読書感想文164 町屋良平 青が破れる | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

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うふふ……今日はいい日です。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

今日は夫が出張ー。帰って来ないのです。

 

営業なので、朝仕事に出てってもたまーに昼に帰ってきたりするのよね。お昼食べに帰って来たり。近くを通りかかったからなんか顔出してみたり。

 

なんか落ち着かないじゃーん。どのタイミングで帰ってくるか分かんないとかって。別に間男を引き込んでるわけじゃないんですが、だらだら昼寝するにもちょっと気を遣うって言うかさ、変な格好でごろごろしてるわけにもいかんって言うかさ。

 

それが今日は安心してやりたい放題できるのー!晩御飯はデパ地下で買ってきて済ましてやるのー!そう言えば今中華街展やってるんだよね。デパート行って本屋寄ってだらけようー。ああー、すごい幸せ。亭主元気で留守がいいって、昔の人はうまいこと言ったもんだなあ。

 

そんなわけで解放感に溢れながら本を読んだ話。「1R1分34秒」が面白かった町屋良平さんの文藝賞受賞作。「青が破れる」を読みましたよ。この人には、独特の世界がありますねえ。

 

 

 

 

この「青が破れる」は短編集で、

 

青が破れる

脱皮ボーイ

読書

 

が収録されています。

 

表題作の「青が破れる」が文藝賞受賞作です。「1R1分34秒」と同じく、ボクシングをやっている男の子が主人公。これは町屋さん自身なのでしょう。

 

この男の子、秋吉くんが精神的にちょっと変わってる子なんですね。「1R~」もそうでした。ハルオくんという、アル中のうつ病の子以外にお友達がいません。彼は友人とかまったく必要としてないんです。

 

好きな人はいまして、年上の夏澄さんという主婦のおうちに、間男をしに通っています。秋吉くんは夏澄さんのことが大好きなのですが、夏澄さんは秋吉くんのことをちっとも好きじゃありません。この女の人も病んでるんですね。なんとなく呼び出してなんとなくセックスするのにちょうど手頃なんでしょう秋吉くんは。

 

ボクシング以外に興味がなく、バイトも長続きしないダメ男な秋吉くんは、ハルオの彼女、とう子が難病で死の淵にいると聞かされます。とう子の命の火が消えゆく中で、うまく感情の整理をすることが出来ないハルオくんととう子の間に立たされた秋吉くんは、何を思い、どんな選択をしていくんでしょうか……。

 

 

 

 

……という。

 

「1R1分34秒」もそうでしたが、このボクサーの男の子の感情の変遷を丁寧に追ったお話です。秋吉くんはボクサーのくせに、何に対しても熱くならない青年なんですね。夏澄さんのことは好きですが、夫からぶんどりたいわけでもないし。空虚な世界を埋める、ちょっとした彩りって感じでしょうか。ボクシングもそう。彼は感情が希薄だから、セックスとかボクシングとか、直接身体にがっつんがっつん来るものしか認識できないのかも知れないなあ。

 

で、そんな彼を好いて寄って来るのが梅生というジム仲間。「1R~」にもこういうキャラいましたね。あれはトレーナーでしたけどね。梅生は人の感情の揺れに敏感。この梅生が秋吉くんを評して曰く。

 

「他人に関心のある人のかなしみを、他人に関心のない人のかなしみを、秋吉さんはどっちも分からない。でも、それが俺は安らぐんです」

 

……あ、一言でこの作品が表現されてるね。「他人に関心のある人」っていうのは、目が世間に向いてる人のことだね。タピオカ飲んだりあいみょん聴いたりする人のことだね。

 

「他人に関心のない人」っていうのは、まあ私もそうですが、自分の内面ばかりに目がいく人のことだね。自己顕示欲がないゆえに他人にマウントとる必要ないから身軽だけど、孤独の中で生きてる人のことだね。

 

で、秋吉くんはそのどっちの気持ちも理解できない。だってセックスと暴力ぐらいに発展して初めて心が動く究極のぼんやりさんだから。それはひどく孤独なことであるはずですが、秋吉くんには梅生くんがいてくれます。良かった。だって、最後夏澄さんもハルオくんもとう子ちゃんもみんな死んじゃうんだもの。

 

まさかの五人中三人死んじゃうんだもの。短編でこんなに殺してリアリティ的にどうなのかと思いますが、純文学にリアリティなんて必要ないのです。秋吉くんという男の在り方を示すためなら、多少の違和感なんかはどうだっていいのです。

 

 

 

 

そんなわけで、町屋良平さんでした。うん、最近私、芥川賞とか三島由紀夫賞とか太宰治賞とかを読んでるんですが、ちょっとこういう方が好きなのかも知れないなあ。160冊超立て続けに本を読んでみて、やっと自分の嗜好が分かってきた気がします。

 

もちろん大衆小説も面白いんですが、読後にあれこれ考えさせてくれるのって、ジャンルで言えば純文学かもしれない。一般小説でもお仕事系とか恋愛ものとか探偵ものとかは、ちょっと違うのかな。もちろん中にはギャッというほど面白い作品もあるんですが。大雑把なくくりで言うと、何ってジャンルになるんだろうねえ。分かんないけど、こういう主人公が変な人で、あれやこれやと思考をこねくり回しているようなのが好きなんだわ。

 

どうせこの世ってね、幻影なんです。人間は死んでも死なないんです。おお……怪しいこと言いだした。でも本当なんです。様々な経験を得るために魂は何度も生まれ変わるんです。

 

人生には色々辛いこともありますが、実は全部最終的にはうまくいくようになってるんですよ。問題を作り出しているのは自分なので。辛さすらも経験したくて人間はこの世に生まれてくるんです。だからね、わざわざ自分で問題を起こして、それを解決に奔走するみたいなお仕事系とか恋愛系とかが徒労に見えちゃうのよね。

 

だって人生はそれがすでに小説なんだもん。自分で好きなようにつむぎだしていける小説。だから結果重視の大衆小説は、よっぽど綺麗に別の世界を見せてくれんことには読む労力が勿体ない。在り方を見せてくれる純文学は、その点興味深いよね。「おお、こいつの頭の中身はこうなのか。こういう考え方もアリなんだな」ってね。

 

あ、いきなり変なこと書いちゃった。まあそういうことです。さあ、私もわざわざ変な世界の在り方を小説にしよう。これは本当にパソコンに打ち込む方の小説ね。私の頭の中の変な世界を文章にしよう。

 

とりあえずはデパ地下に行ってきます!外暑そう……。あっ、千葉の皆さんが今日中にエアコンにあたれますように!

 

ではまたー!