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『コラム 臨床を楽に過ごせる考え方』

https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12672112608.html

『コラム 臨床を楽に過ごせる考え方②』

https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12685898681.html

 

2.痛みや不快感が無い状態は良い

 良い状態の一つの要素として「痛みや不快感が無い」状態を挙げました。特に心地が良いとか気持ちが良い、という感覚が無くてもかまいせん。目的としている活動に集中できるのが大事です。例えば、新しいカバンを買いに出かけて、歩く度に膝が痛ければ、買い物に集中できず、心ときめく一品を買うことができないかもしれません。好きな作家の小説を読んでいても、首が痛ければ話に入り込むことができないでしょう。ピッチャーが踏み込む側の足裏に違和感があればコントロールを乱すかもしれません。寝ている時に肩が疼けば熟睡できないでしょう。活動に集中できる状態、つまり良い意味で何も感じないのが理想です。

 

 ここではこのコラムにおける痛みや不快感についての捉え方をご紹介していきます。

 

 

1)不具合を知らせるシグナル

 必ずしも痛みや不快感を悪者とは捉えません。なぜなら、痛みや不快感は、からだが本来の構造、機能から逸脱した状態であることを教えてくれている警告だからです。

 

 痛みは外傷でなければ、「何も感じない → 違和感 → 痛み」の順で出現すると考えています。

 どこか上手くいっていない箇所がある場合、痛みの前に違和感を感じるはずです。その状態で使い続ければやがて組織は破壊され痛みが出現するでしょう。できれば、違和感の段階で介入し、正常に機能するところへポジションを移すことが改善への近道になると考えます。

 

 

2)神経系の叫び

 損傷が無くても痛みが起こる、もしくは損傷があっても痛みが無いこともある、ということを頭に入れておく必要があると思います。なぜなら痛みはインプットというより、生命が危険にさらされるかもしれないという“恐れ”に対する神経系の表現、アウトプットという側面があるからです。

 

 少し長くなりますが、興味深いので、痛みや不快感がいかに周囲の状況により修飾されるかをお伝えしておきます。

 

・恐れ

 重大な損傷があっても痛みがない場合や、損傷が小さい、もしくは全くない場合でも激しい痛みがある場合があります。 前者では戦場やスポーツの現場で見られることがあります。もしくは腱板損傷やヘルニア等の椎間板の異常があるにも関わらず無痛である場合もありますね。 後者(損傷無しに痛みが起こる)は特に慢性痛のケースに見られます。幻肢痛は最も典型的な例で、痛む部位すら無いのに痛みを感じるのです。この様に、損傷の大きさと痛みの程度は必ずしも一対一の対応になっていない場合があるのです。

 

 痛みを神経系の恐れと捉えるなら、痛みの目的は組織の損傷の度合いを測ることでは無く「防御的な活動を促す」ことにあります。有害な刺激に対して手を引っ込めるなど、ダメージを増悪させる様な行動を避け、保護的な行動を惹起させるのです。また、それは損傷を治癒させる時間を与えることにもなります。痛いので動かしたく無い、という動機を与え動かさないことで治癒が進むのです。五十肩などはその典型例に思います。痛みと可動域制限によりわざわざ動かさせないようにすることで回復を促しているように思えます。痛みは「これ以上、動かすと肩が壊れてしまう。」という神経系の恐れの表現と捉えることもできます。損傷が可能な範囲で治癒されれば痛みはその意味を失い軽減していきます。

 痛みは損傷の程度を測るというより「行動のきっかけ」つくるという側面があるのです。

 

 

 痛みは現実的な損傷では無く、認識された「恐れ」に対して防御的に働きます。この点に関して脳は正確とは言えず、様々な状況に影響されると言えます。

 

 更にいくつかの例をお伝えします。

 

・プラシーボ効果

 偽薬効果もそれを表しているように思えます。プラシーボ効果により治療を必要とされる部位に何ら変化が起こっていないにもかかわらず痛みが減ることがあります。これを「脱水と喉の渇き」 の関係に置き換えてみます。当たり前ですが、喉の渇きの目的は脱水が生命を危機にさらすことを回避するため、給水を促すことにあります。喉の渇きは脳が脱水を回避するのに十分な量の水分を摂取したと判断すれば直ちにおさまります。面白いのは実際に脱水が起こっている組織に水分が補給される前に渇きがおさまることです。脳は 「まだ、組織の脱水信号を受け取っているが、十分な水分量を摂取したので、じきに水分は供給され脱水の恐れは去った」と判断し渇きを止めるのです。

 痛みについても同様なことが言えるかもしれません。組織の損傷はあるが、神経系がそれに対する十分な処置がなされた、と判断すれば痛みが減じるのです。この要素は我々のアプローチに必ずといってよいほど含まれるている思います。

 

・ノーシーボ

 プラシーボの逆です。

 ノーシーボを良くあらわす実験が有名です。ヨーロッパで行われたその実験の目的は、人間の体重の10%が全血液量といわれているが、医師たちはそれ以上であると考えており、そのことを死刑囚で証明しようというものでした。ベッドに寝かされ目隠しをさせられた死刑囚は足の全指先を小さく切開されました。血がバケツにしたたり落ちる音が実験室に響きます。死刑囚には1時間ごとに累積出血量が知らされます。5時間が経過し、ついに出血量は10%を超え医師たち歓喜しました。しかし、その時死刑囚は亡くなっていたのです。ところが、桶の中に落ちていたのは血ではなくただの水でした。死刑囚は多量の血が流れていると思いこんで死亡したのです。この実験の真の目的は、人間が強いストレスにより死に至るかを確かめることだったのです。つまり、致命的な損傷がないのに思い込みによって死ぬことさえできるのですから、周囲の環境によって痛みや不快感が起こることは何ら不思議なことではない様に思えます。

 

【執筆者紹介】

 

宮井健太郎先生

1977年生まれ 
2001年 理学療法士資格取得  
以後、老人総合病院、老人保健施設、老人ホーム、小児病院、スポーツ整形外科、一般整形外科にてリハビリテーションに関わる 
2006年 ロルフィングプラクティショナー認定 
2010年 フランクリンメソッド エデュケーター認定 
2014年 ロルフィングムーブメントプラクティショナー認定 
現在、東京 有楽町線・副都心線 小竹向原駅近く、東久留米市内にて、ロルフィングとボディーコンディショニングを行う 
日本ロルフィング協会会員