監督:マイケル・マン
キャスト
トム・クルーズ(ヴィンセント)
ジェイミー・フォックス(マックス)
ジェイダ・ピンケット=スミス(アニー)
マーク・ラファロ(レイ・ファニング)
**************************************
トム・クルーズが冷酷な殺し屋役に挑んだクライムサスペンス。「Ray レイ」のジェイミー・フォックスが共演し、殺し屋を乗せてしまったタクシー運転手が過ごす悪夢のような一夜を描く。ロサンゼルスの平凡なタクシー運転手マックスは、ある晩、検事の女性アニーを客として乗せ、車内での会話を通して互いに好感を抱く。次に拾ったビジネスマン風の客ヴィンセントは、仕事のため一晩で5カ所を回らなければならないと話し、マックスを専属ドライバーとして雇いたいと依頼。高額の報酬にひかれて引き受けるマックスだったが、実はヴィンセントの正体はプロの殺し屋で、麻薬組織から5人を殺害する任務を請け負っていた。ジェイソン・ステイサムがカメオ出演。監督は「インサイダー」のマイケル・マン。(「映画.com」より)
**************************************
原題のCollateralは「付随的事実」という意味。本ブログでも取り上げた映画『アイ・イン・ザ・スカイ』では登場人物たちが「軍事行動に伴って巻き添えを食う民間人死傷者」のことをcollateral damage「付随的損害」と言っていたが、この映画では「巻き添えを食った」というぐらいの意味である。
物語の大筋は「映画.com」の紹介の通りであるが、次々と目まぐるしく展開されるストーリーは実に興味深く、さらにヴィンセントとマックスの台詞回しがしゃれていて、かなり洗練されたエンタメ作品に仕上がっている。その上、登場人物のキャラクター設定が実によく練られており、今回はその点を中心にこの映画の感想を書いてみることにする。
トム・クルーズ演じる殺し屋のヴィンセントは一切の妥協や迷いを排して目的に向かって一直線に進む人物である。ストーリー展開の中で無理だろうという状況に陥ることも何度かあるが、彼は決して諦めない。殺人という目的の倫理性を横に置くと、世の中で成功者と言われる人たちに共通した資質の持ち主である。一方、ジェイミー・フォックス演じるタクシー運転手のマックスは、まじめで人間味に富むいい奴なのだが、自分の夢は語るものの何もできない人物である。彼はタクシーの乗客に語る。「この仕事はつなぎの仕事さ。リムジンサービスの会社を経営するのさ。ベンツを買いそろえて、いい顧客を何人か抱える。」しかし、彼は12年間もタクシー運転手の仕事をしているにもかかわらず、自分の夢を叶えるための努力をほとんどしていないのだ。世の中で言ういわゆる「負け組」なのだ。これは、そんな対照的な二人が偶然出会い、殺し屋のヴィンセントに脅されながらマックスが彼の仕事の片棒を担がざるを得ない状況に追い込まれる様子を描いた映画で、まさにcollateralなのだが、以下、私がこの映画の最大の見どころだと思った終盤の展開について触れながら、エンタメ以外の部分について感想を書いてみたい。(ただし、以下の記述はネタバレを含んでいますので、未鑑賞の方は閲覧ご注意を。)
5人を殺害する任務を請け負っているヴィンセントは4人目の殺害に成功するものの自分も負傷を負う。それでも彼は任務を果たすべく5人目の殺害に向かうのだが、ついにマックスはヴィンセントの世界観を罵倒し始める。そして、ヴィンセントもマックスの負け犬根性をなじる。
マックス「あんたには人の気持ちなんてわかりっこないんだ。あんたは見下げた人間 だ。どんな育ち方をしてそんなにハートのない人間に?人間なら誰にも備わっている根本的な何かがあんたには欠けている。」
ヴィンセント「リムジン会社の夢?いくら貯めた?おまえは本気でやろうとしていない。ある夜目を覚まして気づく。夢はかなうことなく自分が老いたことを。夢を記憶の彼方に押しやり、昼間からボーっとテレビを見続ける。俺に説教するな」」
マックスはヴィンセントが制止するのも聞かず猛スピードで車を走らせ、転倒する。転倒した車からなんとか脱出したヴィンセントは最後の任務に向かって駆け出し、マックスはヴィンセントが落としていった殺害リストを見て5人目の標的になっている人物の名前を知る。それはマックスがその夜初めて乗せた客で、お互いに好感を抱いた女性検事のアニーであった。マックスの中に彼女の殺害をなんとしてでも阻止しなければという感情が芽生える。それはひょっとするとマックスの人生で初めて芽生えた本気で何かをやり遂げなければという感情だったのかもしれない。そして、物語は終盤のアクションへとなだれ込んでいく。
我が国でも平成のある時期から、仕事で成功するかどうかを基準にして人生の「勝ち組」とか「負け組」といったことが言われるようになったが、私はこの言葉を聞くたびにいやな気持ちになったものだ。「ヘッ、仕事で何かをやり遂げるってことかよ」ということである。マックスは自分の身を危険に晒してもヴィンセントによるアニーの殺害を阻止すべく奮闘する。マックスにとってアニーはわずか十数分客としてタクシーに乗せただけの女性に過ぎない。それでも、人は全力を尽くすことがあるのだ、とマイケル・マンは言っているのだ。エンディングはヴィンセントの人生を象徴しているようであった。




