3分読書、読んで頂き、ありがとうございます。

これまで書いた作品も、読んで頂ければと思います。


地球の選択 - 二つの未来 

では、「不気味な電話」を読んでみてください。

爆 笑爆笑爆笑


田中裕二は、ある平凡な午後、自宅の玄関先に置かれた段ボール箱を見つけた。その箱には送り主の名前も住所も書かれていなかった。興味をそそられながら箱を開けると、中には古びた黒電話が入っていた。重厚な作りで、ダイヤル式のその電話機は、昭和の時代にタイムスリップしたかのような印象を与えた。


「こんなもの、誰が送ってきたんだろう?」


裕二は首をかしげながらも、リビングの棚に電話を置いた。どこか懐かしい気持ちになり、試しに電話の受話器を取ってみた。電話線を繋いでいないため、電話機からは何の音も聞こえなかった。


その夜、裕二はソファに座ってテレビを見ていた。日常の忙しさを忘れる、ひとときだったが、突然、リビングに置かれた黒電話が鳴り出した。


「ジリリリーン…」


古びたベルの音が静かな部屋に響き渡り、裕二は驚いて飛び起きた。電話線を繋いでいないはずの電話が鳴るなど、あり得ないことだった。しかし、好奇心に勝てず、裕二は受話器を取った。


「もしもし?」


受話器の向こうからは何も聞こえなかった。ただ、しばらくの沈黙の後、かすかに人の声が聞こえてきた。その声は冷たく、不気味な響きを帯びていた。


「裕二さん…あなたの過去を知っている…」


その言葉に裕二は背筋が凍る思いだった。自分の名前を、見知らぬ声が呼びかけてくる。しかも、その声には何か暗い闇が含まれているようだった。


「誰だ?何が目的なんだ?」


裕二は震える声で問いかけたが、返答はなかった。代わりに、声は続けてこう言った。


「明日の夜、再び電話する…あなたの秘密をすべて話してあげる…」


その瞬間、電話は突然切れた。受話器を耳から離し、裕二はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。何が起こったのか理解できず、恐怖と不安が彼の心を支配した。


その晩、裕二はなかなか寝付けなかった。黒電話のことが頭から離れず、次の日の夜が訪れるのを恐れた。彼の過去に何か重大な秘密があったのだろうか?そして、それを知っている人物が誰なのか?


次の日も通常通りに仕事をこなし、帰宅後も普段通りの生活を送ろうとしたが、心の片隅には常に不気味な電話のことが引っかかっていた。そして、夜が更けていくにつれ、不安はますます大きくなっていった。


ついにその時が来た。夜の10時、黒電話が再び鳴り出した。


「ジリリリーン…」


裕二は一瞬ためらったが、意を決して受話器を取った。



「もしもし?」


再び、あの冷たい声が聞こえてきた。


「裕二さん…今夜、すべてを話してあげる…」


その声に、裕二の心臓は激しく鼓動した。手が震え、受話器を持つ力が弱まるのを感じた。しかし、彼は何とか自分を落ち着かせ、声を出した。


「お前は誰なんだ?何を知っているって言うんだ?」


受話器の向こうからは、冷たい笑い声が聞こえた。


「あなたは覚えていないかもしれないが、私は覚えている…」


その言葉に、裕二は過去の出来事を思い返した。しかし、特に思い当たる節はなかった。過去に何か重大な秘密があったのかもしれないが、それが何なのか全く思い出せなかった。


「具体的に話してくれ。俺には何のことだか分からない」


冷たい声は一瞬、黙り込んだ後、再び話し始めた。


「裕二さん、あなたは高校時代に一人の友人を裏切ったことを覚えていますか?その友人はあなたを信頼していたが、あなたは彼を裏切り、彼の人生を台無しにしたのです」


その言葉に、裕二は驚愕した。高校時代のことなど、もう遠い過去の出来事であり、具体的な記憶は曖昧だった。しかし、その瞬間、彼の脳裏にある出来事がよぎった。


高校時代、裕二には親友の中村という男がいた。中村は裕二を信頼し、どんな秘密も打ち明けていた。しかし、ある日裕二は、中村の秘密をクラス全員に暴露してしまったのだ。それは単なる悪ふざけのつもりだったが、その結果、中村は学校に居場所を失い、最終的には転校していった。


「中村…お前なのか?」


裕二は震える声で問いかけた。しかし、受話器の向こうから返ってきたのは。


「いいえ、私は中村ではない。彼のことを知っているだけです。でも、私の目的はあなたの罪を暴露することではありません。あなた自身が、その罪と向き合い、償うことです。」


裕二は混乱し、恐怖と後悔が交錯する中で問い続けた。


「お前の目的は一体何だ?俺に何をさせたいんだ?」


冷たい声は静かに答えた。


「裕二さん、あなたにはその罪を清算するための機会を与えます。しかし、そのためにはまず、私の正体を突き止めなければなりません。私が誰なのか、そしてなぜあなたの過去を知っているのかを見つけ出すのです。」


その言葉に、裕二はさらに混乱した。しかし、逃げるわけにはいかなかった。過去の罪が今、彼の前に立ちふさがっているのだ。


「分かった。お前が誰なのか、必ず突き止めてみせる。」


その決意を胸に、裕二は電話を切った。彼は深呼吸をし、自分自身を落ち着かせようと努めた。次に取るべき行動を考えながら、頭の中を整理し始めた。


翌日、裕二は高校時代の友人たちに連絡を取り始めた。彼らに最近の出来事を話し、誰かが中村について何か知っているか尋ねた。しかし、ほとんどの友人は、中村のその後の消息を知らなかった。


そんな中、一人の友人が重要な情報を提供してくれた。中村は転校後もずっと苦しんでおり、最終的には精神的に追い詰められ、入院しているというのだ。


裕二はその情報を元に、中村が入院している病院を訪れることに決めた。彼が病院に到着し、中村の部屋を訪れると、そこにはかつての親友が無気力な状態でベッドに横たわっていた。


「中村…俺だ、裕二だ」


中村は反応を示さなかった。彼の目は虚ろで、過去の面影はほとんど残っていなかった。しかし、裕二がさらに近づくと、中村の口が微かに動いた。


「裕二…許せない…」


その言葉に、裕二は胸が締め付けられる思いだった。彼は中村に向かって頭を下げ、謝罪の言葉を絞り出した。


「ごめん…本当にごめん」


中村の目から一筋の涙が流れた。しかし、それ以上の反応はなかった。裕二は静かに部屋を後にし、自分が引き起こした過去の過ちの重さを感じた。




しかし、彼が帰宅した夜、黒電話は再び鳴り出した。


「ジリリリーン…」


黒電話の鈍い音が再び部屋に響き渡り、裕二は緊張しながら受話器を手に取った。冷たい声が耳元で囁くように響く。


「裕二さん…中村との再会はどうでしたか?」


その声には嘲笑の色が含まれており、裕二は怒りと恐怖に震えた。


「お前は一体何者なんだ?」


声は冷静に続けた。


「中村の苦しみは、あなたの過去の行動の結果です。彼の痛みを理解し、償うためには、あなた自身がその苦しみを経験する必要があるのです。」


裕二は不安と怒りが混じった声で叫んだ。


「それで、俺は何をすればいいんだ?どうやって、償えばいいんだ?」


声は抑揚のない発声で、応えた。


「それは簡単です、裕二さん。あなたが自分の行動を悔い、その結果を受け入れることです。そして、その苦しみを経験することです。」


その言葉に、裕二は自分の過去の行動を改めて振り返った。中村を裏切ったことで、彼はどれほどの苦しみを味わったのか。そして、その苦しみを少しでも和らげるためには、何ができるのか。


「具体的には、何をすればいいんだ?」


声は静かに答えた。


「あなたには、中村の苦しみを共有するために、彼の状態を自分自身で経験する機会を与えます。これはあなたの選択です。逃げることもできますが、その場合、中村の苦しみは続くことになるでしょう。」


その言葉に、裕二は決意を固めた。


「分かった。俺は逃げない。中村の苦しみを共有し、償うために全力を尽くす。」


声は少し感情が見え隠れし、続けた。


「その意気です、裕二さん。では、まず、電話の受話器を置き、目を閉じてください。」


裕二は指示通りに受話器を置き、目を閉じた。すると、突然身体が重くなり、意識が遠のいていく感覚に襲われた。次に目を開けた時、彼は見知らぬ部屋にいた。そこは中村の入院している病院の一室だった。


「ここは…」(心の声)


裕二は自分の身体が動かないことに気づいた。まるで中村と同じように、ただベッドに横たわっていた。声が再び聞こえてきた。


「これが中村の苦しみです。あなたは彼と同じ状況を経験し、その痛みを理解するのです。」


裕二はその言葉に従い、中村の苦しみを体験することになった。身体の自由を奪われ、孤独と絶望に苛まれる日々が続いた。しかし、その中で彼は中村の気持ちを理解し、彼の痛みを共有することができた。


数週間が過ぎ、裕二の心は次第に変わっていった。彼は中村に対する罪悪感と後悔の念を深く抱き、心からの謝罪を誓った。そしてある日、突然、意識が戻り、彼は自分の部屋で目を覚ました。


「これは…」


黒電話は静かに置かれていたが、受話器は外れていた。裕二はそれを手に取り、再び耳に当てた。


「裕二さん、おつかれさまでした。あなたは中村の苦しみを共有し、その痛みを理解しました。これで中村も、あなたも解放されるでしょう。」


その言葉に、裕二は涙を流しながら感謝の言葉を述べた。「ありがとう…そして、中村に心から謝りたい。」


受話器の向こうからは静かな笑い声が聞こえた。「裕二さん、中村もあなたを許すことでしょう。そして、これからは過去の過ちを繰り返さないように生きてください。」


電話は静かに切れ、裕二は深く深呼吸した。彼は自分の過ちを償うための第一歩を踏み出したのだ。過去の苦しみを乗り越え、未来に向けて新たな決意を胸に抱きながら。


こうして、不気味な電話は裕二にとって、過去の過ちを償うための試練となり、彼の人生を変える出来事となったのであった。