皆さん、こんにちは! TC研究会 理学療法士の梅澤です。 本日もコラムに興味を持って頂きありがとうございます。

 

本日の内容としては、“骨粗鬆症性脊椎椎体骨折”について2回に分けてお話させていただこうと思います。 今回の前半は“簡単な概要”についてで次回の後半は“治療方法”などについてを中心にお話させて頂きます。

 

この疾患については、私自身 急性期病院勤務時代から現在の整形外科クリニック勤務までに、大変多くの患者さんをみさせて頂いていますが、 急性期には大変痛みが強いことも多く、動くときに本当に辛い思いをする患者さんがいたことを鮮明に覚えていますし、現在の整形外科クリニックでも既往にこの疾患をもっており日々の生活で大変な思いをする患者様がいることを経験しています。

 

今回この内容にした理由としては、現在の高齢化社会ではこの疾患に罹患している方が多くなっているため少しでも情報を知って頂き、この疾患で困っている人を助けて頂きたいということと、もう一つはこの疾患のことを知って頂くことで、皆さんが関わるクライアントに この疾患になることを予防して頂けると考えたからです。

 

 

まず骨粗鬆症の定義ですが、簡潔に言うと “骨強度が低下することにより骨折リスクが高くなる骨格の疾患” となります。 骨強度とは7割が骨密度で3割が骨質により規定されています。  骨密度は『骨の量』で骨質は『骨の質』です。以前は骨密度のみが原因とされていた歴史がありました。

下図をみて頂くとイメージがつくと思います。

 

正常な骨      骨粗鬆症の骨

 

 

ここで少し 骨ついて 簡単にお話させて頂きます。

 

一般的に筋肉は使わないと衰えて、鍛えると強くなるということは誰もがわかっていることですよね。

しかし、骨に関してはそういう感覚は少ないのではないかと思います。これは私自身が今まで患者さんとお話していて感じたことです。 おおげさかもしれませんが患者さんは骨を金属などのような感覚でいるような感じがしました。

 

実際には骨は、一度つくられたらそれで終わりというわけではなく、古くなった骨を破骨細胞が壊し、骨芽細胞が新しい骨をつくる、という骨代謝を繰り返しているわけです。 そうして「壊す」「つくる」のバランスがとれているときは骨量が一定で、骨の強度を保つことができます。
ところが、年齢とともに体の持っている再生能力が衰えると、骨を「つくる」能力が低下してしまいます。すると、「壊す」働きの方が強くなってしまうので、骨密度が低下します。

 

また、女性ホルモンのエストロゲンには、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制する作用がありますが、女性の場合、閉経後にエストロゲンの分泌が落ちるので骨密度が低下します。このように骨密度が低下することで骨粗鬆症を発症しやすくなります。
 

骨粗鬆症になって骨が弱くなると、骨折する危険性が高まります。ところが、同じ骨密度であっても、骨折する人もいればしない人もいます。また、骨密度が低下していないのに、骨折する人もいます。この様なことから先ほども述べましたが、骨の強さには“骨密度”だけではなく、骨の性質を示す“骨質”が関係していると考えられるようになりました。
 

それでは骨質の低下とは、どのような状態になることなのでしょうか。骨質に大きく関係すると考えられているのはコラーゲンの劣化です。
骨はコラーゲンというたんぱく質が束になってコラーゲン線維となり、ビルにたとえると鉄筋部分の役割をしています。骨はこの強靭なコラーゲンが柱を形成し、そのまわりにカルシウムなどのミネラルがコンクリートのようにはりついた構造をしています。
強い骨になるには、コラーゲンにミネラルが均一に沈着する必要があります。そのためには、コラーゲンがきれいに並んで揃った状態になっていなければいけません。しかし、コラーゲンの量や質が変化すると、きれいな束にならず、ミネラルが均一に沈着しにくくなります。つまり、骨量を示すカルシウムなどのミネラルがいくら十分であっても、柱となるコラーゲンの質が悪ければ、強い骨をつくれなくなってしまうのです。
 

これを読んで下さっている皆さんは骨が変化していることはわかっているわけですが、以上のように骨は常につくり替えられていて、大人では3~5年で全身の骨が入れ替わるとされています。

ちなみにこのように入れ替わる理由としては、もしそうでなく金属のような状態では、鉄のように錆びたり劣化してしまっては取り返しがつきませんよね。骨折した骨も骨癒合できない状態になってしまいます。

 

 

ここからは骨粗鬆症による骨折について述べていきます。 通常骨が弱っていない場合は転び方やバランス能力などにもよるのですが、立っている高さから転んだりしても骨折する確率は非常に少ないです。 しかし骨粗鬆症になると立っている高さからの転倒か、それ以下の軽微な外力で骨折してしまう確率が高くなります。この様に簡単に骨折してしまうことを脆弱性骨折と呼びます。

 

骨粗鬆症でみられる脆弱性骨折は、脊椎椎体、大腿骨近位部、前腕骨遠位端、上腕骨近位部、肋骨、骨盤に好発します。そして脊椎椎体骨折が最も頻度が高いとされています。

 

骨粗鬆症性脊椎椎体骨折は既存骨折と新規骨折とに大きく分類される。既存骨折はある時点のX線撮影時にすでに発生していた骨折を示します。一方、新規骨折はある時点の観察では正常であった椎体が、次の時点で新たに骨折と判定されたものや、ある時点と比較し次の時点において椎体変形が進行した脊椎椎体骨折を示します。このため、厳密には、新鮮脊椎椎体骨折は初回撮影時と経過時の2つの時点におけるX線の比較により判定されなければなりません。

 

脊椎椎体骨折では通常は、疼痛を伴いますが、疼痛を伴わずX線撮影で確認される例もあります。このため、疼痛を伴う場合を臨床骨折、疼痛を伴わない場合を形態骨折と区別したりしています。

骨折後は3~6カ月でおおむね骨癒合が得られるとされていますが、骨癒合が遅れたり、骨癒合が得られない場合も存在します。受傷後1年経過しても骨癒合が得られなかった場合を偽関節と呼び、平均速度で骨癒合が進んでいない状態を遷延治癒、骨癒合不全と呼びます。

 

日本の骨粗鬆症患者数は(2016年の調査) 1280 万人で男性 300 万人、女性 980 万人 となります。 高齢化社会で骨粗鬆症患者は増加しており、70 歳台で 30-45%、80 歳台で 40-45%に達します。

一方脊椎椎体骨折の発生は 60 歳台で 8-13%、70 歳台で 30-40%、80 歳台では 60%に達します。

続発する脊椎椎体骨折の発生リスクは新鮮脊椎椎体骨折を生じた最初の1年が1番高く5倍のリスクを持ちます。 2個以上の椎体骨折があると新規脊椎椎体骨折の発生リスクが12倍になります。脊椎椎体骨折を生じると新規脊椎椎体骨折の発生を防ぐ治療が必要とされ、薬物療法が必須である。

 

骨折発症から数カ月にあたる急性期の症状は、起居動作で増悪する腰背部の激痛であり、臥床にて消失する特徴があります。この症状は骨折椎体が動くために生じます。骨折椎体の可動性は疼痛と関連します。

脊椎の内部には脊柱管と呼ばれる脊髄や馬尾神経の通り道があり、椎体後壁損傷や異常可動性により内部の神経に刺激が加わると、腰背部痛のみならず、臀部・下肢の疼痛やしびれ、筋力低下、膀胱直腸障害が生じる可能性があります。

骨癒合が得られても慢性的な腰背部痛などの症状を訴える場合があります。特に、脊椎椎体骨折後に後弯変形が惹起されると、慢性的な腰痛や姿勢異常以外に、歩行機能障害、易転倒性、胃食道逆流症や食道裂孔ヘルニアなどが引き起こされることもあります。

 

今回は骨粗鬆症性脊椎椎体骨折についての概要を述べさせて頂きました。 

次回は引き続きこの疾患についての 診断や治療について のお話をさせて頂こうと思いますのでお付き合い頂ければと思います。

本日もコラムを読んで頂き本当にありがとうございました。

 

 

コラム執筆者紹介

梅澤拓未(うめざわたくみ)先生

 

理学療法士として、急性期病院・認知症専門病院で13年勤務。

資格

理学療法士

呼吸療法認定士

認知症ケア専門士

介護支援専門員(ケアマネージャー)

福祉住環境コーディネーター2級

日本コアコンディショニング協会マスタートレーナー

 

 

 

 

前回までのblog

『コラム 臨床を楽に過ごせる考え方』

https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12672112608.html

『コラム 臨床を楽に過ごせる考え方②』

https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12685898681.html

 

2.痛みや不快感が無い状態は良い

 良い状態の一つの要素として「痛みや不快感が無い」状態を挙げました。特に心地が良いとか気持ちが良い、という感覚が無くてもかまいせん。目的としている活動に集中できるのが大事です。例えば、新しいカバンを買いに出かけて、歩く度に膝が痛ければ、買い物に集中できず、心ときめく一品を買うことができないかもしれません。好きな作家の小説を読んでいても、首が痛ければ話に入り込むことができないでしょう。ピッチャーが踏み込む側の足裏に違和感があればコントロールを乱すかもしれません。寝ている時に肩が疼けば熟睡できないでしょう。活動に集中できる状態、つまり良い意味で何も感じないのが理想です。

 

 ここではこのコラムにおける痛みや不快感についての捉え方をご紹介していきます。

 

 

1)不具合を知らせるシグナル

 必ずしも痛みや不快感を悪者とは捉えません。なぜなら、痛みや不快感は、からだが本来の構造、機能から逸脱した状態であることを教えてくれている警告だからです。

 

 痛みは外傷でなければ、「何も感じない → 違和感 → 痛み」の順で出現すると考えています。

 どこか上手くいっていない箇所がある場合、痛みの前に違和感を感じるはずです。その状態で使い続ければやがて組織は破壊され痛みが出現するでしょう。できれば、違和感の段階で介入し、正常に機能するところへポジションを移すことが改善への近道になると考えます。

 

 

2)神経系の叫び

 損傷が無くても痛みが起こる、もしくは損傷があっても痛みが無いこともある、ということを頭に入れておく必要があると思います。なぜなら痛みはインプットというより、生命が危険にさらされるかもしれないという“恐れ”に対する神経系の表現、アウトプットという側面があるからです。

 

 少し長くなりますが、興味深いので、痛みや不快感がいかに周囲の状況により修飾されるかをお伝えしておきます。

 

・恐れ

 重大な損傷があっても痛みがない場合や、損傷が小さい、もしくは全くない場合でも激しい痛みがある場合があります。 前者では戦場やスポーツの現場で見られることがあります。もしくは腱板損傷やヘルニア等の椎間板の異常があるにも関わらず無痛である場合もありますね。 後者(損傷無しに痛みが起こる)は特に慢性痛のケースに見られます。幻肢痛は最も典型的な例で、痛む部位すら無いのに痛みを感じるのです。この様に、損傷の大きさと痛みの程度は必ずしも一対一の対応になっていない場合があるのです。

 

 痛みを神経系の恐れと捉えるなら、痛みの目的は組織の損傷の度合いを測ることでは無く「防御的な活動を促す」ことにあります。有害な刺激に対して手を引っ込めるなど、ダメージを増悪させる様な行動を避け、保護的な行動を惹起させるのです。また、それは損傷を治癒させる時間を与えることにもなります。痛いので動かしたく無い、という動機を与え動かさないことで治癒が進むのです。五十肩などはその典型例に思います。痛みと可動域制限によりわざわざ動かさせないようにすることで回復を促しているように思えます。痛みは「これ以上、動かすと肩が壊れてしまう。」という神経系の恐れの表現と捉えることもできます。損傷が可能な範囲で治癒されれば痛みはその意味を失い軽減していきます。

 痛みは損傷の程度を測るというより「行動のきっかけ」つくるという側面があるのです。

 

 

 痛みは現実的な損傷では無く、認識された「恐れ」に対して防御的に働きます。この点に関して脳は正確とは言えず、様々な状況に影響されると言えます。

 

 更にいくつかの例をお伝えします。

 

・プラシーボ効果

 偽薬効果もそれを表しているように思えます。プラシーボ効果により治療を必要とされる部位に何ら変化が起こっていないにもかかわらず痛みが減ることがあります。これを「脱水と喉の渇き」 の関係に置き換えてみます。当たり前ですが、喉の渇きの目的は脱水が生命を危機にさらすことを回避するため、給水を促すことにあります。喉の渇きは脳が脱水を回避するのに十分な量の水分を摂取したと判断すれば直ちにおさまります。面白いのは実際に脱水が起こっている組織に水分が補給される前に渇きがおさまることです。脳は 「まだ、組織の脱水信号を受け取っているが、十分な水分量を摂取したので、じきに水分は供給され脱水の恐れは去った」と判断し渇きを止めるのです。

 痛みについても同様なことが言えるかもしれません。組織の損傷はあるが、神経系がそれに対する十分な処置がなされた、と判断すれば痛みが減じるのです。この要素は我々のアプローチに必ずといってよいほど含まれるている思います。

 

・ノーシーボ

 プラシーボの逆です。

 ノーシーボを良くあらわす実験が有名です。ヨーロッパで行われたその実験の目的は、人間の体重の10%が全血液量といわれているが、医師たちはそれ以上であると考えており、そのことを死刑囚で証明しようというものでした。ベッドに寝かされ目隠しをさせられた死刑囚は足の全指先を小さく切開されました。血がバケツにしたたり落ちる音が実験室に響きます。死刑囚には1時間ごとに累積出血量が知らされます。5時間が経過し、ついに出血量は10%を超え医師たち歓喜しました。しかし、その時死刑囚は亡くなっていたのです。ところが、桶の中に落ちていたのは血ではなくただの水でした。死刑囚は多量の血が流れていると思いこんで死亡したのです。この実験の真の目的は、人間が強いストレスにより死に至るかを確かめることだったのです。つまり、致命的な損傷がないのに思い込みによって死ぬことさえできるのですから、周囲の環境によって痛みや不快感が起こることは何ら不思議なことではない様に思えます。

 

【執筆者紹介】

 

宮井健太郎先生

1977年生まれ 
2001年 理学療法士資格取得  
以後、老人総合病院、老人保健施設、老人ホーム、小児病院、スポーツ整形外科、一般整形外科にてリハビリテーションに関わる 
2006年 ロルフィングプラクティショナー認定 
2010年 フランクリンメソッド エデュケーター認定 
2014年 ロルフィングムーブメントプラクティショナー認定 
現在、東京 有楽町線・副都心線 小竹向原駅近く、東久留米市内にて、ロルフィングとボディーコンディショニングを行う 
日本ロルフィング協会会員 

皆さんこんにちは! TC研究会 理学療法士の梅澤です。 

本日もコラムを読んで頂きありがとうございます。 

私は現在普段の生活としては、 おくがわ整体院 と 整形外科クリニック と 難病リハビリ と 太極拳 と 子育て を主に行っております。

 

前回のコラムでもお話させて頂きましたが、太極拳は本場中国に行って学ぶこともしてきました。

私をその様な行動にさせたのは、太極拳がとても身体にとって良い作用を及ぼすと確信したからです。 もちろん太極拳が身体にとって完璧なものではないですし、他にも身体に良いものは数多くあることは間違いないです。

 

その中でも私が太極拳が優れており、それをリハビリと掛け合わして行っていこうとした理由は、大きなものとして今までの15年程度 急性期病院と認知症病院でみてきた患者様の影響があります。 

 

詳細は前回のコラムで書かせて頂いていますが、すごく大げさに言ってしまいますと、病院に来て手術などの治療をしなければならなかった人の多くの患者様が、普段から太極拳などを行っていれば、病院にきてわざわざ痛みとリスクを伴う手術などの治療をする必要がなかったということです。 

 

そして、手術などの治療はある一定の効果はありますが、一か所手術など治療を行うということは、例えば運動器的な観点からであれば、腰椎に対して固定術を行うということはその他の胸椎や頚椎にもその後何らかの影響が及んでしまいますし、循環器系で心臓の血管の障害であればその場所の血管のみでなく脳や下肢の血管にも影響が及んでいることが多くあります。

 

 もちろん一度目の手術や治療の後に良い対策ができていれば上記のようなことも防げるかもしれませんが、中々それは困難なことも多いのでやはりそうなる前に何らかの対策が行えていることが最も良いことだと思います。 また、今はコラムの流れ上 “太極拳” を行っていればと書きましたが、普段皆さんが行っている運動でも良いものもあると思いますし、健康や医療に携わっている方であれば普段指導している運動や治療法でも対応できると考えます。

 

 それでは、本日は太極拳の効果の中でも 運動器系(転倒と骨折を中心に)について科学的根拠も踏まえながらお話させて頂きたいと思います。 論文などで最も多いのがバランス能力についてです。 

 

まあ皆さんも何となくこれは良くなりそうだと感じると思います。 

 

バランス能力向上に関しては、かなり前になりますが 平成16年に厚生労働省が“介護保険制度改革の全体像”で発表した資料の中でも 転倒を防止する各種の運動のうち最も効果があるのは“太極拳”と結論づけています。 私自身も病院勤務時代に転倒で骨折をして入院する患者様を毎日みてきました。 

 

余談ですが、高齢者の骨折には四大骨折と言って“大腿骨頚部骨折” “脊椎圧迫骨折” “上腕骨近位部骨折” “橈骨遠位端骨折” があり大腿骨頚部骨折に関しては、ほとんどの患者様に手術が必要となります。理由としては、手術しないで治そうとすると骨癒合するのに12週以上(3か月以上)かかってしまい、その間に歩行できなければ体が廃用してしまうため、一生寝たきり状態になってしまいます。また、先ほども述べましたが、手術をすると固定は短期間で行えるため手術後すぐに歩行練習などは可能となりますが、元の状態ではなく、一般的には一段階歩行能力は低下するとされています。 

 

例えますと、杖などなしで歩行ができていた方であれば、骨折後はT字杖が必要になったり、T字杖歩行の方であれば四点杖や歩行器が必要となるということです。そして、上肢の骨折に比べ、大腿骨頚部骨折は転倒時に手も出ないくらい反射神経も低下している可能性があるため、骨折後にも様々な注意が必要となってきます。

 

 話しがそれてしましましたが、転倒予防として良い理由としての根拠としては、一つ目は太極拳は常に中腰の姿勢になることが多く、その姿勢で体を支えています。 その為 “太極拳の特徴は下半身にあり” とも言われています。 

 

この筋肉の使い方は下記の三種類にわけた筋肉の使用方法がある中では、三番目の伸縮性収縮となります。 

 

“短縮性収縮(コンセントリック収縮)”:(例)肘を曲げながら動かす時の使用方法

“等尺性収縮(アイソメトリック収縮)”:(例)肘の角度を変えず保持する時の使用方法

“伸張性収縮(エキセントリック収縮)”:(例)肘を伸ばしながら筋を使用する方法

 

これが意味するところは 同じ条件下で筋肉を使用したとしたら 力の強さ(負荷)としては  伸張性収縮 > 等尺性収縮 > 短縮性収縮 となります。

 

ちなみに伸張性収縮は短縮性収縮の1.4倍ほどの力の強さ(負荷)があるとされています。 特に “体を支える力” として重要な大腿四頭筋や殿筋群を伸張性収縮で使用するため 転倒予防 に大きく寄与するわけです。   

 

二つ目としては、 “つま先を上げる力” がつくということです。太極拳は四方八方へ動くのですが、どの方向へ動くにしてもつま先をゆっくりですが足部の関節の最終域付近のところまで上げます。 また、つま先を下ろすときは踵が着床した後にゆっくり足底全面接地にしていくため 先ほどの“伸張性収縮”を使用しますし、支持する側の足も中腰姿勢が深くなるほど足部の関節は背屈位をとることになります。これがつま先などが引っかかり転倒しまう予防につながります。 

 

三つ目としては、 太極拳が“骨盤の平衡を保つ” ことをしていることです。 実際に私たちが歩行する時なども片脚の支持になる時には大きく骨盤が傾かないように主に支持側の股関節外転筋群などが大きな作用をしていることがわかっています。この負荷はおよそ体重の2~3倍あるとされています。 太極拳では足を動かすにあたり注意することの一つとして 虚実分明(虚と実をはっきり示す)という重要な言葉があり “虚”は荷重をかけない足 で “実”は荷重をしっかりとかけて支持する側を分けることをします。 そのため骨盤を平衡に保ち片脚で支持することが多く、股関節外転筋をとてもよく鍛えることができ これも転倒予防の効果を上げていると考えます。 

 

ちなみに太極拳は “後ろに歩く” こともするため歩行に大変重要な殿筋群のトレーニングにもなりますし、歩行の推進力を規定する股関節伸展角度の拡大にもつながります。

 

そして、後ろ歩きはパーキンソン病などにも一定の効果をあげていること や ある論文では後ろ歩きが記憶の機能を上げるというデータも出ています。 考えてみれば 後ろ歩きは 類人猿にはできず人間ができる というはとても興味深いことです。骨盤の傾きなどの身体の構造的なものが大きいでしょうが、後ろ歩きは視覚の能力を大きく低下させ、予測したり想像する力がとても重要となりそうですよね。

 

それが記憶などにも効果を及ぼしているのではないかとも考えられます。この論文では後ろ歩きが短期記憶の機能が向上するとのことでしたが、太極拳自体は技を沢山覚える事や手足の動きを常に連動して止まることなく動かさなければならないために認知機能の向上にも大きく効果があるともされていますので、認知機能との関係についても今後コラムで書かせて頂ければと思います。

 

 以上 長くなりましたが、転倒予防についての太極拳の効果となります。その他にも転倒した際には 骨密度などが骨折の大きく関わるわけですが、太極拳が骨密度に効果を及ぼした論文も出ており “骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン” にも記載されています。

 

バランスや転倒予防の他にも 腰痛 や 変形性膝関節症 に対しても一定の効果を上げており 例えば腰痛に対しては 太極拳が“逆腹式呼吸”を使用していることであったり、 変形性膝関節症であれば、太極拳が “膝関節の固有受容感覚”改善できたことなども大変興味深いものだと思います。 

 

この辺に関しては、今後動画や実技で実際に皆さんに有益となる情報をお届けしていければと考えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

 

 本日もお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 

 

<参考文献>

太極拳が体に良い理由 : 楊 進 監修   雨宮隆太 橋逸郎 著

 

コラム執筆者紹介

梅澤拓未(うめざわたくみ)先生

 

理学療法士として、急性期病院・認知症専門病院で13年勤務。

資格

理学療法士

呼吸療法認定士

認知症ケア専門士

介護支援専門員(ケアマネージャー)

福祉住環境コーディネーター2級

日本コアコンディショニング協会マスタートレーナー