恥辱とカタルシス -2ページ目

恥辱とカタルシス

作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

やっぱりこの人はいいですね。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

 

「蜜蜂と遠雷」はやっぱり読むのやめにしました……。

 

なんか、多分途中で飽きるだろうなと思って。読んでもないのにえらそーな話なんですが。

 

こういうのってフィーリングなんだよねえ。直観。どんなに周りの評価が高いものでも、自分に合うかどうかって自分にしか分かんないし。読んでみて面白かった!ってなる可能性もあるけど、それは多分今じゃないんだよね。その時に必要なものっていうのは自分でなんとなく分かるもんだから、その時が来たらきっと「蜜蜂と遠雷読みたい!」ってなるんでしょう。

 

で、今の私が「読みたい!」ってなったのは中村文則さん。「掏摸」も「土の中の子供」も面白かった中村さん。ドゥマゴ文学賞受賞作の「私の消滅」を読んでみました。

 

でさあ……。もうねえ、めっちゃんこ面白かったのよこれが。私の勘ってすごいなあと思いました。まあぐっちょぐちょに暗いやつなので、こういうのが読みたいときに「蜜蜂と遠雷」なんて読んだって面白く思えるはずがないわな。

 

私、やっぱりこういう人間の頭の中身を掘り起こすみたいなやつが大好きなんだわ。今回は人間の心情だけでなく、記憶までを掘り起こす、深い深ーいお話でございました。

 

 

 

 

話はとある山荘で「僕」が目覚めるところから始まります。その部屋には「誰かの死体が入ったスーツケース」と机の上に置かれた一冊のノートがあります。そこには「このノートをめくれば、あなたは今までの人生を失うかも知れない」という文章から始まる手記が綴られている。

 

「僕」はその手記を綴った「小塚」という男と入れ替わって生きて行こうと考えていますので、この手記を読み進めていきます。そこに綴られていたのは、小塚という男の辛い半生でした。

 

小塚というのは精神科医なのですが、不遇の少年時代を送っているんですね。母の再婚によって新たな家族と共に暮らしているんですが、父親は暴力的で妹はわがままで、小塚くんは義父の母親への暴力を目の当たりにして成長します。暴力には性的な色合いも含められていて、彼は性的にちょっとひねた少年に育っていってしまうんですね。

 

のちに母親と小塚くんは家を追い出され、スナック勤めの母親は変な男を家に引き入れるようになっちゃいます。よくある話ですね。子供が見てるところで始めちゃったりするようなやつですね。どんどん変な性癖になっていっちゃう小塚くん。結局は母親に暴力を振るい捨てられ、施設で過ごしたのちに精神科医の養子として迎えられます。それで跡を継いでお医者さんになったわけですが、心は晴れず孤独を愛する大人になっていったんです。

 

さて、「僕」が小塚の手記を読んでいる山荘に、いきなり現れる謎の男。「僕」を小塚と呼び、そこを連れ出し病院へ強制連行するんですね。「僕は小塚じゃない」と主張する「僕」。そんな「僕」に謎の男は一通の手紙を渡します。そこには「君は今小塚の身代わりとして妙な男に連れ出されているところだろう。ひとまずここは従ってくれ。君が小塚でないことは病院でDNA鑑定すればすぐにわかる。これはある長い物語の一部なんだ」と記されているのです。

 

「僕」を連れ出す謎の男の目的とは何なのか。「僕」が巻き込まれた長い物語の全貌とは。そして、小塚という男は一体何なのか……!

 

 

 

 

と、いうのがこの話のとっかかりの部分。とっかかりです。まだ話はほとんど始まってないにも等しい状態。

 

主人公はこの「僕」ではなく、小塚という精神科医なんですね。彼は宮崎勉について、手記に長々と考察を記しています。あの幼女連続殺人の宮崎ですね。彼は幼少期から性的ないたずらを受けていたのではないかとして、それにより彼の中にいくつかの人格が生まれ、そのうちの一つが殺人を犯したと。だから宮崎本人は罪を犯した実感すらないのではないか。そう書き記した手記を「僕」み読ませるのも小塚の作戦のうちの一つだったんです。

 

精神科医である小塚は、人の記憶を操作することが出来ます。薬物を使った催眠、ECTと呼ばれる脳に電流を流す手法。そういったものを駆使して、小塚は自分の中に巣くっている苦しみを吐き出そうとします。母を守れなかった後悔を、愛する女を奪われた憎しみを、彼なりの手法を駆使して吐き出すのです。

 

詳しいことはここに書ききらんぐらい複雑なので端折ります。複数の登場人物が、記憶の操作をされた状態で動き回るのでものすごく話が複雑なんですよ。これが話に厚みを作ってるんだけど。ほんとにめんどくさい構造で描かれた作品です。一回読んだだけじゃいまいち理解するのが難しく、私は何度もページを遡って読み返しました。

 

しかし人間の精神の構造って面白いものですね。記憶の操作って案外簡単にできるものなんだ。これ、私も日常でやるんですよ。昔の嫌な出来事を思い出して、バッドエンドをハッピーエンドに変えちゃう。それだけで胸のつかえがすっと降りるんですね。もちろん一回じゃ完璧に書き換わらないのですが、思い出すたびに繰り返せばそのうちそれ自体を思い出すこともなくなります。

 

小塚くんは精神科医ですし、薬物なんかも使い放題ですので、根本から人の脳をいじることが出来るんですね。それによって遂行される復讐劇。ううう……重いわ。面白い。人間が本気になったら大概のことはできるんやな。そして善の心を捨て去った人間っていうのは、どんな非道なことにもにっこり笑いながら手を染めることが出来るもんなんだ。

 

人間ってものを掘り下げて書いていくと、こんなにも面白い話が書けてしまうものなんですねえ……。

 

 

 

 

内容をちゃんと書いてないので、何の話だか分かんないかと思いますが、とにかく人間の中身は宇宙だという話ですね。外に起きていることに一喜一憂するより、自分の中身をのぞいてみた方がよっぽど面白いということです。

 

ミステリーであり、人間ドラマであり、サイコホラーであり、最後には真っ白な未来が描かれたこの作品、良かった……。読んで良かった。しかしやっぱり私が読んでみて面白いってものって、やっぱりセックスが絡んでくるんよね。ただエロいのがいいっていうんじゃなくて、人間の根本がそこにあるんだと思うのよ。

 

人を幸せにも不幸にもするもので。結局それによって命が出来上がるわけですし。

 

だって、世界中のどんなえらい科学者が集結したって、命は作ることできんからね。種から芽が出てまたたくさんの種を残すってすごいからくりやからね。セックスって植物が花を咲かせることと同じ意味合いで、植物は花を咲かせるために存在しているようなもんなんやから。

 

うーん、面白い。中村さんも面白い。他のも読もう。というわけで。

 

またっ!

はいー無事生還です!

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

 

キャンプから帰ってきましたよー。暑かった!めちゃ疲れた!

 

なんせ海だったのでねー。潮風ってあたってるだけで疲れますよね。釣りしたり。泳いだり。

 

波がすごい中での海でしたので気を遣いました。釣りもさー、夫と子供が気が済めばいいやぐらいで、絶対魚なんか釣れるわけないってタカをくくってたのよね。だって釣れても困るじゃん。さばいて料理するのは私なんだから。サビキだし、まあ大丈夫だろと思っていたのですが!

 

堤防には気のいい地元のおっちゃんが陣取っておりまして、親切にあれこれ教えてくれるのよ。エサの小エビもくれるしさ。おかげで釣れる釣れる。10匹近く釣れたんじゃないかな。キャンプ用のちっこい包丁とまな板で泣く泣く魚をさばきましたよー。全部いっぺんにムニエルにした。

 

グレはやっぱり美味しくなかったんですが(こっちではグレっていうんだけどあの魚は全国的には何って言うんだろう。わからん)、地元のおっちゃんすら名前を知らない赤い「名もなき魚」が結構うまかった。あとは焚火してマシュマロ焼いて。中秋の名月眺めて。栗焼酎飲んで。

 

スノーピークのキャンプ場はやっぱり設備が良くていいですね。風呂場にデカいゴキがいたけどね。まあそれも思い出ってことで。さて本を読んだ話。

 

古典を読もう近代編、五木寛之さんの直木賞受賞作、「蒼ざめた馬を見よ」を読んでみたよ!

 

やっぱり一時代を築いた人っていうのはすごいねえ。今読んでも手に汗握る、本当に面白い作品でした!

 

 

 

 

この「蒼ざめた馬を見よ」は短編集で

 

蒼ざめた馬を見よ

赤い広場の女

バルカンの星の下に

弔いのバラード

天使の墓場

 

が収録されています。

 

この短編集を語る時に、まずは時代背景の確認が大事かなーと思います。表題作の「蒼ざめた馬を見よ」は昭和41年が初出。半世紀以上昔ですねー。戦後20年。戦争を知らない子供たちがいる一方、青年だったり世の中を動かす中年の人たちは戦争を色濃く覚えている世代です。で、五木さんという人も生まれてすぐに朝鮮に渡り、戦後引き揚げてきた戦争経験者。学生時代にはロシア文学を学ばれています。

 

それで「蒼ざめた馬を見よ」です。「蒼ざめた馬」っていうのはなんのことかと言いますと、これは恐らく戦争のことを指すのかなと思います。蒼ざめた馬に跨った人たちは冥府に連れて行かれてしまいます。怖い怖い蒼い馬。この死の影を、しっかりと見よ、というのがこの短編に一貫して貫かれたテーマなのだろうと私は感じました。

 

なんせ、戦争から20年が経って、世の中は高度経済成長で浮かれちゃっているのですから。そんな時に、新聞記者の鷹野という青年にある案件が持ち掛けられます。持ち掛けてきたのは社の論説主幹と外信部長。あるロシア文学の翻訳者の死。その翻訳者が残した手紙には、「ミハイロフスキイというソ連の作家が極秘で国外での出版を望んでいる原稿がある」こと、「それはソ連政府に都合の悪い作品であるから当局に狙われる可能性がある」こと、「その作品は人間の真実を描き出した傑作であるから、必ず世に明らかにせねばならない」ことがしたためられていたのです。

 

そんなわけで会社を辞めて、ジャーナリストのプライドをかけてレニングラードに飛ぶ鷹野くん。行った先にはオリガという美女とか、政治的な策略とかが鷹野くんを待ち受けています。さあ、どうなる鷹野くん……!

 

 

 

 

というお話なのですが。

 

うまいのよー。まるでスパイ映画のような活躍ののち、鷹野くんは目的を遂げ日本に帰国することになります。「蒼ざめた馬を見よ」と題されたこのミハイロフスキイの長編は世界中で大ヒットします。ああ、良かった良かった。読者は一安心。でも、胸を撫で下ろしたところで爆弾が投下されるのです。どかーん。

 

鷹野くんはいっちばん最初っから騙されていたのですね。誰に騙されていたのか、どういう策略が働いていたのかはここには書きません。

 

しかしまあよくこうまで綺麗に何もかもがひっくり返るなあという衝撃。うまい……この五木さんという人はうまい。まったく違和感も置いてけぼり感もなく、こんなに何もかもをひっくり返した作品は私史上初めてかも知れません。ゆっちゃなんですが、最近の小綺麗なミステリーなんか、これに比べりゃ屁みたいなもんやで……。

 

 

 

他の短編も全部すごかった。特に最後の「天使の墓場」は超衝撃作。これ、映画にすれば良かったのに。五木さんの作品は多数映画化されているようですが、この「天使の墓場」は映像化されてないらしい。

 

絶対面白い作品になったはずなのになー。時代的にもう現代の話として再現するのは不可能ですから(今の技術があればトリックとして成立しない)、昭和のうちにやっとけばよかったのにね。すごい、すごい面白かった。ミステリーとしても、サスペンスとしても、人間ドラマとしても面白かった。これが短編なんて、ほんと信じられん。

 

この短編集を通して思いましたが、すべての作品がとても短編とは思えない情報量を持ってるんですよね。話の展開に無駄がなくてスピーディー。でも必要な状況や登場人物の心情なんかはしっかり伝わってくる。これが才能か。すごいですねー。五木寛之さん、すごい人ですねー。

 

 

 

 

というわけで他のも読む。とりあえず次は「蜜蜂と遠雷」借りてきてみたんだけどねー。映画が公開されるみたいだし。面白いのかなーと思って借りてきてはみたけど、この五木さんの後に読むのか……。ハードル上がりますな。

 

しかもあれめっちゃ長いし……。つまんねえなと思ってもなかなか読み終わりそうにないんでねえ。どうしよう。ちょっと腰が引けちゃいますな。

 

まあぼちぼちいきたいと思います。ではでは。

 

またっ!

こんにちは、渋谷です。

キャンプ中ー。


















画像でかいかな?

更新が滞ってますが、とりあえず生きております(^-^)

うふふ……今日はいい日です。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今日は夫が出張ー。帰って来ないのです。

 

営業なので、朝仕事に出てってもたまーに昼に帰ってきたりするのよね。お昼食べに帰って来たり。近くを通りかかったからなんか顔出してみたり。

 

なんか落ち着かないじゃーん。どのタイミングで帰ってくるか分かんないとかって。別に間男を引き込んでるわけじゃないんですが、だらだら昼寝するにもちょっと気を遣うって言うかさ、変な格好でごろごろしてるわけにもいかんって言うかさ。

 

それが今日は安心してやりたい放題できるのー!晩御飯はデパ地下で買ってきて済ましてやるのー!そう言えば今中華街展やってるんだよね。デパート行って本屋寄ってだらけようー。ああー、すごい幸せ。亭主元気で留守がいいって、昔の人はうまいこと言ったもんだなあ。

 

そんなわけで解放感に溢れながら本を読んだ話。「1R1分34秒」が面白かった町屋良平さんの文藝賞受賞作。「青が破れる」を読みましたよ。この人には、独特の世界がありますねえ。

 

 

 

 

この「青が破れる」は短編集で、

 

青が破れる

脱皮ボーイ

読書

 

が収録されています。

 

表題作の「青が破れる」が文藝賞受賞作です。「1R1分34秒」と同じく、ボクシングをやっている男の子が主人公。これは町屋さん自身なのでしょう。

 

この男の子、秋吉くんが精神的にちょっと変わってる子なんですね。「1R~」もそうでした。ハルオくんという、アル中のうつ病の子以外にお友達がいません。彼は友人とかまったく必要としてないんです。

 

好きな人はいまして、年上の夏澄さんという主婦のおうちに、間男をしに通っています。秋吉くんは夏澄さんのことが大好きなのですが、夏澄さんは秋吉くんのことをちっとも好きじゃありません。この女の人も病んでるんですね。なんとなく呼び出してなんとなくセックスするのにちょうど手頃なんでしょう秋吉くんは。

 

ボクシング以外に興味がなく、バイトも長続きしないダメ男な秋吉くんは、ハルオの彼女、とう子が難病で死の淵にいると聞かされます。とう子の命の火が消えゆく中で、うまく感情の整理をすることが出来ないハルオくんととう子の間に立たされた秋吉くんは、何を思い、どんな選択をしていくんでしょうか……。

 

 

 

 

……という。

 

「1R1分34秒」もそうでしたが、このボクサーの男の子の感情の変遷を丁寧に追ったお話です。秋吉くんはボクサーのくせに、何に対しても熱くならない青年なんですね。夏澄さんのことは好きですが、夫からぶんどりたいわけでもないし。空虚な世界を埋める、ちょっとした彩りって感じでしょうか。ボクシングもそう。彼は感情が希薄だから、セックスとかボクシングとか、直接身体にがっつんがっつん来るものしか認識できないのかも知れないなあ。

 

で、そんな彼を好いて寄って来るのが梅生というジム仲間。「1R~」にもこういうキャラいましたね。あれはトレーナーでしたけどね。梅生は人の感情の揺れに敏感。この梅生が秋吉くんを評して曰く。

 

「他人に関心のある人のかなしみを、他人に関心のない人のかなしみを、秋吉さんはどっちも分からない。でも、それが俺は安らぐんです」

 

……あ、一言でこの作品が表現されてるね。「他人に関心のある人」っていうのは、目が世間に向いてる人のことだね。タピオカ飲んだりあいみょん聴いたりする人のことだね。

 

「他人に関心のない人」っていうのは、まあ私もそうですが、自分の内面ばかりに目がいく人のことだね。自己顕示欲がないゆえに他人にマウントとる必要ないから身軽だけど、孤独の中で生きてる人のことだね。

 

で、秋吉くんはそのどっちの気持ちも理解できない。だってセックスと暴力ぐらいに発展して初めて心が動く究極のぼんやりさんだから。それはひどく孤独なことであるはずですが、秋吉くんには梅生くんがいてくれます。良かった。だって、最後夏澄さんもハルオくんもとう子ちゃんもみんな死んじゃうんだもの。

 

まさかの五人中三人死んじゃうんだもの。短編でこんなに殺してリアリティ的にどうなのかと思いますが、純文学にリアリティなんて必要ないのです。秋吉くんという男の在り方を示すためなら、多少の違和感なんかはどうだっていいのです。

 

 

 

 

そんなわけで、町屋良平さんでした。うん、最近私、芥川賞とか三島由紀夫賞とか太宰治賞とかを読んでるんですが、ちょっとこういう方が好きなのかも知れないなあ。160冊超立て続けに本を読んでみて、やっと自分の嗜好が分かってきた気がします。

 

もちろん大衆小説も面白いんですが、読後にあれこれ考えさせてくれるのって、ジャンルで言えば純文学かもしれない。一般小説でもお仕事系とか恋愛ものとか探偵ものとかは、ちょっと違うのかな。もちろん中にはギャッというほど面白い作品もあるんですが。大雑把なくくりで言うと、何ってジャンルになるんだろうねえ。分かんないけど、こういう主人公が変な人で、あれやこれやと思考をこねくり回しているようなのが好きなんだわ。

 

どうせこの世ってね、幻影なんです。人間は死んでも死なないんです。おお……怪しいこと言いだした。でも本当なんです。様々な経験を得るために魂は何度も生まれ変わるんです。

 

人生には色々辛いこともありますが、実は全部最終的にはうまくいくようになってるんですよ。問題を作り出しているのは自分なので。辛さすらも経験したくて人間はこの世に生まれてくるんです。だからね、わざわざ自分で問題を起こして、それを解決に奔走するみたいなお仕事系とか恋愛系とかが徒労に見えちゃうのよね。

 

だって人生はそれがすでに小説なんだもん。自分で好きなようにつむぎだしていける小説。だから結果重視の大衆小説は、よっぽど綺麗に別の世界を見せてくれんことには読む労力が勿体ない。在り方を見せてくれる純文学は、その点興味深いよね。「おお、こいつの頭の中身はこうなのか。こういう考え方もアリなんだな」ってね。

 

あ、いきなり変なこと書いちゃった。まあそういうことです。さあ、私もわざわざ変な世界の在り方を小説にしよう。これは本当にパソコンに打ち込む方の小説ね。私の頭の中の変な世界を文章にしよう。

 

とりあえずはデパ地下に行ってきます!外暑そう……。あっ、千葉の皆さんが今日中にエアコンにあたれますように!

 

ではまたー!

 

面白い人を見つけましたよ。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

 

桜木紫乃さんの「ホテルローヤル」を読みましたよ!直木賞受賞作。これが面白かったー、私の好みでした!

 

このところ重いのばっかり読んでたから、ちょっと軽いのが読みたいなと思って直木賞を選んでみたんですけどね。重い軽いの前に好みだった。私が面白いと思うやつだった。

 

桜木紫乃さんと言えば、直木賞受賞しての会見の時に、タミヤのロゴ入りのTシャツきて出てきた人ですね。金爆のファンなんだって。あの時は「……変わった人がいるもんだ」ぐらいに思ってたんですけど。なんか妙な人だなあぐらいにしか思ってなかったんですけど。

 

こんなに好みの作品を書く人だとは思っていませんでした!直木賞には珍しい短編集なんだけど、どの話もひとつひとつが素晴らしく面白い短編で、個性的で、変で、「ああ、私もこんなのが書きたいなあ」と心底思いましたよ。

 

 

 

 

すべてのお話に出てくるモチーフが「ホテルローヤル」。ラブホテルです。これ、桜木さんのお父さんが実際に経営されていたラブホテルの名前なんだって。作品は北海道が舞台なんですが、実際に「ホテルローヤル」ってラブホを釧路でやっていたのだそう。いいよね「ローヤル」。「ロイヤル」じゃなくて「ローヤル」。時代やなあ。「キャッスル」「リバーサイド」「アムール」「〇番館」。

 

モーテル感のあるラブホもなくなってしまいましたね。あの黴臭い感じが淫靡で良かったんですがね。私がよく行ってた頃には、まだシューターでお金払ってたし、天井に鏡あったし、ベッドも回ったんだけどね。畳の部屋のラブホなんかもあったんだよー。ほとんど連れ込み宿!結婚してから行ってないから、最近はどんな感じに進化してるのか知らないんですが。

 

とにかくこの老舗ラブホテル、「ホテルローヤル」にまつわる男女の性愛の物語です。でも、全然エロくないの。

 

私の好きな、「肉欲を生み出す根源とは一体何なのか」「この欲の果てには何があるのか」を追いかけた短編集です。収録作が

 

シャッターチャンス

本日開店

えっち屋

バブルバス

せんせぇ

星を見ていた

ギフト

 

となっております。

 

 

 

 

 

この短編集は年代もバラバラなんですね。

 

「シャッターチャンス」では、ホテルローヤルは廃業してずいぶん経つ廃墟として登場します。最後の「ギフト」はホテルローヤル開業前夜の物語。だから60年ぐらいの幅があるのかなあ。その中で、ホテルローヤルにまつわる色んな男女が、色んな思いを抱きながらセックスする話です。

 

中でも良かったのが「本日開店」と「せんせぇ」かな。「本日開店」は、自分が不美人であることを自覚しているお寺さんの大黒さんが主人公。

 

住職さんの奥さんですね。この方、檀家さんが減っちゃって経営が立ち行かなくなったお寺を救うため、檀家のおじいちゃんたちに身体を差し出してお布施を頂いちゃっているんです。これは本人が言いだしたことではなく、檀家さんの方から言い出したことなんですが、旦那さんである住職さんも承知の上でのことなんですね。お布施という名で偽装した合法的売春です。ちなみに、ご主人である住職さんは性的に不能です。

 

10年間そんな具合で檀家のおじいちゃんたちに御奉仕していた主人公ですが、おじいちゃんの一人がなくなり、その役割を息子である壮年の男が受け継ぐことになります。これがイケメンなんですね。自分が不美人であることを知っている主人公は、もう恥ずかしいわ気持ちいいわで困ったことになってしまいます。しかもそのイケメンは「あなたにはうちの会社の接待要員になってもらうことにします」とか言うんです。

 

自分には性的な喜びなど無関係だと思って生きてきた主人公は、この先広がっていくのだろう、様々な男に抱かれる未来に胸を震わせます。鬱屈した女としての思いが、暗い場所でそっと花開いていくのです……。

 

 

 

 

「せんせぇ」は、ホテルローヤルの客離れのきっかけとなった、高校教師と女子高生の心中事件のお話です。でもこれが全然純愛ものとかじゃなくて、嫁が間男を自宅に引き入れる姿を見ちゃった教師が、自殺願望をもった女子高生と同調していく破滅の物語なんですよね。

 

もう、大変よ。その間男、高校教師と嫁の仲人だからね。しかも嫁の高校時代の担任だからね。むちゃむちゃや。そらもうなんも信じられなくなりますわな。それでふたりはホテルローヤルで心中しちゃうんですが、上手いのはふたりがホテルローヤルに着く前に話を終わらせてるのよね。

 

そこまでの短編で「ホテルローヤルでその昔、教師と生徒の心中があった」ということが描かれてるんですね。だから、寝るところのないふたりが釧路行の電車に乗ったところで話が終わると、読者は「おおおおお……」てなるよね。

 

この作品は、時間が現代からちょっとずつ遡っていくんです。この手法って、桜庭一樹さんの「私の男」でも道尾秀介さんの「鬼の跫音」でもすごく効果的だなあと思ったんですよ。そのうち使いたい。うん。勉強になるなあ。

 

勉強云々前に、ホントに面白かったですこの「ホテルローヤル」。桜木紫乃さんはデビュー時に「新官能派」なんて言われてたんだって。いいね。他のも読もう。面白いです。これぞ大人の娯楽って感じです。

 

というわけで月曜日なのでのんびりします。小説書きます。ではでは。

 

またっ!