金英男 さんが会見 「めぐみさんは自殺」と説明
横田めぐみさんの夫だったとされる韓国人拉致被害者、金英男(キム・ヨンナム)さん(44)は29日、母姉との再会のため訪れている北朝鮮・金剛山で記者会見した。韓国の代表取材団によると、英男さんはめぐみさんが「94年に自殺した」と語るなど、これまでの北朝鮮側の主張を展開。自身は「海で漂流中、北朝鮮船に救助された」と拉致を否定したほか、ニセのめぐみさんの遺骨を渡したとする日本の主張を「北への謀略」などと批判した。asahi.com:金英男さんが会見 「めぐみさんは自殺」と説明?-?社会
英男さんらの28年ぶりの対面は、離散家族の再会事業の一環として実現した。これまでも拉致被害者が再会事業に参加したことがあるが、北朝鮮による拉致の事実は認めていない。北朝鮮当局は英男さんの言葉を通じて、韓国に民族協調を訴えるとともに拉致問題の早期解決を求める日本側を牽制(けんせい)したとみられる。
会見は午後4時から約30分、南北の代表取材団を相手に行われ、母親の崔桂月(チェ・ゲウォル)さん(79)と姉の金英子(キム・ヨンジャ)さん(47)が同席した。
英男さんによると、78年8月、海水浴先の韓国南西部の島で先輩とトラブルになり、身を隠そうと小舟に乗船。うっかり眠って沖に流され、通りかかった北朝鮮の船に助けられ、中西部の南浦に着いた、と説明した。
不安だったが、「北の人たちの親切さと特別待遇」で認識が変わり、「ここで勉強して(南に)帰ろうと思った」と述べ、「(朝鮮労働)党と国家の配慮」で自主的に北朝鮮での生活を選んだことを強調した。
北朝鮮で大学を卒業後、現在は「特殊部門で働いている。統一部門の事業をしている」と説明。めぐみさんとはその過程で86年初めに出会ったと語った。「仕事上の必要」からめぐみさんに日本語を習ううちに親しくなり、同年8月に結婚したという。
だが、めぐみさんはヘギョンさんを出産後は「病気の症状」が悪化、うつ病も併発して精神的に異常をきたし、94年4月13日に病院で自殺した、と説明した。その上で遺骨は偽物だと主張する日本政府を「北に反対する不純な政治的な目的達成の手段に使っている」と批判した。
英男さんは自身の名前について「日本との関係で、本名が知られて良いことより、良くないことの方が多く、別の名前をいった」と述べ、日本政府代表団に自ら名乗った「キム・チョルジュン」は対外活動用の別名であることを示唆した。
ヘギョンさんを「めぐみと私の娘」と認めた上で「本名はウンギョンでヘギョンは幼名」と説明。ヘギョンさんを日本に送る考えがないことを強調した。
自身と同時期に北朝鮮に拉致されたとされる韓国人高校生(当時)らの消息については「知らない」と述べた。自身は当面、韓国を訪問する考えがないとしたうえで、8月に平壌で開かれる大規模な芸術公演「アリラン祭典」に母と姉を招待したことを明らかにした。
狙い通り?北朝鮮の主張に沿う内容に 金英男さん会見
金英男(キム・ヨンナム)さんは29日の記者会見で、自身や横田めぐみさんの拉致の経緯、ヘギョンさんとの関係など、関心を集める点をほぼ網羅し、予想通り北朝鮮の主張に沿った内容に終始した。南北関係筋は会見について「肉親との再会を果たした本人の言葉は見る人をそれなりに引き込む。北朝鮮はそこまで計算したはずだ」と指摘する。asahi.com:狙い通り?北朝鮮の主張に沿う内容に 金英男さん会見?-?社会
記者会見は、英男さんが母の崔桂月(チェ・ゲウォル)さんと再会した28日に、会場の北朝鮮・金剛山で北朝鮮当局者から韓国側関係者に急に言い渡された。今回の再会を、約100組ずつが対面する「南北離散家族再会事業の一環」と位置づけている当の北朝鮮が、一家族にだけ記者会見を設定するのは極めて異例だ。この機会を利用して、日本に向けて北朝鮮側の反発を訴え、韓国に対しては民族共助の精神に訴えようとした。「情」を利用して日韓の分断を図ったとも言える。
北朝鮮当局は韓国取材団に事前に質問を提出するように要求し、英男さんの答えもよどみなかった。冒頭ではまず「家族が会えるようにしてくれた南北関係者に感謝する」と語った。昔のことを語る時、満面の笑みで公園の地名を挙げたり、「故郷を思わない人がどこにいますか」と韓国人記者に呼びかけたりし、いつか故郷の全羅道を訪ねたいと述べた。
一方で、拉致問題になると口ぶりは一転し、めぐみさんの死亡の真偽や遺骨問題について「私やめぐみに対する侮辱、愚弄(ぐろう)、人権蹂躙(じゅうりん)だ」と口を極めて非難した。
「拉致の否定」と「北朝鮮の体制礼賛」は、離散家族の再会事業に参加する韓国の拉致被害者の口から、共通して発せられるメッセージで、英男さんも記者会見で強調した。
韓国の拉致被害者が、公の場で拉致を否定するのは珍しくない。69年に大韓航空機が乗っ取られ乗客ら約50人ごと拉致された事件では、直後に操縦士が記者会見を通じて「自ら北に入った」と発表した。
韓国の拉致被害者は、漁民を中心に500人近くに上る。英男さんと同じ高校生当時に拉致された人も5人いる。
だが、北朝鮮は「南北間に拉致問題は存在しない」と主張し続けており、そのため韓国政府は離散家族問題の枠内で、再会を実現させるしかないのが現状だ。韓国側は南北閣僚級会談などを通じて送還を要求しているが、1人の解放・送還も実現していない。
当初は英男さんは最初の送還ケースになるのでは、と期待の声もあったが、肉親との28年ぶりの対面という感激の光景と英男さんの「独演」だけを残して、核心的な課題は先送りになりそうだ。
「怒りで煮えたぎっている」横田夫妻会見
「めぐみは、不幸にも94年に死亡した。これがすべてだ」。29日、北朝鮮から流れてきた横田めぐみさんの夫とされる金英男(キム・ヨンナム)さん(44)の記者会見。その映像を東京で見ていた、父滋さん(73)は唇をかみ、母早紀江さん(70)は大きく息を吸い込んだ。「予想通りの内容」。2人はそう言ったが、「死亡」という言葉を淡々と読み上げるように語る英男さんに対し、怒りを隠せなかった。asahi.com:「怒りで煮えたぎっている」横田夫妻会見?-?社会
「相当に訓練されて(記者会見に)来ている。予想された通りの会見」「目新しい事実は何もなく、今後もめぐみの生存を前提に交渉してほしい」
映像の放映直後に始まった記者会見では、横田夫妻は「北朝鮮の従来の主張通り」と冷静な姿勢をみせた。遺骨について「(日本側が)偽だと決めつけるのは、私とめぐみに対する侮辱」とした発言については、「偽の骨を持ってきて納得するように言っているのは、これまでと同じ」と話した。
会見が進むうちに、娘と孫を愛する両親、祖父母としての顔がにじみ出た。
早紀江さんは、めぐみさんの病気について「出産も育児も何も教えられていないことを初めて経験して、どんなに大変だったかいつも想像してきた。うつ病にはなったかもしれない」「あまりにも孤独で、それでも生きていかなければならない。13歳まで本当に幸せに暮らしていたのに、なって当たり前だと思う」と繰り返した。
英男さんについて質問が及ぶと、「向こうにいたから偶然結婚させられただけ。日本にいましたら、健全な結婚ができて、子どももできて……」と、少し声を震わせる場面もあった。
英男さんが、めぐみさんの娘ヘギョンさん(18)を「日本に行かせるつもりはなく、本人も行く意思はない」と話したことについては、滋さんは「父が親権者なのだから、こちらが無理に連れてくることは難しいかもしれないが、留学などで、受け入れたい」と控えめに話した。
演出されたような英男さんの記者会見に、いらだちも。1時間弱の会見の最後に、滋さんは、韓国政府に対し「北への融和政策をとるのはわかるが、拉致をなかったことにするのは間違いだ」と訴えた。
早紀江さんは、小さくため息をつき「頭の中も、おなかの中も怒りで煮えたぎっている。怒りすぎて、倒れてしまいそう」と漏らした。