TRIANGLE -6ページ目
静かに呼吸を続ける
痛みは遠くに置いて
悲しみを引き摺って歩く
どれだけの痛みだって
知らなければ何事も
歩いていけるから
それが正しいと
茨を踏み躙っていく
溢れた血の色を
見ない様に生きて
どれだって正しいと
信じ抜く事を
誓いたかった
肺を膨らませて
瞳は乾いていく
縮れた茎は
折れて地を泳ぐ
萎んだ花弁に
私は選ばれた
落ちていく視界でさえ
何も知らないと思えば
きっと笑えるんだと
そう思いたかった
貴方の瞳でさえも
私が呑み込んでみせる
それが正しいと思えば
何も苦しくないから
悲しみに沈む
痛みを飛び越えて
爛れた命を啜った
隠してしまいたいと
願う事は幾つもある
そう言ってしまえば
きっと君は笑うだろう
そう思うたびに
隠し事はなしにして
僕の胸の内を明かせば
心は楽になれるのか
何度も何度も考えて
それでも口を開く頃には
全部溶けてしまうんだ
木漏れ日が頬に当たって
緩やかに細められる瞳も
忙しなく過ぎていく日々に
置いていかれない様に必死で
その温い温度の向こうで
誰かの笑い声が聞こえる
そこにいない僕の表情が
何時までも見えないままで
いっそ僕自身が溶けてしまえば
君は何も知らないままで
僕も全て楽になれる気がした
瞳から溢れ出る情景も
憧憬も全て忘れてしまって
君が笑い願う世界の事を
僕は一際一途に願えると思った
木漏れ日に足を進める
突き刺さる日差しは
柔らかに僕を殺していく
離れていく背中は
灼熱を孕んだ断罪の炎だ
嗚呼、君は知らないでくれよ
僕だけが知っていればいい
笑う君のその瞳に映る
僕の歪んだ祈りを手折って
澄み渡る程の青に溶けていく
嗚呼、僕だけが置いていかれる
忘れた夢の隙間で
隠してしまったものの在り処が
何時しか届く君の旅路になる様に
震える唇が
静かに音を零す
僕は其れを見て
何も言えなくなった
優しい温度で
爛れていく
知らない振りは
何時だって汚く
淀んだ色の先は
誰かの痛みを咥えて
それがとても美しく
綺麗なままであると
そう願っていた僕の
掌を包んだ瞳を
今でも覚えているんだ
震える唇を
静かに閉ざした時を
何時だって思いだせる様に
それは優しさなのか
火傷する程の熱量を
その胸の内に抱えて
爪立てて冷えていく
静かに撥ねていく
音の行方を
僕はずっと知らない
それでも僕は
君を美しいと思った
それは足音を越えていった
何時までも焦げ付いた
その色彩の温度を
僕は覚えていたんだ
悲しいものなど
何一つなかった
そう信じたくて
伸ばした掌すら
一度も見なかった
その向こうに
幸せは広がっている?
貴方が見つめた視界を
僕が見つめる頃には
萎れ枯れ果てた
夢の残骸だけが
静かに転がっているのに
超えてはいけないと
向かい合った机上の言葉が
足枷の様に掴み引き摺る
僕の心の行方なんて
誰一人見てもくれず
どれだけ寂しいか
どれだけ悲しいか
向けられた愛は
全て通り過ぎていく
そうして積み上がる
適当に放られた愛の骸が
僕に手を伸ばすことはなくて
それでもどうしてか
僕は悪いと思えて仕方なくて
小さく蹲って聞こえないよう
耳を塞ぐしか出来なかった
気付ける筈もなかった
押し殺した思慕が
僕自身に向かう
刃になっていたこと
傷は深く抉られる
愛から目覚めた僕は
一体何を見てきたんだろうか
枯れ果てた世界は
貴方を愛する術を持たないで
夢の様な過去を乗り越え
そうして走った先で
僕は幸せになれるのだろうか?
きっと誰だって分かりはしない
それでも僕は
愛から目覚めてしまった
記憶の奥底に
閉じ込めた情景と
胸に潜ませた憧憬に
焼きつきそうな程の
熱量を感じた
その身の丈を覆い隠す
心に宿した化物は
常に目蓋を押し開けて
その生温い舌先で
骨の音を嗅ぎ分ける
無限の時の先を
誰も知る事はないけれど
それでも私の胸の内は
燃え尽き焼き爛れ
何時しか忘れてしまった
美しい硝子玉を抱えた
真直ぐな感情を
一つ二つ拾い上げ
口付ける憐れな劣情と
愚かしいと嘆く夢々を
私が私と知らぬ様に
押し潰して磨り潰して
粉々と溶け消える泡沫と
その身を風に委ねる
綺麗なその瞳の奥の
鮮烈なる憧憬が
網膜に貼り付いたままの心を
置いていく事も出来ないで
追い付かないで処理も出来ず
ただ溢れんばかりの情を
何度も抱え直した
化物は何処までも巣食う
私の胸の中のこの心が餌で
きっと明日にもまた広がる
この暗闇の様な悲しい思いを
終わらせる事も出来ないで

