僕はこの人の映画の観方を、映画に限らないすべてのおはなし作品を読み込む際の手本にしています。いま十代の人って、下手するとこの人知らなかったりするのかな?もう亡くなられてから10年近くたつので…。
淀川長治さんは、いまもやっている日曜洋画劇場のはじまりとおしまいに解説をやっていた、日本で初めての映画解説者(評論家ではない)です。うちの母親は、「この人の話しているあいだにトイレにいく」みたいなことを冗談混じりに言っていましたが、僕は淀川さんのはなしが大好きでした。映画が好きで好きで好きで好きでたまらない、そういう愛情が、やわらかくあたたかくシンプルに、伝わってくる。いまもそうだけど、日曜洋画劇場の放映する作品は、金をかけまくった大衆映画から通りいっぺんのB級アクションもの、アカデミー賞受賞作品にコメディまで、多岐にわたるものですが、僕はそういったジャンルも質も異なった作品群について、淀川さんが批判したり辛口になったりしたところを見たことがありません(たまたまかもしれませんが…)。この人は、ぜったい、どんな作品も、評価するのです。CGがすごい、絵がすごい、キャメラがいい、脚本が繊細だ、ジャン・クロード・バン・ダムの筋肉がやばい、ブルース・ウィルスの二の腕が
男臭い…というふうに、必ずいい点、というか好きな点を指摘してみせる。そこしか見えないのか、解説者としての姿勢なのか、それはわかりませんが、とにかく、この人のはなしをきくと、映画ってこれほどまでに楽しいものなんだっていう気分になります。
僕の手元にはたまたま、彼が最後に解説をした『ラストマン・スタンディング』の録画ビデオがあります。(黒澤明の『用心棒』をベースにした、ブルース・ウィルス主演の西部劇)。これが放映されたとき、彼はすでに亡くなっていたため、映画の前に『淀川長治特集』が組まれていました。淀川ファン、というより淀川的映画党にはかなりアツイ内容になっています。ドクターストップ寸前で行われた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでの講演で彼はこう言っています。
「みなさんが映画をご覧になって、ほんとうに映画をわかっているかどうか、またほんとうにわかっていれば、どんなに、ワン・カットでもおもしろいか、楽しいか」
映画が大好き大好き、映画って、こんなに楽しいんだよ。美しいんだよ。淀川さんはとにかく、このたったひとつのことをずっと言っていたのです。想いが強いから、「それからそれから…」と早口で、おんなじことをくりかえし口にしてしまう。チャップリンのはなしをしたり、スティーブン・セガールと対談したり、そんなときの淀川さんはまるっきり子供みたいで、幸せそうです。ある種類の厳しい映画ファンは、良いものと悪いものの区別もつかないのか、みたいなことを思うかもしれない。しかし淀川さんは「映画」を信じていましたし、ただ愛していました。中卒の自分がここまで生きてこれたのは、映画があったからだ、とまで言っているのです。良識ある映画ファンは、このようなことばを口にできるのでしょうか?
もちろん、上で述べられているように、淀川さんもいわゆる「読み込み」をしています。それでこそ映画のほんとうのおもしろさがわかるし、またそこまでいけば、「映画」って完全無欠におもしろいものなんだと、そういうことを言いたかったのでしょう。