秋風に乗って、どこからともなく漂う芳醇かつ甘く心地よい香り。
そのオレンジ色の花の花言葉は「誰にでも優しくなれる時」。
キンモクセイ(金木犀)が、今年も咲き始めました
キンモクセイ(金木犀)
[科名] モクセイ科
[学名] Osmanthus fragrans
学名の"Osmanthus"は「香りのある花」を意味します。
白ワインに桂花(ケイファ)【キンモクセイ】を漬け込んで香りづけした桂花陳酒は、楊貴妃が愛飲したとも伝えられています。また、台湾産の烏龍茶には桂花で香りづけがされたもの「桂花烏龍」もあり、原産国の中国でも親しまれてきた香りのようです。日本には、江戸時代頃に中国から待ち込まれたといわれています。
遠くからでも風に乗って香るキンモクセイの花は、秋の風物詩。毎年、この花の香りが風に漂ってくると、どこか懐かしい優しさに包まれた気持ちになります。
もうひとつ…
初夏の頃から晩秋に差し掛かる頃まで咲く花の花言葉は「懐かしい間柄、尊敬」。
秋風に吹かれて、しなやかに花を揺らす澄んだ青色が印象的
晩秋に向けてそろそろラストスパートのツユクサ(露草)の花です。
ツユクサ(露草)
[科名] ツユクサ科
[学名] Commelina communis
この花の青色の色素は、水に溶ける性質をもつことから、京都の友禅染めの下絵に使われていることもあってか、奈良時代に編纂された最古の和歌集の萬葉集の中では、「心変わり」、「移ろい」、「儚い」などの比喩に用いられています。
月草之 徙安久 念可母 我念人之 事毛告不來
【月草の 徙(うつろひ)安(やす)く 念(おもへ)かも
我(あが)念(おもふ)人の 事も告(つ)げ來(こ)ぬ】
~大伴坂上家之大娘(おほとものさかのうへのいへのおほいらつめ)~
[大意]
月草のようにあの人の心が変わりやすいからでしょう。
私が想っているあの人が、私に何も告げて来ないのは…。
月草尓 衣曽染流 君之爲 綵色衣 將摺跡念而
【月草に 衣ぞ染(そむ)る 君がため
綵色衣(まだらのころも) 摺跡(すらむと)念(おもひ)て】
~詠み人知れず~
[大意]
月草で衣を染めています。あなたのために…。
綵色衣に模様を染めようと思って
鴨頭草丹 服色取 摺目伴 移變色登 稱之苦沙
【鴨頭草(つきくさ)に 衣(ころも)色(いろ)とり 摺(すら)めども
移變(うつろふ)色と、稱(いふ)が苦(くるし)さ】
~詠み人知れず~
[大意]
鴨頭草で衣服の色彩の模様を染めても、
移り変わる色と、あたしの心も鴨頭草で染めた色のように悩んでいます。
(私は、あなたのお嫁さんになっていいものですか?)
月草尓 衣者将揩 朝露尓 所沾而後者 徙去友
【月草に 衣(ころも)は揩(す)らむ 朝露(あさつゆ)に
沾(ぬ)れての後(のち)は 徙去(うつろひぬ)とも】
~詠み人知れず~
[大意]
月草で衣の模様を染めよう。
たとえ朝露に濡れて色があせてしまっても…。
朝露尓 咲酢左乾埀 鴨頭草之 日斜共 可消所念
【朝露(あさつゆ)に 咲(さき)すさびたる鴨頭草の
日くたつなへに 消(け)ぬべく念(おも)ほゆ】
~詠み人知れず~
[大意]
朝露をうけて咲き進む鴨頭草が、
日が暮れるにつれてしぼんでゆくように、思います。
(あなたを待っている私の心も消えてしまいそうです)
朝開 夕者消流 鴨頭草乃 可消戀毛 吾者爲鴨
【朝(あした)開(さ)き 夕(ゆふべ)は消(け)ぬる 鴨頭草の
消(け)ぬべき戀(こひ)も、我れはするかも】
~詠み人知れず~
[大意]
朝咲いて、夕方にはしぼんでしまう鴨頭草のような
(身も心も)消えてしまいそうな恋を、私はするのでしょう。
月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛將相云
【月草の 借(か)れる命(いのち)に ある人を
何(いかに)知りてか 後(のち)も相(あ)はむと云(いふ)】
~詠み人知れず~
[大意]
月草のように、この世の儚い命である人ながら、
どう思われて、後で逢いましょう、なんて言うのですか?
内日刺 宮庭有跡 鴨頭草之 移情 吾思名國
【内日刺(うちひさす) 宮(みや)には有(あ)れど 鴨頭草(つきくさ)の
移(うつろふ)情(こころ) 吾(あが)思(おもは)なくに】
~詠み人知れず~
[大意]
宮仕えの勤めにあっても、鴨頭草のように
変わりやすい心情など、私にはありません。
百尓千尓 人者雖言 月草之 移情 吾將持八方
【百(もも)に千(ち)に 人は言へとも 月草の
移(うつろふ)情(こころ) 我(あれ)持(も)ためやも】
~詠み人知れず~
[大意]
いろいろと人は色々言うけれど、月草のように
移ろう心情を私は持つだろうか。いえ、持つことはない。
(私は一途にあなたのことを想っています。)
澄んだ青空の季節、青くすがすがしい大空の下で、空の青に色染まるかのように素直、そして大地を優しく包む風に揺れて咲くツユクサの花。万葉の昔は恋歌の比喩に使われていたようですね。月草、青花など多くの異名をもつこの花。それだけ古くから人々に親しまれてきた花なのでしょうね