レディ・プレイヤー 1/Ready Player One(9点) | 日米映画批評 from Hollywood

レディ・プレイヤー 1/Ready Player One(9点)

採点:★★★★★★★★★☆
2018年5月12日(映画館)
主演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、ベン・メンデルソーン
監督:スティーブン・スピルバーグ

 

 映画館で予告編を見た時にスピルバーグ久々のエンタメSF作品というだけでテンション上がったが、スクリーンにデロリアンとガンダムが登場した時に「これ絶対見よう!」と決めていた作品。

【一口コメント】
 スタジオの垣根を超えただけでなく、日米国境を超えたスピルバーグ版オールスター映画です。

 

【ストーリー】
 2045年。環境汚染や気候変動など、様々な要因が重なり、世界は荒廃していた。そんな中地球人は"オアシス"という仮想現実の世界で日々を送るようになっていた。
 オアシスでは創始者ハリデーの遺言により、勝者にはオアシスの所有権と5000億ドルにも及ぶ遺産が授与されるゲームが開催され、1つのゲームをクリアする度に手に入る鍵を3つ集めるゲームに挑んでいた。
 オハイオ州のスラムに住む若者ワッツもオアシス内で鍵を集めようとしてゲームに参加していたが、ゲームにはオアシスの管理権を欲する世界2位の大企業IOI社の社長ソレントが送りこんだ参加者もいた。ワッツは第一の関門を突破する。しかしその影響で現実世界のワッツにも危険が及び、レジスタンスのアルテミスやオンライン仲間たちとともにソレントの陰謀に立ち向かっていく―――。

【感想】
 「スピルバーグ以外の監督では実現しえなかったオールスター映画」、これがこの映画を見終わった後の感想。「
バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのデロリアンや我が国のアニメ・ガンダムは予告編で見て知っていたが、「シャイニング」、「ジュラシック・パーク」、「トランスフォーマー」シリーズ、「キングコング」、「バットマン」、「スター・ウォーズ」のミレニアムファルコン、「チャイルドプレイ」のチャッキー、「ロボコップ」、そして我が国日本の「AKIRA」のバイクや「ゴジラ」シリーズ、更に「ストリート・ファイター」の波動拳など、自身の監督作以外の作品を登場させるだけでも凄いのだが、この作品がワーナー・ブラザース作品でありながら、ワーナー以外のスタジオ作品もある。更に日本のアニメやゲームも登場しており、スタジオの枠だけでなく、国境をも超えたスーパー・スター総集結の作品となっているのだ。
 1つ1つの作品の版権管理の問題があり、DCやマーベルなど同じ会社がすべての権利を保持していない限り、こうしたオール・スター映画を撮るのは非常に難しいはず。しかしそれをスピルバーグが監督するということで多くの版権元がGoサインを出して、この作品がスクリーンにやってきたのではないだろうか?そんなことが実現できる監督はスピルバーグしかいないであろう。

 それでは、作品の中身について語るとしよう。
 正直、冒頭の説明台詞がやや長い。ゲームに疎い観客に説明しなければならないという部分もあるのである程度は仕方ないのだが、スピルバーグなら台詞ではなく、映像で見せることもできたのではないか?という風に感じた。
 というのは現実世界であるプレハブ小屋を縦に積んだ塔のような建物でスラムの世界観を映像で見せている一方で、仮想現実世界であるオアシスは映像ではなく、言葉で説明しているため、2つの世界観を2つの表現方法で説明するというやり方に少し違和感を覚えた・・・。

 そして冒頭の説明に続く、謎解きパートはスピルバーグらしいといえばスピルバーグらしいが、サスペンス映画やコナン映画を見てきたせいもあってか、やや物足りなさを感じる。
 3つのゲームが用意されていて、1つ1つに謎解きがあるのだが、1つ目のゲームは無理ゲーをいかにしてクリアするか?ということでわかってしまえばとても簡単なトリック。2つ目は逆に難しすぎて、ある種のマニアである主人公以外には絶対に解けないレベルの難問。3つ目が唯一TVゲームならでは!って感じの謎解きでしっくりくる内容。
 1つ1つの謎のバランスが悪く、1つの作品に詰め込む内容としてはどうなんだろう?と感じた。


 ここまでの冒頭の長い説明台詞と謎解きのバランスの悪さは全体を通して大きなマイナス要素ではあるが、それ以外の部分はプラス要因ばかり。特にラストのスター・キャラクター達の大決戦パートは、アニメが好きでTVゲームで遊んだことがある日本人なら大興奮間違いなしの盛り上がり。
 まずは予告編にも登場するガンダム。この作品はシリーズがたくさん出ているが、今作に登場するのはオリジナルのRX-78-2ということもあり、個人的にはハリウッド作品、しかもスピルバーグが、日本を代表するロボットをどうやって描くのか?というのを楽しみにしていていたのだが、正直予告編で見た時に一瞬映るくらいかな?と思ってもいた。
 しかし見てみたら、クライマックスで文字通りの大活躍。しかもガンダムが戦う相手も日本を代表するキャラクターということでスピルバーグの日本愛が感じられるクライマックスとなっている。

 またキューブリック監督作品である「
シャイニング」の世界観をVRで体験できるというのも、「A.I.」でキューブリックの脚本を映画化したスピルバーグならではの演出と言える。
 ただしキューブリック作品と言えば「
2001年宇宙の旅」や「時計仕掛けのオレンジ」が代表作として語られるものの、スピルバーグ作品の「E.T.」、「ジュラシック・パーク」などと比べると映画好きを除いた一般の知名度は低いこともあり、果たしてどれだけの人がこの「シャイニング」を知っているのか?と思う部分もあったが、そこはさすがスピルバーグ、「シャイニング」を見たことがない人でも楽しめるように笑いを入れたり、主人公たちにほのめかさせるなどいろいろな方法を駆使している。

 そして映画だけでなく、TVゲームやアニメも扱っていて、さらに最近のVRやネット対戦ゲームなどの要素も組み込まれていて、作品で描かれている2045年が現在の2018年から10年後か20年後には実現されていてもおかしくないと感じさせるだけのリアリティがそこにはあった。
 仮想現実の世界と現実世界を行ったり来たりしたり、2つの世界で主人公が危機にさらされるというコンセプトは「
マトリックス」シリーズそのもので、アイアン・ジャイアントが「ターミネーター2」のクライマックスよろしく溶岩に溶けていくシーンなどのオマージュが散りばめられているあたりも、自身で映画マニアと語るスピルバーグらしい。

 そして主要キャストに有名俳優を使っていないというのも過去のスピルバーグの有名作品に共通している。トム・ハンクスやトム・クルーズといった世界的に名の知られた俳優を使った作品も多いのだが、例えば「
E.T.」や「ジュラシック・パーク」などの子供が登場し、かつ世界的に大ヒットした作品では有名俳優を使っていないことが多く、この作品においても同じことが起こっている。昔と違うのは出演俳優の国籍が多種多様になったということだろうか?
 またこの作品はストーリー上、現実世界の自分と仮想現実世界のアバターが異なっているというのが実はキモになっていて、無名俳優を使っている理由がここでも生きてくる。SNSやオンラインゲームなどでは当たり前のアバター設定だが、それを70歳を過ぎたスピルバーグが描いているというのもまた面白い。

 最後の最後に、めちゃくちゃ個人的な意見ですが、カー・レースのシーンで「デロリアンが走っている!」。もうこれだけで満足でした。
 冒頭の長い説明台詞と、謎解きのマイナス要素を後半で完全に払しょくした作品でした。