先日テレビに、或る棚田の田植え風景が映りました。ボランティアで参加した男子高校生がインタビューを受け、「棚田が続いてほしいので、力になればと馳せ参じて来ました」と語っていました。言葉遣いに慎ましいものを感じましたが、しかしながら、「馳せ参じて」のあとに「来ました」を続ける必要はなかったでしょう。
「馳せ参ずる」の「参ずる」は「行く」「来る」の謙譲語ですから、「…参じて来ました」は、片や謙譲語ですが同じ意味の繰り返しになってしまいます。すなわち同義反復です。
話は飛びますが、‟連想” について一言。このたびは、「馳せ参ずる」という言葉で「いざ鎌倉」という言葉を連想しました。「いざ鎌倉」では「関東武士」を、「馳せ参ずる」「いざ鎌倉」では「御恩と奉公」を連想しました。「棚田が続いてほしいので、力になればと、馳せ参じて来ました」で連想したのは「献身」でした。…では、今回はこの辺で失礼します。
〔以下、国語辞典を抜萃して引用させて頂きました。用例中の、見出し語を表す記号〔 ー 〕は文字表記に変えさせて頂きました。=引用者〕
『明鏡国語辞典』第二版
はせさんずる【馳せ参ずる】
〔自サ変〕
急いで参上する。大急ぎでかけつける。
「急を聞いて馳せ参ずる」
= 馳せ参じる
さんずる【参ずる】
〔自サ変〕
1「行く」「来る」の謙譲語、行ったり訪問したりする先
の人物を高める。伺う。参上する。
「すぐに参じます」「お願いに参ずる」「電話を受けて急
ぎ参ずる」
= 参じる
◆いざ鎌倉(かまくら)
さあ大変だの気持ちを込めて、一大事や万一の場合のことをいう。
「いざ鎌倉と駆けつける」
|語源| 謡曲『鉢木(はちのき)』の「鎌倉(=鎌倉幕府)に御大事出(い)でくるならば、…一番に馳(は)せ参じ」による。
※ 各辞典とも、「いざ鎌倉」の出典として謡曲『鉢木』を挙げていますが、この中に「いざ鎌倉」という言葉自体が存在するということではないようです。
※ 国営武蔵丘陵森林公園〔埼玉県比企郡滑川町〕には、古鎌倉街道があります。熊谷次郎直実など関東武士が鎌倉に馳せ参じた古道です。
『明鏡 ことわざ成句使い方辞典』
いざかまくら【いざ鎌倉】
|使い方| さあ大変だの気持ちを込めて、一大事や万一の場合のことをいう。
「いざ鎌倉というときは、すぐに知らせてくれ」
「大事件勃発(ぼっぱつ)の報を受けて、いざ鎌倉と駆けつけた」
「いざ鎌倉(というとき)に備えて、万全の策を練っておこう」
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国営武蔵丘陵森林公園
2024/5/29(水)
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「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない 宮沢賢治」
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