慕うようになる。しかしある日、ネオ・トージョーが青修同盟と対立する小西組が仕切るクラブを知らずに襲撃したことから、三人の若者は本職たちの黒い陰謀に巻き込まれていく…


映画じたいのあらすじはこんなところですが、これについてはまたべつに書きたいので、今回はサウンドトラックについて。


(ひとつだけ映画について書いておくと、これの最大の見所は、彼らの思想それじたいではありません。無垢な怒りにつき動かされる、痛々しいほどに無知な彼らの姿です)



K DUB SHINEのソロ楽曲はぜんぶで三曲。「アウトロー」、「生き証人(青のブルース)」、「凶気の桜」は、それぞれサブロー、青田、山口のテーマ曲。ですので、これがK DUB SHINEの「ことば」であるかというとそれはちがう。サウンドトラックという形式ですので、ここでは例のファンタジーとしてのラップ、「キャラクター」を媒介した表現となっています。しかしところどころに下記のようにK DUB SHINEの本音みたいなものがちらついているのがおもしろい。

「いかにも重要 にもてはやす偶像

その名も流行 っていう名の宗教」

「日本人なら誰だって頭に

こびりついてる広島や長崎

時が忘れさせるってわけには

簡単にいかせねえぞこらアメリカ」
(ともに凶気の桜より)



この短いぶぶんを見てもわかるように、普段の彼らしい、超重量級のライミングもまんべんなく聴かれて、心地よい。メッセージ性ということを考えたとき、押韻という手法がいかに効果的に働くか、よくわかる。文字が直截にあたまのなかに堆積していくよう。

キングギドラからも一曲、『最終兵器』の「ジェネレーション・ネクスト」のリミックスが収録されていて、トラックだけでなくフックも録りなおされています。ジブラはこれ以外に「アウトロー」のフックも務めていて、これを聴いた当初、この、節操なく生きるということを節操とするサブローという男のテーマ曲でジブラをつかうというのは、なにか意図があるんじゃないかと勘繰ったものです。真相は不明ですが。

キングギドラ周辺ではもう常連、童子-T、UZIもそれぞれソロで一曲ずつ参加。そういえば映画中ではキングギドラの「平成維新」がつかわれていたけど、このサウンドトラックには入ってないんですよね。なんでだろ?マジで、最強にかっこいいとおもうんだけどあの曲。

よく知らないんだけど…ABCのひとなんだろうか?JA飛龍、PROJECT雷電という、どギャングスタなクルーも二曲参加。

あと、最近よく声を聞くようになったJUJUも三曲参加。映画内では高橋マリ子の登場場面で使われていて、彼女同様、基本的には暗く、マイナーな作品中の、ある種癒しとして、ばらばらに設置されています。ずっとK DUB SHINEだと正直少し疲れますからね。

同じ意味で、サウンドトラックも後半に入ったあたりでコーンヘッドやリョー・ザ・スカイウォーカーらレゲエ勢の底抜けに明るい曲がうれしい。

そしてもっとも驚き、というかむしろ浮いてるのが、スコア11、DJ MASTERKEYプロデュース「LET ME FLOW」のHi-Timez!最近名前変えて、デフテックのひとと曲出したひとたちです。この「LET ME FLOW」がものすごいかっこよくて、僕は彼らのアルバム買ったくらいなんですが、しかしこのサウンドトラックでは明らかに浮いている…。K DUB SHINEプロデュースの作品なんだから当然彼が呼んだのだろうけど、これもアルバム全体のバランス、振幅的なことなんだろうか?



いずれにせよ、かなり長いあいだ愛聴している作品。映画見てなくても充分に聞けるし、「映画」を媒介した表現ということが、通常ならかなり聴き手を選ぶ彼らの音楽を非常に聴きやすくしているとおもう。コンセプト・ソング集とでもいえばいいのかな。映画を見ていればなおよし。山口のテーマ、「凶気の桜」が含む、沈んだ怒りと痛みは、全日本人必聴。映画内では小菅と市川がああいう結果になってしまったことを知った山口が、すなわち窪塚洋介が、すさまじい表情でひとのいない渋谷の街を突き進むシーンで使われているが、この場面がマジで鳥肌もの。ひとりの人間ということを社会と比較したときのあまりの小ささ、無力感と、それに反比例して強くなっていく山口の「真っ白な怒り」…。映画じたいの出来は正直いってあんまりなんですが、このシーンは別格。やっぱり窪塚洋介はすごい役者だわ。


ちなみにアルバムのおしまいには、「窪塚洋介」ではなく、「山口進」が、フロウなしのラップを披露しています。