読書感想文163 桜木紫乃 ホテルローヤル | 恥辱とカタルシス

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作家志望、渋谷東子と申します。
よろしくお願いします。

面白い人を見つけましたよ。

 

こんにちは、渋谷です。

 

 

 

 

桜木紫乃さんの「ホテルローヤル」を読みましたよ!直木賞受賞作。これが面白かったー、私の好みでした!

 

このところ重いのばっかり読んでたから、ちょっと軽いのが読みたいなと思って直木賞を選んでみたんですけどね。重い軽いの前に好みだった。私が面白いと思うやつだった。

 

桜木紫乃さんと言えば、直木賞受賞しての会見の時に、タミヤのロゴ入りのTシャツきて出てきた人ですね。金爆のファンなんだって。あの時は「……変わった人がいるもんだ」ぐらいに思ってたんですけど。なんか妙な人だなあぐらいにしか思ってなかったんですけど。

 

こんなに好みの作品を書く人だとは思っていませんでした!直木賞には珍しい短編集なんだけど、どの話もひとつひとつが素晴らしく面白い短編で、個性的で、変で、「ああ、私もこんなのが書きたいなあ」と心底思いましたよ。

 

 

 

 

すべてのお話に出てくるモチーフが「ホテルローヤル」。ラブホテルです。これ、桜木さんのお父さんが実際に経営されていたラブホテルの名前なんだって。作品は北海道が舞台なんですが、実際に「ホテルローヤル」ってラブホを釧路でやっていたのだそう。いいよね「ローヤル」。「ロイヤル」じゃなくて「ローヤル」。時代やなあ。「キャッスル」「リバーサイド」「アムール」「〇番館」。

 

モーテル感のあるラブホもなくなってしまいましたね。あの黴臭い感じが淫靡で良かったんですがね。私がよく行ってた頃には、まだシューターでお金払ってたし、天井に鏡あったし、ベッドも回ったんだけどね。畳の部屋のラブホなんかもあったんだよー。ほとんど連れ込み宿!結婚してから行ってないから、最近はどんな感じに進化してるのか知らないんですが。

 

とにかくこの老舗ラブホテル、「ホテルローヤル」にまつわる男女の性愛の物語です。でも、全然エロくないの。

 

私の好きな、「肉欲を生み出す根源とは一体何なのか」「この欲の果てには何があるのか」を追いかけた短編集です。収録作が

 

シャッターチャンス

本日開店

えっち屋

バブルバス

せんせぇ

星を見ていた

ギフト

 

となっております。

 

 

 

 

 

この短編集は年代もバラバラなんですね。

 

「シャッターチャンス」では、ホテルローヤルは廃業してずいぶん経つ廃墟として登場します。最後の「ギフト」はホテルローヤル開業前夜の物語。だから60年ぐらいの幅があるのかなあ。その中で、ホテルローヤルにまつわる色んな男女が、色んな思いを抱きながらセックスする話です。

 

中でも良かったのが「本日開店」と「せんせぇ」かな。「本日開店」は、自分が不美人であることを自覚しているお寺さんの大黒さんが主人公。

 

住職さんの奥さんですね。この方、檀家さんが減っちゃって経営が立ち行かなくなったお寺を救うため、檀家のおじいちゃんたちに身体を差し出してお布施を頂いちゃっているんです。これは本人が言いだしたことではなく、檀家さんの方から言い出したことなんですが、旦那さんである住職さんも承知の上でのことなんですね。お布施という名で偽装した合法的売春です。ちなみに、ご主人である住職さんは性的に不能です。

 

10年間そんな具合で檀家のおじいちゃんたちに御奉仕していた主人公ですが、おじいちゃんの一人がなくなり、その役割を息子である壮年の男が受け継ぐことになります。これがイケメンなんですね。自分が不美人であることを知っている主人公は、もう恥ずかしいわ気持ちいいわで困ったことになってしまいます。しかもそのイケメンは「あなたにはうちの会社の接待要員になってもらうことにします」とか言うんです。

 

自分には性的な喜びなど無関係だと思って生きてきた主人公は、この先広がっていくのだろう、様々な男に抱かれる未来に胸を震わせます。鬱屈した女としての思いが、暗い場所でそっと花開いていくのです……。

 

 

 

 

「せんせぇ」は、ホテルローヤルの客離れのきっかけとなった、高校教師と女子高生の心中事件のお話です。でもこれが全然純愛ものとかじゃなくて、嫁が間男を自宅に引き入れる姿を見ちゃった教師が、自殺願望をもった女子高生と同調していく破滅の物語なんですよね。

 

もう、大変よ。その間男、高校教師と嫁の仲人だからね。しかも嫁の高校時代の担任だからね。むちゃむちゃや。そらもうなんも信じられなくなりますわな。それでふたりはホテルローヤルで心中しちゃうんですが、上手いのはふたりがホテルローヤルに着く前に話を終わらせてるのよね。

 

そこまでの短編で「ホテルローヤルでその昔、教師と生徒の心中があった」ということが描かれてるんですね。だから、寝るところのないふたりが釧路行の電車に乗ったところで話が終わると、読者は「おおおおお……」てなるよね。

 

この作品は、時間が現代からちょっとずつ遡っていくんです。この手法って、桜庭一樹さんの「私の男」でも道尾秀介さんの「鬼の跫音」でもすごく効果的だなあと思ったんですよ。そのうち使いたい。うん。勉強になるなあ。

 

勉強云々前に、ホントに面白かったですこの「ホテルローヤル」。桜木紫乃さんはデビュー時に「新官能派」なんて言われてたんだって。いいね。他のも読もう。面白いです。これぞ大人の娯楽って感じです。

 

というわけで月曜日なのでのんびりします。小説書きます。ではでは。

 

またっ!