[0円小説] 忘却の彼方|としべえ@ぷち作家村上春樹にタイのことを書いた短編なんてあったっけ? どこの誰のものだったか、さっぱり思い出せないが、その文章には春樹がタイを舞台に短編を書いている、とあったもので、ジローは首をかしげながらも、その作品「タイランド」の内容を確認した。 主人公の女医がタイで休暇を過ごす話だというがまったく覚えがない。 けれども、その小説は短編集『神の子どもたちはみな踊る』…note.com
[0円小説] 海は入り組みながら大地と出逢った|としべえ@ぷち作家ようやく秋らしくなった十一月の初め、ジローは三重県志摩市に訪れていた。 東京世田谷に生まれ育ったもので、日本の西の方にはうといが、三重県を訪れるのは実質初めてのことだった。 ずいぶん前、もう三十年近い昔に、一度知人との旅行で奈良の方から伊賀辺りを通る列車に乗り、名古屋まで抜けたことがあった。そのとき初めて三重に足を踏み入れたのだった。 田んぼの広がる日…note.com
[0円小説] 海は入り組みながら大地と出逢った|としべえ@ぷち作家ようやく秋らしくなった十一月の初め、ジローは三重県志摩市に訪れていた。 東京世田谷に生まれ育ったもので、日本の西の方にはうといが、三重県を訪れるのは実質初めてのことだった。 ずいぶん前、もう三十年近い昔に、一度知人との旅行で奈良の方から伊賀辺りを通る列車に乗り、名古屋まで抜けたことがあった。そのとき初めて三重に足を踏み入れたのだった。 田んぼの広がる日…note.com
[0円小説] 褒められたがり二千廿五|としべえ@ぷち作家その日ジローはセタガヤの実家にいた。長く置き去りにしてあった荷物の片付けのためだ。 物置に放り込んである段ボール箱の山を一つ一つ引っ張り出して、中身を確かめる。いらないものは少しでも処分して身軽になりたかったのだ。 しかしジローは鈍い決断力の持ち主だった。どうせ使わないはずのものがいくらもあるのに、手放す決心がなかなかつかない。 おまけに、すっかり忘れ果てて…note.com
[0円小説]二千廿五年十月八日、鎌倉行き|としべえ@ぷち作家インドから日本に戻って二週間が経ち、ジローは世田谷野沢の実家で片付けものをしていた。 二日間それなりに物を整理して、三日めの朝、ジローは実家を出て、横浜方面へ向かおうとした。 素直に行くなら、最寄りの駒沢大学駅から渋谷経由で東横線に乗るところなのだが、家を出てすぐ、そうだ、学芸大駅まで歩こうと思いついた。 少し遠いが気候もよい。散歩にはもってこいだ。 駅へ…note.com
[0円随想小説] 七色の橋投げかけて稔るころ|としべえ@ぷち作家・ベンガル菩提樹の木陰にて インドの首都デリーから北方へ二百キロと少し、ヒンドゥー教の聖地ハリドワルの中心部に位置するマヤデヴィ寺に、ジローと妻のムーコは滞在していた。 九月に入って雨季のピークは過ぎているはずなのに雨が多い。が、それはむしろ暑くないからありがたいくらいの話だ。 問題は滞在している巡礼宿の部屋だった。 知り合いの行者のお陰で無料で貸し…note.com
[0円小説] 直球勝負のできない男|としべえ@ぷち作家ネパールでふた月と少しを過ごしたあと、ジローは妻と二人、また北インドのハリドワルに戻ってきた。 ハリドワルの中心部には、インド最大の行者の組織であるジュナ・アカラが管轄する二つのヒンズー寺がある。ベイロウ寺とマヤデヴィ寺である。 懇意にさせてもらっている行者の方が、今年の春からそのうちのマヤデヴィ寺の祭祀職(プジャリ)を担当することになったので、今回はそのプ…note.com
[0円随想小説] 八十年めの夏にヒマラヤの麓で|としべえ@ぷち作家今年は二千二十五年。極東の島国である我が国が、西欧の列強に無謀な戦いを挑んで、その当然の結果として、無惨な敗戦を受け入れてから八十年が経ったのか。 ジローはそんなことを思いながら、なぜ自分は今、ヒマラヤの山麓の国ネパールにいるのだろうとふと考えた。 妻のムーコとともに、ふた月ほど前に、過ごしなれた北インドのハリドワルを離れ、ビザの期限の関係でネパー…note.com
[0円小説] 世界の天井の麓にて|としべえ@ぷち作家生まれ育った極東の島国を初めて離れたのは、五年ほどかけて膨らみきった泡ぶく景気が一年をかけてしぼんでいった年の二月半ばのことであった。 そのときタイを経由して訪れたネパールでの三週間ほどの経験が、自分の人生の道行きを変えたのだとジローは確信している。 東京世田谷で生まれ育ったジローは、隣の目黒にある理科系大学に一浪したあとで引っ掛かって、そこで四年間の退屈…note.com