エイチ湖に入ったナオキ達の前には、ジュンヤとジュピターがいた。
「………。」
目の前の光景を目の当たりにしたナオキ達は、一瞬言葉を失った。
ジュンヤは、その場に膝をつく形で崩れており、それを見下ろすようにジュピターが立っていた。
ジュンヤは、顔を上げてジュピターを睨み付けた。
「ちくしょう!ギンガ団め!!」
ジュンヤは、少し喉を詰まらせるような声でジュピターに叫んだ。
その叫び声は、虚しさだけが感じられた。
「ふぅーん、もう終わり?あなたのポケモンは、まあまあ。でも、あなたが弱いものね。」
その場に崩れているジュンヤに、ジュピターは容赦ない駄目押しをするように言った。
「それでは、湖のポケモン助けるなんてムリな話…。ポケモンチャンピオンだって諦めた方がいいわね。」
ジュピターの容赦ない駄目押しに、ジュンヤはその場にうずくまった。
「それにしても、ここ寒すぎるわ。トバリのアジトに戻りましょう。」
そう独白した後、ジュピターはそそくさと歩き出した。
それと同時に、ナオキとコウキがジュピターの前に立ちはだかった。
「ジュピター、貴様!」
ようやくナオキ達の存在に気付いたのか、ジュピターは今気付いたような様子で足を止めた。
「あら、あなた?ハクタイで会ったわね。」
「覚えてもらって光栄とでも言っておこうか。そんな事より…貴様、エイチ湖に…ジュンヤくんに何をした!?」
既に見当はついていたが、言い返せる事が浮かばなかったためか、ナオキはわかりきった事を言うしかなかったようだった。
「見ればわかるでしょ?とんだ邪魔が入ったから、軽く捻ってやったまでよ。あなたが来る数十分前の話だけど、この子、あたしにとってほんの肩慣らしにもならなかったわ。」
「!」
ナナカマド博士から『強いトレーナー』と認められたジュンヤがナオキ達が来るほんの短時間でジュピターに敗れたという事実…
これが移動により、体力を奪われたナオキ達の残された士気を奪い去っていった。
「いい?これからギンガ団は、みんなのためにすごい事をする。だからポケモンがかわいそうとかくだらない事であたし達の邪魔をするのやめてほしいわけ。」
ジュピターの発言に言葉を失っていたナオキは、ぴくりと反応した。
「くだらないだと!?貴様!ポケモンを何だと思っているんだ!!」
ポケモンへの憐れみをくだらないと思っているから、リッシ湖のような事ができるというのかとナオキは思っていた。
ナオキの怒鳴るような言葉にジュピターは、『だから何だっていうのよ?』というように動じず、ジュピターは平然とした様子で話を続けた。
「いずれにせよ、トバリのアジトに乗り込んできても意味ないのよ。」
「くっ…。」
ナオキは何も言い返せなかった。
散々な言われをして何もできない悔しさにナオキは右手の握りこぶしを震わせた。
この震えは、寒さではなく、それを上回る悔しさによるものだった。
「では、失礼。」
もう一つの勝利を手にしたように勝ち誇った様子で、ジュピターはそそくさとエイチ湖を去っていった。
ナオキ達は、それをただ黙って見る事しかできなかった。
エイチ湖は、しばらく静寂に包まれていた。
その静寂を破るように、エイチ湖のみなもがそよ風に吹かれぱちゃぱちゃと音を立てる音、そしてエイチ湖のほとりにうずくまるジュンヤから微かに聞こえる音がしばらく響き渡っていた。
ナオキは、バトルをしなかったがジュピターに勝ち逃げされたような心境になり、その悔しさとそれを噛み締める虚しさによりしばらく声が出なかった。
ナオキのポケモン達も、もうナオキに話し掛ける力も残されていなかった。
コウキは、うずくまるジュンヤを気まずそうに見ていた。
そのジュンヤがようやく動いたのは、それから少し経った後の事だった。
ジュンヤは、今まで見せなかったようなペースの遅さで立ち上がった。
ジュンヤが動き出したのに反応するかのように、ナオキ達もようやく我に返った。
ジュンヤは、俯いた様子で右腕で顔を乱暴に拭くような仕草をした後、後ろを向いた。
「!」
ジュンヤと目が合った瞬間、ナオキは再び言葉を失った。
コウキも気まずそうにジュンヤを見続けている。
ジュンヤの目は、『見てたのか』と訴えるようにナオキ達を見続けていた。
「ジュ…ジュンヤくん…。えっと…。」
まごついてるナオキに対してせっかちが本能として働いたかのように、ジュンヤは叫んだ。
「………そーだよ!」
「!」
ジュンヤの『もう隠しても無駄だろ』というような発言にナオキは何も言えなくなった。
ジュンヤは、全てを打ち明けるように言った。
「ギンガ団相手に何も出来なかったんだよ!」
わかりきっていた事だが、ジュンヤがジュピターに惨敗したのは事実だった。
「あのユクシーとか言われていたポケモン…すごく辛そうだった…。」
ジュンヤの脳裏に焼き付いたユクシーの辛そうな様子がジュンヤの心の傷をさらに深くした。
ナオキは、ジュンヤに何も言えなかった。
今の彼には何を言ってもかえって傷つけるだけだと悟ったからだ。
ジュンヤは、コウキのいる場所を見た。
「ジュンヤ…。」
コウキがそう言った時、ジュンヤは真っ先に返答した。
「コウキにも見られちまったか…。今までずっと勝ち続けてたってのに、無様だな…。」
ジュンヤは、コウキにも無様な姿を見られた事に今までの様子とは真逆の様子でいた。
いつもせっかちなジュンヤが急ごうとしない事が、ジュンヤの挫折感と無力感がいかに大きいかを物語っていた。
ジュンヤは、ふらつくようにエイチ湖の出口に歩いていった。
その様子をナオキ達は、ただ黙って見ていた。
出口に近づいた時、ジュンヤは足を止めた。
ジュンヤは、ナオキ達のいる方を振り向いた。
「…オレ…強くなる…。」
力のない声でジュンヤは、ナオキ達に言った。
「なんか勝ち負けとか…そーゆーのじゃなくて…強くならないとダメなんだ…。」
「……………。」
ナオキは、何も言えなかった。
そう言い残した後、ジュンヤはとぼとぼとエイチ湖を後にした。
エイチ湖は、再び静寂に包まれた。
エイチ湖の静寂を最初に破ったのは、コウキだった。
コウキは、言葉を失ったナオキに言った。
「…あんなに落ち込んだジュンヤ…初めて見たよ…。いつものジュンヤだったら、ちょっとした失敗もすぐに忘れて、すぐにまたせっかちなジュンヤに切り替わるんだけど…。最後までせっかちな仕草を見せなかったのは、これが初めてだよ…。」
コウキは、ジュンヤの心の痛みがどれほど大きいものなのかを本人になったかのように痛感していた。
「キミがずっと前に言ってくれた事…。今ならわかるような気がする…。」
「?」
コウキは、ナオキに言った。
「谷間の発電所での戦いの後、自分で何も出来なかった事にオレがひどく落ち込んでた時、キミはオレに言ってたよね。『失敗する事は、決して悪い事じゃない』って…。その理由が、今ようやくわかった気がするんだ。」
コウキは、話を続けた。
「ジュンヤは、オレをクロガネシティで負かしてからも、ずっと勝ち続けてたんだ…。あれからもずっとジュンヤと戦う時があったけど、結局オレは勝てなかった…。でもオレは、今までと比べて悔しく思わなくなった…。それは、オレがジュンヤよりも『失敗する事を知っていたから』だったんだ…。だからオレは、くじけずに今日までポケモントレーナーを続ける事ができたんだ。」
コウキは、ジュンヤと比べて負ける事が多かったが、それと引き換えに『心』を強くする事ができた。
その一方でジュンヤは、ずっと当たり前のように勝ち続けてきて、『負ける』という事を一度も経験していなかった。
そのため、初めて負けた事、さらには何も出来ずに負けたという二つの大きな『失敗』がジュンヤに今までの焼きが回ったかのような心の痛みを与える事となった。
失敗を知らない者は、精神的に弱い時がある…
ジュンヤもここに来て初めて己の弱さを知る事になり、それはジュンヤにとって深い傷となった。
「今ならわかる…。オレが負けていた事は、悪い事じゃなかったって…。もしオレがジュンヤみたいな経験をしてたら、きっとオレはもう立ち直れなかったと思う…。やっとそれがわかった気がするよ…。」
ナオキは、何も言わず小さく微笑みながらこくりと頷いた。
しばらくしてナオキ達は、帰路に着いた。
再び容赦ない吹雪の吹き荒れる217番道路を歩いた。
「今日はもうみんな疲れてるから、途中の『ロッジ ゆきまみれ』で一泊していこう。」
「それがいいな。あいつらもその日のうちに行動しないだろうからな。」
吹き荒れる吹雪の中、ナオキ達は最後の力を振り絞るように歩いた。
「トライス…。」
「?」
ナオキは、コウキの声に反応して振り向いた。
「あの時…キミは、どうしてジュピターを取り逃がしたの…?キミだったら、あんな奴すぐに倒せるでしょ…?」
コウキのこの一言に、ナオキは言葉を失った。
「…?ど…どうしたの…?何か気に障る事だった…?」
コウキは、まごついた様子でナオキに言った。
ナオキは、できる限り曇らせないような表情で言った。
「あんな事を言われて私が何もしないはずないのは、君もわかる事かもしれないけど…今回はどうしようもなかったんだ…。」
「?」
ナオキは、力のない声で言った。
「こんなの…ただの屁理屈にしか聞こえないかもしれないけど…あの時の私達は、もう戦う力なんて残されていなかったんだ…。この猛吹雪の中を歩いた事で予想外に気力を奪われたらしい…。君のおかげで見張りは蹴散らしたけど、それを最後に、もう私達には戦う力はなかった。正直…エイチ湖に着いた後はどうしようかとひそかに思っていたんだ…。」
「!」
ナオキ達は、見張りを倒した時点で戦う力を既に使い果たしていた。
そのため、万が一ギンガ団と対峙しても、疲れきっているナオキ達には勝ち目はなかったのだ。
「…正直…今回は、私達の完敗と言っていいかもしれない…。満足して戦えない状態で何も考えずにエイチ湖に乗り込んだ時点で、私達は負けていたんだ…。…灯台下暗しとはいえ、こんな当たり前の事に気付かないなんて…私もまだまだだよ…。」
ナオキの力のない話し方が、ひそかにナオキもジュンヤと同じような心境にある事を物語っていた。
容赦なく吹き荒れる吹雪の中、一行は目的地を目指して歩いていった。
その時…
ドサッ…
「!」
歩いていたマグマラシが力尽きるようにその場に倒れた。
「マグマラシ!」
ナオキは、マグマラシのもとに駆け寄った。
マグマラシは、かなり弱っていた。
ナオキは、上着に包み込むようにマグマラシを抱き上げた。
「君は本当によく頑張ってくれたよ。だからもう休んでて。」
ナオキは、マグマラシを吹雪から護るように少しうずくまるような形で歩いた。
ロズレイドの風よけ、マグマラシの防寒を背負う中、ナオキは、雪にまみれながら歩き続けた。
そのナオキをコウキとレントラーは、心配そうに見ていた。
「こうゆう時だけは…モンスターボールがあったらよかったって思うね…。」
ナオキは、心配をかけさせまいと少しでもごまかす発言をした。
しかし、力のない声がそれをすぐにばらしてしまった。
それでもナオキは、表情一つ変えず時折雪を払いながら歩き続けた。
(ナオキ…)
マグマラシは、ナオキの胸の中で大粒の涙をポロポロ流していた…
しばらくして、ようやく『ロッジ ゆきまみれ』に到着した。
今までいた場所とは別次元のように、ロッジの中は暖かかった。
寒さによって弱っていた仲間達も、だいぶ元気を取り戻したようだ。
ナオキは、温かいスープを片手に呟いた。
(奴らもレベルを上げてきてる…。私達ももっと強くならないと…ギンガ団の野望を阻止するなんて程遠いな…)
こうして『ロッジ ゆきまみれ』での夜は更けていった。
「………。」
目の前の光景を目の当たりにしたナオキ達は、一瞬言葉を失った。
ジュンヤは、その場に膝をつく形で崩れており、それを見下ろすようにジュピターが立っていた。
ジュンヤは、顔を上げてジュピターを睨み付けた。
「ちくしょう!ギンガ団め!!」
ジュンヤは、少し喉を詰まらせるような声でジュピターに叫んだ。
その叫び声は、虚しさだけが感じられた。
「ふぅーん、もう終わり?あなたのポケモンは、まあまあ。でも、あなたが弱いものね。」
その場に崩れているジュンヤに、ジュピターは容赦ない駄目押しをするように言った。
「それでは、湖のポケモン助けるなんてムリな話…。ポケモンチャンピオンだって諦めた方がいいわね。」
ジュピターの容赦ない駄目押しに、ジュンヤはその場にうずくまった。
「それにしても、ここ寒すぎるわ。トバリのアジトに戻りましょう。」
そう独白した後、ジュピターはそそくさと歩き出した。
それと同時に、ナオキとコウキがジュピターの前に立ちはだかった。
「ジュピター、貴様!」
ようやくナオキ達の存在に気付いたのか、ジュピターは今気付いたような様子で足を止めた。
「あら、あなた?ハクタイで会ったわね。」
「覚えてもらって光栄とでも言っておこうか。そんな事より…貴様、エイチ湖に…ジュンヤくんに何をした!?」
既に見当はついていたが、言い返せる事が浮かばなかったためか、ナオキはわかりきった事を言うしかなかったようだった。
「見ればわかるでしょ?とんだ邪魔が入ったから、軽く捻ってやったまでよ。あなたが来る数十分前の話だけど、この子、あたしにとってほんの肩慣らしにもならなかったわ。」
「!」
ナナカマド博士から『強いトレーナー』と認められたジュンヤがナオキ達が来るほんの短時間でジュピターに敗れたという事実…
これが移動により、体力を奪われたナオキ達の残された士気を奪い去っていった。
「いい?これからギンガ団は、みんなのためにすごい事をする。だからポケモンがかわいそうとかくだらない事であたし達の邪魔をするのやめてほしいわけ。」
ジュピターの発言に言葉を失っていたナオキは、ぴくりと反応した。
「くだらないだと!?貴様!ポケモンを何だと思っているんだ!!」
ポケモンへの憐れみをくだらないと思っているから、リッシ湖のような事ができるというのかとナオキは思っていた。
ナオキの怒鳴るような言葉にジュピターは、『だから何だっていうのよ?』というように動じず、ジュピターは平然とした様子で話を続けた。
「いずれにせよ、トバリのアジトに乗り込んできても意味ないのよ。」
「くっ…。」
ナオキは何も言い返せなかった。
散々な言われをして何もできない悔しさにナオキは右手の握りこぶしを震わせた。
この震えは、寒さではなく、それを上回る悔しさによるものだった。
「では、失礼。」
もう一つの勝利を手にしたように勝ち誇った様子で、ジュピターはそそくさとエイチ湖を去っていった。
ナオキ達は、それをただ黙って見る事しかできなかった。
エイチ湖は、しばらく静寂に包まれていた。
その静寂を破るように、エイチ湖のみなもがそよ風に吹かれぱちゃぱちゃと音を立てる音、そしてエイチ湖のほとりにうずくまるジュンヤから微かに聞こえる音がしばらく響き渡っていた。
ナオキは、バトルをしなかったがジュピターに勝ち逃げされたような心境になり、その悔しさとそれを噛み締める虚しさによりしばらく声が出なかった。
ナオキのポケモン達も、もうナオキに話し掛ける力も残されていなかった。
コウキは、うずくまるジュンヤを気まずそうに見ていた。
そのジュンヤがようやく動いたのは、それから少し経った後の事だった。
ジュンヤは、今まで見せなかったようなペースの遅さで立ち上がった。
ジュンヤが動き出したのに反応するかのように、ナオキ達もようやく我に返った。
ジュンヤは、俯いた様子で右腕で顔を乱暴に拭くような仕草をした後、後ろを向いた。
「!」
ジュンヤと目が合った瞬間、ナオキは再び言葉を失った。
コウキも気まずそうにジュンヤを見続けている。
ジュンヤの目は、『見てたのか』と訴えるようにナオキ達を見続けていた。
「ジュ…ジュンヤくん…。えっと…。」
まごついてるナオキに対してせっかちが本能として働いたかのように、ジュンヤは叫んだ。
「………そーだよ!」
「!」
ジュンヤの『もう隠しても無駄だろ』というような発言にナオキは何も言えなくなった。
ジュンヤは、全てを打ち明けるように言った。
「ギンガ団相手に何も出来なかったんだよ!」
わかりきっていた事だが、ジュンヤがジュピターに惨敗したのは事実だった。
「あのユクシーとか言われていたポケモン…すごく辛そうだった…。」
ジュンヤの脳裏に焼き付いたユクシーの辛そうな様子がジュンヤの心の傷をさらに深くした。
ナオキは、ジュンヤに何も言えなかった。
今の彼には何を言ってもかえって傷つけるだけだと悟ったからだ。
ジュンヤは、コウキのいる場所を見た。
「ジュンヤ…。」
コウキがそう言った時、ジュンヤは真っ先に返答した。
「コウキにも見られちまったか…。今までずっと勝ち続けてたってのに、無様だな…。」
ジュンヤは、コウキにも無様な姿を見られた事に今までの様子とは真逆の様子でいた。
いつもせっかちなジュンヤが急ごうとしない事が、ジュンヤの挫折感と無力感がいかに大きいかを物語っていた。
ジュンヤは、ふらつくようにエイチ湖の出口に歩いていった。
その様子をナオキ達は、ただ黙って見ていた。
出口に近づいた時、ジュンヤは足を止めた。
ジュンヤは、ナオキ達のいる方を振り向いた。
「…オレ…強くなる…。」
力のない声でジュンヤは、ナオキ達に言った。
「なんか勝ち負けとか…そーゆーのじゃなくて…強くならないとダメなんだ…。」
「……………。」
ナオキは、何も言えなかった。
そう言い残した後、ジュンヤはとぼとぼとエイチ湖を後にした。
エイチ湖は、再び静寂に包まれた。
エイチ湖の静寂を最初に破ったのは、コウキだった。
コウキは、言葉を失ったナオキに言った。
「…あんなに落ち込んだジュンヤ…初めて見たよ…。いつものジュンヤだったら、ちょっとした失敗もすぐに忘れて、すぐにまたせっかちなジュンヤに切り替わるんだけど…。最後までせっかちな仕草を見せなかったのは、これが初めてだよ…。」
コウキは、ジュンヤの心の痛みがどれほど大きいものなのかを本人になったかのように痛感していた。
「キミがずっと前に言ってくれた事…。今ならわかるような気がする…。」
「?」
コウキは、ナオキに言った。
「谷間の発電所での戦いの後、自分で何も出来なかった事にオレがひどく落ち込んでた時、キミはオレに言ってたよね。『失敗する事は、決して悪い事じゃない』って…。その理由が、今ようやくわかった気がするんだ。」
コウキは、話を続けた。
「ジュンヤは、オレをクロガネシティで負かしてからも、ずっと勝ち続けてたんだ…。あれからもずっとジュンヤと戦う時があったけど、結局オレは勝てなかった…。でもオレは、今までと比べて悔しく思わなくなった…。それは、オレがジュンヤよりも『失敗する事を知っていたから』だったんだ…。だからオレは、くじけずに今日までポケモントレーナーを続ける事ができたんだ。」
コウキは、ジュンヤと比べて負ける事が多かったが、それと引き換えに『心』を強くする事ができた。
その一方でジュンヤは、ずっと当たり前のように勝ち続けてきて、『負ける』という事を一度も経験していなかった。
そのため、初めて負けた事、さらには何も出来ずに負けたという二つの大きな『失敗』がジュンヤに今までの焼きが回ったかのような心の痛みを与える事となった。
失敗を知らない者は、精神的に弱い時がある…
ジュンヤもここに来て初めて己の弱さを知る事になり、それはジュンヤにとって深い傷となった。
「今ならわかる…。オレが負けていた事は、悪い事じゃなかったって…。もしオレがジュンヤみたいな経験をしてたら、きっとオレはもう立ち直れなかったと思う…。やっとそれがわかった気がするよ…。」
ナオキは、何も言わず小さく微笑みながらこくりと頷いた。
しばらくしてナオキ達は、帰路に着いた。
再び容赦ない吹雪の吹き荒れる217番道路を歩いた。
「今日はもうみんな疲れてるから、途中の『ロッジ ゆきまみれ』で一泊していこう。」
「それがいいな。あいつらもその日のうちに行動しないだろうからな。」
吹き荒れる吹雪の中、ナオキ達は最後の力を振り絞るように歩いた。
「トライス…。」
「?」
ナオキは、コウキの声に反応して振り向いた。
「あの時…キミは、どうしてジュピターを取り逃がしたの…?キミだったら、あんな奴すぐに倒せるでしょ…?」
コウキのこの一言に、ナオキは言葉を失った。
「…?ど…どうしたの…?何か気に障る事だった…?」
コウキは、まごついた様子でナオキに言った。
ナオキは、できる限り曇らせないような表情で言った。
「あんな事を言われて私が何もしないはずないのは、君もわかる事かもしれないけど…今回はどうしようもなかったんだ…。」
「?」
ナオキは、力のない声で言った。
「こんなの…ただの屁理屈にしか聞こえないかもしれないけど…あの時の私達は、もう戦う力なんて残されていなかったんだ…。この猛吹雪の中を歩いた事で予想外に気力を奪われたらしい…。君のおかげで見張りは蹴散らしたけど、それを最後に、もう私達には戦う力はなかった。正直…エイチ湖に着いた後はどうしようかとひそかに思っていたんだ…。」
「!」
ナオキ達は、見張りを倒した時点で戦う力を既に使い果たしていた。
そのため、万が一ギンガ団と対峙しても、疲れきっているナオキ達には勝ち目はなかったのだ。
「…正直…今回は、私達の完敗と言っていいかもしれない…。満足して戦えない状態で何も考えずにエイチ湖に乗り込んだ時点で、私達は負けていたんだ…。…灯台下暗しとはいえ、こんな当たり前の事に気付かないなんて…私もまだまだだよ…。」
ナオキの力のない話し方が、ひそかにナオキもジュンヤと同じような心境にある事を物語っていた。
容赦なく吹き荒れる吹雪の中、一行は目的地を目指して歩いていった。
その時…
ドサッ…
「!」
歩いていたマグマラシが力尽きるようにその場に倒れた。
「マグマラシ!」
ナオキは、マグマラシのもとに駆け寄った。
マグマラシは、かなり弱っていた。
ナオキは、上着に包み込むようにマグマラシを抱き上げた。
「君は本当によく頑張ってくれたよ。だからもう休んでて。」
ナオキは、マグマラシを吹雪から護るように少しうずくまるような形で歩いた。
ロズレイドの風よけ、マグマラシの防寒を背負う中、ナオキは、雪にまみれながら歩き続けた。
そのナオキをコウキとレントラーは、心配そうに見ていた。
「こうゆう時だけは…モンスターボールがあったらよかったって思うね…。」
ナオキは、心配をかけさせまいと少しでもごまかす発言をした。
しかし、力のない声がそれをすぐにばらしてしまった。
それでもナオキは、表情一つ変えず時折雪を払いながら歩き続けた。
(ナオキ…)
マグマラシは、ナオキの胸の中で大粒の涙をポロポロ流していた…
しばらくして、ようやく『ロッジ ゆきまみれ』に到着した。
今までいた場所とは別次元のように、ロッジの中は暖かかった。
寒さによって弱っていた仲間達も、だいぶ元気を取り戻したようだ。
ナオキは、温かいスープを片手に呟いた。
(奴らもレベルを上げてきてる…。私達ももっと強くならないと…ギンガ団の野望を阻止するなんて程遠いな…)
こうして『ロッジ ゆきまみれ』での夜は更けていった。









































