3分読書、読んで頂き、ありがとうございます。

これまで書いた作品も、読んで頂ければと思います。


地球の選択 - 二つの未来 

では、「偽の友人」を読んでみてください。

爆 笑爆笑爆笑


田中誠は、仕事に追われる日々の中でふと懐かしい名前を思い出した。高校時代の親友、佐藤健一だ。学生時代にはいつも一緒に過ごし、バカなことをして笑い合っていた。誠は、忙しさにかまけて連絡を取ることもなくなっていた彼と、偶然街中で再会した。


「おお、誠じゃないか!」


その声に振り向くと、そこには変わらぬ笑顔の健一が立っていた。年数を感じさせない明るい表情と親しげな態度に、誠の胸に温かい思い出が蘇った。二人はすぐにカフェに入り、久しぶりの再会を祝って談笑を始めた。


「お前、全然変わらないなあ」


誠がそう言うと、健一は笑いながら頷いた。「お前もな、誠。仕事はどうだ?」「まあ、忙しいけどなんとかやってるよ。お前は?」「俺はフリーランスになったよ。好きなことをやって生きていくって決めたんだ」


昔と変わらない話しぶりに、誠は安心し、楽しい時間が過ぎていった。しかし、その日はふとした瞬間に違和感を覚えた。健一の目の奥に一瞬、冷たい光が宿ったように見えたのだ。誠はそれを気のせいだと自分に言い聞かせ、そのまま会話を続けた。




再会から数日後、健一から再び連絡があった。食事でもしようという誘いに、誠は快く応じた。二人は次第に頻繁に会うようになり、昔のように笑い合う日々が戻ってきた。しかし、その一方で、誠の心の中には漠然とした不安が広がっていった。


健一の言動には時折、不自然な点があった。例えば、共通の友人の話をするとき、その友人の名前を間違えたり、詳細なエピソードを全く覚えていなかったりするのだ。誠はそれを歳のせいだと笑い飛ばそうとしたが、次第にその違和感は無視できないものになっていった。


「健一、本当にお前なのか?」


誠はある日、ふとそんな疑問を抱いた。昔の友人との思い出が霞んでいくような感覚に襲われ、彼はついにその違和感の正体を探ろうと決心する。次の食事の約束を機に、誠は健一にある質問を投げかけた。


「なあ、健一。高校のとき、お前が好きだった女の子って誰だっけ?」


突然の質問に、健一は一瞬戸惑った表情を見せた。だが、すぐに笑って答えた。「ああ、それは由美だよ。覚えてるさ」


だが、その名前は違っていた。誠は心の中で確信を深めた。目の前にいる健一は、彼が知っている友人ではない。では、この男は一体誰なのか?


誠は、目の前に座る健一に対する疑念が深まる中、慎重に次の一手を考えた。彼は健一が本当に昔の友人ではないのではないかと疑い始め、正体を暴くためにさらに踏み込んだ質問を続けることにした。


「そういえば、由美のことで大変だったこと、覚えてるか?」


健一は一瞬目を細め、次の言葉を探すかのように間を取った。しかし、誠の観察力は鋭く、その微細な違和感を見逃さなかった。


「もちろんさ。由美がクラスで発表したときに、みんなが彼女をからかって…俺たちが助けてあげたんだろ?」


誠は内心驚いた。確かにその出来事はあったが、由美がクラスでからかわれたのは発表ではなく、スポーツ大会の時だった。健一の記憶は明らかに歪んでいた。それが決定的な証拠ではないものの、誠の不安はさらに強まった。


その夜、誠は自宅で健一とのこれまでの会話を思い返し、ノートに整理し始めた。共通の思い出やエピソード、そして最近の出来事を一つ一つ振り返り、違和感のある部分を全て書き出してみた。ノートには次々と矛盾点が浮かび上がり、健一が本当に健一でないことを示唆しているように感じられた。


翌日、誠は意を決して、共通の友人である石井に連絡を取った。彼もまた、健一と長い付き合いがあった。二人で会い、健一の最近の言動について話し合った。石井もまた、健一に対する違和感を感じていることを打ち明けた。


「確かに、最近の健一は何か変だ。記憶が曖昧なことが多いし、話の内容が妙にずれている。まるで別人のようだ」


石井の言葉に、誠は自分の疑念が確信に変わるのを感じた。二人はさらに調査を進めることに決め、健一の過去について詳しく調べ始めた。健一の実家や彼が通っていた学校、そして彼がかつて働いていた会社に問い合わせ、彼の足取りを追った。


調査を進める中で、誠と石井は驚くべき事実に直面した。健一は数年前に大きな事故に遭い、それ以来行方不明になっていたのだ。家族や友人たちもその消息を知らず、彼が再び現れることを期待していたが、その希望は次第に薄れていた。


「じゃあ、今の健一は一体誰なんだ?」


誠の頭の中には恐ろしい疑問が浮かんだ。彼らの知っている健一が行方不明になっているならば、今自分たちの前にいる男は誰なのか?彼は何故、健一のフリをしているのか?


真相を突き止めるために、誠は最後の手段として、健一本人に直接問い詰めることに決めた。次に会う約束を取り付け、誠は冷静さを保ちながらも、内心の緊張を抑えきれなかった。


その夜、誠は再び健一と会い、二人は静かなバーで向き合った。誠は慎重に言葉を選びながら、ついに核心に迫る質問を投げかけた。


「健一、お前が本当に健一なら、俺たちが高校の時に約束したこと、覚えているか?」


健一は不自然な間を取り、誠の目を見つめた。その瞳には、どこか冷たい光が宿っていた。


「もちろんさ、誠。俺たちは…」


#### 下(3)


「もちろんさ、誠。俺たちは…」健一の言葉は曖昧で、どこか自信に欠けていた。その瞬間、誠の中で最後の糸が切れた。


「健一、お前は本当に健一なのか?」誠は声を震わせながら問い詰めた。「事故の後、何があったんだ?何故お前の記憶はこんなに曖昧なんだ?」


健一の表情が一瞬で変わり、冷たい笑みを浮かべた。「お前には関係ないことだ、誠。だが、お前がそれを知りたがるのなら、教えてやるよ。」


その言葉に、誠は背筋が凍る思いだった。健一の目は冷たく光り、その顔には見覚えのない何かが宿っていた。誠は、目の前の男がかつての親友ではなく、全く別の存在であることを確信した。


「俺は健一じゃない。彼の姿を借りただけだ。」その言葉に、誠の心臓は激しく鼓動した。「彼は事故で重傷を負い、その魂はこの世を去った。だが、俺は彼の体を利用するためにここにいる。」


「お前は、一体何者なんだ?」誠は震える声で問いかけた。


「俺の名前は重要じゃない。俺はただ、健一の記憶と体を借りているだけだ。彼の人生を演じることで、俺は存在を保っている。」


その言葉に、誠は全身の力が抜けるのを感じた。目の前の男が、かつての親友の体を乗っ取っている異質な存在であることに気づき、恐怖が彼を包み込んだ。


「じゃあ、健一はもう…」


「そうだ。彼はもういない。だが、俺がいる限り、彼の姿を借りて生き続ける。」


誠は、その場から逃げ出したくなる衝動を必死に抑えた。目の前の男は、明らかに危険な存在だった。彼の目には冷たい光が宿り、誠の反応を楽しんでいるかのようだった。


「誠、お前も知りすぎたな。俺の秘密を知った以上、お前をここから生かして帰すわけにはいかない。」


その瞬間、健一の手が誠の肩に置かれた。冷たい感触が彼の体を貫き、恐怖が全身を駆け巡った。誠は必死に抵抗しようとしたが、健一の力は異常に強かった。


「お前も彼と同じ運命を辿ることになるだろう。」健一の冷たい声が誠の耳元で響いた。


誠は最後の力を振り絞り、健一の手を振り払った。彼は全速力でバーを飛び出し、暗闇の中を駆け抜けた。背後から健一の足音が聞こえ、彼の心臓は恐怖で破裂しそうだった。


ついに誠は、自分のアパートに辿り着き、ドアを閉めて鍵をかけた。彼は肩で息をしながら、ドアに寄りかかって崩れ落ちた。健一の姿が脳裏に焼き付いて離れず、その冷たい目が彼の心を追い詰めた。




しかし、ドアの向こう側から聞こえる足音は止まらなかった。誠は恐る恐る覗き穴から外を見ると、そこには健一が立っていた。彼の冷たい笑みは変わらず、まるで誠が逃げ場のないことを知っているかのようだった。


「誠、お前はどこへも逃げられない。」健一の声が低く響いた。


誠は絶望に打ちひしがれながら、その場に崩れ落ちた。彼は知りすぎたのだ。目の前の男が健一ではなく、恐ろしい何かであることを。もう逃げることはできない。健一は、冷たい目で誠を見つめ続けた。


こうして、誠は偽の友人に追い詰められ、絶望の淵に立たされることになったのだった。