From:ななころ
都内ウェンディーズより
◆多法人スキームの終焉
「多法人スキーム」もしくは「1法人1物件スキーム」をご存知でしょうか?
おそらくこのブログを読んでくださるような勉強熱心な方は、ご存知の方も多いでしょうから詳しい説明は省きます。
簡単に言ってしまうと、サラリーマン投資家が融資枠の限界を突破して、オーバーローン融資を受けて次々と高額な物件を購入していき、短期間で一気に規模を拡大してしまうスキームです。
裏技などともてはやされて、2015年ごろから急激に広まりました。
しかし、ここにきて金融機関が慎重になり、融資をストップしていると報道されています。
~ 記事一部抜粋 ~
会社員が不動産ローン20億円、突然の「融資中止」通告
不動産投資で過剰な借り入れに走る個人投資家に対し、金融機関が牽制(けんせい)する動きを強めている。他からの借り入れを隠して複数の金融機関で多額の融資を引き出した投資家に返済を求めるケースも出てきた。スルガ銀行の融資不正などで金融庁も不動産融資の拡大に警戒を強めている。金融機関の姿勢の厳格化が広がれば不動産市況にも影響を与えそうだ。
大手銀行などが問題視しているのは、「1法人1物件スキーム」と呼ばれている手法だ。多くの物件に投資する際、個人では借り入れに限度があるが、投資のたびに別会社を設立し、多額の融資を引き出す。実態は個人なのに多数社への別々の融資に見せかける。
(2019年3月4日 朝日新聞記事より)
~ ここまで ~
◆多法人スキームに一括返済を求めるケースも!?
さらに、りそな銀行では、多法人スキームの悪質な場合は、一括返済を求めるケースも出ているというのです。
楽待がなかなか切り込んだ記事を書いています。
この話はライフデザイン実践会のグループの中でも早い段階からシェアされていました。
たとえば、一括返済を求めるケースの他に「金利上乗せを提示されるケース」、
2重売買契約が発覚した場合、「差額分(ふかした金額と実際の金額の差額)の返金を求められるケース」、
そして、返金ができない場合は、「5年で差額分を積み立てられる定期を入れるケース」などがシェアされていたのです。
~ 記事一部抜粋 ~
りそな銀行が「1法人1物件スキーム」に鉄槌か
投資用不動産の購入にあたり、物件ごとに新設法人を作って別々の金融機関から融資を引く「1法人1物件スキーム」。短期間に規模を拡大できる手法として注目を集めていたが、昨年後半ごろから、金融機関側がスキームの利用者に対する対応を強化しているという情報が聞かれるようになった。
その中でも、特に強硬姿勢を示している金融機関として名前が挙がっているのが「りそな銀行」。一部のスキーム利用者に対して一括返済や金利の大幅引き上げを求めているという声があるが、果たしてこの噂は真実なのか、スキームの利用者に鉄槌が下される可能性はあるのか。実態を調査した。
(2019年2月22日 楽待新聞記事より)
~ ここまで ~
◆「多法人スキーム=悪」?
多法人スキームについては賛否両論あるでしょう。
上記の朝日新聞の記事や楽待新聞の記事や世間一般的な論調では、「多法人スキーム=悪」という見方が一般的だと思います。
たしかに他の銀行からの借り入れを隠す(聞かれなかっただけとする)ような形で、銀行から次々と融資を受けていくわけですから、褒められた話しではありません。
銀行や担当者が善意の第三者であるならば、融資をした方としては「たまったもんじゃない」「騙された」と憤る気持ちもまぁ分かります。
悪質な場合は、何らかの措置を講じることも分かります。
一方で、事業において、複数法人を持つことは割と一般的です。
節税対策、リスク分散、ブランディングといったメリットを考えて、一人の社長が複数法人を持っているケースは少なくありません。
また、銀行は「本当に善意の第三者だったのか?」ということもあります。
銀行も銀行の担当者も融資したくてしたくてたまらなかったワケですからね。
さらに言うと、”あの人”の言葉を借りるのであれば、
「不動産投資とは、投資家が物件を購入して、得られる家賃収入から返済や経費などを差し引いて利益を得ようとする行為。」
「もし投資家が想定した利益を出せなかった時は、投資の失敗であり、投資は自己責任とされる。これは社会の常識であり、世界の常識。」
「一方、融資とは、銀行が投資家や事業主にお金を貸して、得られる金利収入から経費などを差し引いて利益を得ようとする行為。」
「もし銀行が想定した利益を出せなかった時は、いったい誰の責任なのでしょうか・・・?」
「融資期間、融資額、金利を決めたのは投資家or事業主ですか?銀行ですか?」
「融資の可否を判断したのは投資家or事業主ですか?銀行ですか?」
「つまり融資は、銀行の投資行為とも言えるのです」
そのため、融資した銀行側にも一定の責任があると考えられるのです。
◆ななころは多法人スキームをどう思っていた?
そのため、ななころは多法人スキームについては、悪とも善とも考えていません。
相談を受けた時は、
「手間や負担の大きいスキームはよくよく考えた方が良いですよ。」
「複数の法人の管理も大変ですが、たたむのも大変ですからね。」
「正々堂々とした理由で複数法人を立てるのはアリだと思いますよ。」
といった感じで、白とも黒とも言わず、それぞれの不動産投資家のスタンスやステージによって判断を任せていました。
とはいえ、個人的には「やらない方がいいよな」とは考えていました。
私も別事業で2つ法人持っていますが、まぁ、それはそれは大変です。。。汗
ですので個人的には、よっぽど利益が出ない限りやりません。
しかも、ここ最近流行した多法人スキームは、だいたいの場合は「消費税還付」もセット。
そのため、数年は物件を売却できなくなわ、手間がかかるわで、はっきり言って税理士や不動産会社ばかり得をするスキームだと考えていたからです。
なにか後ろめたいことをしていれば、銀行から何らかの措置を覚悟し続けなければいけませんし、その恐怖に怯えながら返済をずっと続けていかなければなりません。
「そんなのは嫌だな」と考えていたわけです。
そのため、多法人スキームをテーマに、セミナーや勉強会を開催することも、講師を招くこともなかったのです。
いずれにしても、今回大きく報道されたことにより、多法人スキームは終焉を迎えることでしょう。
不動産業界の膿がどんどん出ていくのは良いことだと感じています。
◆編集後記
膿といえば、傷口の処置ほど、常識が変わることはないですよね!?
たとえば、転んで膝を擦りむいて血を出したとき、私が幼い頃の処置は「赤チン」を塗ることでした。
(年齢がバレてしまいますが笑)
それがいつの間にか赤チンからガーゼや絆創膏に変わったのです。
しかし、ガーゼや絆創膏を貼っておくと、ジュクジュクしてきて、それこそ膿んでくるのです。
すると、やがてガーゼや絆創膏から、パウダースプレー式の殺菌消毒薬に変わりました。
しかし、それも場合によっては膿んできてしまうことがあります。
最終的には、「消毒はしない方がよい」とされて、今に至ります。
これまで常識とされていたことが、どんどん非常識となっていく。
傷口の処置の変遷を思い出しながら強く感じた次第です。