The Bourne Ultimatum/ボーン・アルティメイタム(10点) | 日米映画批評 from Hollywood

The Bourne Ultimatum/ボーン・アルティメイタム(10点)

採点:★★★★★★★★★☆
2007年8月12日(映画館)
主演:マット・デイモン
監督:ポール・グリングラス


 ボーン・アイデンティティ 」、「ボーン・スプレマシー 」の続編であり、現段階では3部作の完結編(原作も3部作)でもあるこの作品。8月公開作品としては新記録を記録し、周囲の評判も良く、もともと楽しみにしていた作品でもある。


【一口コメント】
 シリーズの売りをきちんと踏まえた上で、シリーズ最終にして、シリーズ最高傑作です。


【ストーリー】
 記憶喪失の暗殺者ジェイソン・ボーンは、自分の正体について記事を書いたイギリスの記者に接触する。ボーンに機密を知られては困るCIA高官は、ボーンとジャーナリストの暗殺を試みるが記者だけの暗殺に終わってしまう。
 一方、ボーンはかつて自分が所属した暗殺組織の女性の助けを借りて情報を集め、CIAの追手を紙一重のところで交わしながら、モスクワ、パリ、ロンドン、モロッコへと移っていく。そして最後の舞台、ニューヨークでボーンは自分が何者なのか?を突き止める!!


【感想】
 初日3日間の興行成績が6900万ドルを越え、8月公開の作品としては史上最高記録でスタート!また1作目の1週目が2710万ドル、2作目は5250万ドルであり、今年は「
スパイダーマン」、「シュレック」、「パイレーツ 」の3作目が全部2作目以下の成績に終わった(といってもすべて3億ドルを超えた化物シリーズだが・・・)中で、シリーズが回を重ねるごとに興行収入もどんどん増えていくという珍しいシリーズ。最終の数値的にも1作目が1億2100万ドル、2作目が1億7600万ドルだったが、3作目は2週目ですでに1億3200万ドルということで、2作目を上回るのは間違いない。
 マット・デイモン演じるジェイソン・ボーンは、もはやジェームス・ボンドを凌ぐ勢いだ!

 さて、今作も今までのシリーズ2作を見てきたファンを決して裏切らない。それどころか、ますます深みにはまっていくことは間違いない。手持ちカメラでの撮影を多用し(普通に落ち着いた会話のシーンですら、手持ちカメラで撮影しているシーンもある)、このシリーズの最大の売りでもあるチェイスも漏れなく入っている。
 そのチェイス・シーンだが、モロッコでのバイクによるチェイス、そしてニューヨークでのカー・チェイスはシリーズのファンの期待に沿う内容に仕上がっている。モロッコでのバイクによるチェイスはジャッキー・チェン映画の自転車チェイスを彷彿とさせる作りであり、ニューヨークでのカー・チェイスはいきなり、予想もしない方法で始まる!なんとバックの運転のまま、自ら屋上駐車場から落下するのだ!その後も乗用車をパトカーに変えたまま、手に汗握る展開が続く。
 だが、この作品の中で個人的に一番気に入ったチェイスは、バイクでもなく、車でもなく、人。チェイスと呼ぶよりは追跡と言ったほうが適切かもしれないが、ロンドン・ウォータールー駅(ユーロ・スターのイギリスの発着駅)で、記者を誘導しながら追手を撒くというシーン。超一流のスパイならではの頭脳を生かした素晴らしい戦法で追手を撒いていく。手に汗握るとはまさにこのことで、ほとんど銃を撃たないスパイ映画の醍醐味を味わうにはもってこいのシーンである。

 また頭脳を生かした作戦というのが、地味ながら、このシリーズの人気を保っている要素の1つだと、個人的には思っている。
 シリーズ2でのトースターを使った簡易時限爆弾をはじめとして、実に地味ながらとても効果的な工作をこの作品でもいろいろと見せてくれる。例えば、エレベーターの非常ボタンを押して、追手から逃亡の時間稼ぎをしたり(とても地味だが、なるほど!と思える)、声紋認証の付いた金庫を開けるために、その相手に電話をかけて、相手の声を録音したり(少しだけハイテクだけど、やっぱり地味)、追手が来るのを認識した上で、地元警察に電話をかけ、自ら発砲し、警察に追手を鉢合わせさせたり、タオルを手に巻き、割れたガラスの上を飛び越えたり・・・。
 こういった地味な作業の1つ1つが、妙にリアルで、非現実的な世界を描いた作品であるにも関わらず、とても現実的に見ているこちら側に訴えてくる。スパイ映画といえば、銃撃シーンがあってこそ!みたいな既成概念をとても良い意味でぶち壊している。

 銃撃戦のないスパイ映画がかつてあっただろうか!?
 銃撃戦もないのに、ここまでハラハラするスパイ映画がかつてあっただろうか!?
 答えはNo!だ。

 ラスト・シーン。あの銃弾は当たったのか?という思いにとらわれながら、最後の最後でそう来たか!と納得のいく終わり方。であると同時に、これでこのシリーズが終わってしまうのか?という寂しい感覚にもとらわれた。
 できることなら、この先も続いてほしいと心の底から思える素晴らしい作品だった。