ショスタコーヴィチ:交響曲第7番 バルシャイ ユンゲドイチェpo/モスクワpo (1991) | クラシックCD 感想をひとこと

クラシックCD 感想をひとこと

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。
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ショスタコーヴィチの時代 ㉗

交響曲第7番は、第二次世界大戦中に作曲された交響曲。大戦中という環境の中で、作曲には大きな制約が伴うものですが、その中で作曲されたこの曲は、時事的なエピソードが数多く語られることとなっています。この曲を聴くと自ずと第二次世界大戦の一端に触れることとなります。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:交響曲第7番ハ長調 op60 (70:31)

演奏:バルシャイ指揮、ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー管弦楽団

   モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団員

録音:1991年6月21-22日 ライプツィヒ Neues Gewanthaus

CD:CD 515(レーベル:BIS)

 

【曲と演奏について】

第二次世界大戦の発端をポーランド侵攻とするならば、1939年9月1日が開戦となります。ポーランド侵攻にはソ連も一役かっていて、東西両側から侵攻することになりました。この時期に作曲されていたのが交響曲第6番になります。この1939年から終戦の1945年に至るまでのショスタコーヴィチの作品は、かなりの部分を映画音楽や劇音楽などの娯楽作品が占めています。戦時下の娯楽は、日本でもそうであったように、国威発揚の作品や、当たり障りのない教育的な娯楽作品が主流になり、芸術的な作品や厳しいドラマなどは作られない傾向にあると思います。そして1941年には、ソ連側の死者だけでも3000万人にものぼると言われる、人類史上最大の死者を出した独ソ戦が開始されました。

 

この時期のショスタコーヴィチの主要作品としては、1940年のピアノ五重奏曲がありますが、これは独ソ戦開戦前でした。そして、1941年6月に独ソ戦が開戦。ショスタコーヴィチが交響曲第7番の作曲を開始したのが1941年8月(但し構想は独ソ戦前からあったとも言われています)。そして9月には1944年までの3年間に及ぶ、レニングラード包囲が開始されました。そのさなかにショスタコーヴィチはレーニンに捧げる交響曲を作曲中であることを公表します。これは多分に市民を鼓舞する意味も込められていたと思います。

 

曲は1941年12月に完成し、1942年3月にクイビシェフで行われます。そして、それはソ連としても戦時下の国家的イベントとなり、また連合国の各国でも盛んにこの曲が演奏され、特にアメリカでは、トスカニーニやストコフスキーらによって、盛んに演奏が繰り返されることとなりました。この曲は、ファシズムへの抵抗という意味合いを持ちますが、ショスタコーヴィチは、ファシズムは単にナチズムを指しているのではなく、普遍的な恐怖、屈従、精神的束縛であると語り、のちにソビエトの全体主義も描いたとも語っていたとのことです。ただし戦時下の標題的な雰囲気の作品でもあり、国威発揚的な色彩もかなりのウェイトを占めていたのではないかと思います。

 

さて、この曲をどの演奏で聴きましょう。バーンスタインの名盤はありますが、85分という演奏時間で、当時のバーンスタイン流の思い入れたっぷりの濃い演奏になっています。これは、ちょっと疲れそうなので、思い切ってネルソンズとかの新しい演奏?とも考えましたが、ショスタコーヴィチの演奏では信頼の、バルシャイの指揮のものにしました。70分前後の標準的な演奏時間のライヴ録音です。このライヴは独ソ戦開戦50周年にあたって、1991年にゲヴァントハウスで行われたもので、ドイツの若き学生オーケストラに、モスクワ・フィルのメンバーが加わった編成で演奏されたエポックメイキングなコンサートでした。

 

この演奏は、開始早々から引き締まったテンポでスタートし、どんどんこの曲がその場の雰囲気を支配していくのを感じます。第一楽章は、平和な生活を遠くから聞こえてくる戦争が蹂躙していきます。第二楽章、第三楽章は美しき回想や祖国と戦争の影の描写、そして第四楽章の勝利で完結します。コーダはとても迫力のあるものでした。大変引き締まった彫りの深い演奏で、録音も素晴らしいものでした。

 

元来西側では、国威発揚の映画音楽的交響曲という目で見られていたこの曲ですが、ヴォルコフの証言などを経て、寧ろ平和を脅かす暴力的な侵略は、スターリンの圧政をも表すという考え方で語られるようになります。このライヴ会場の圧倒的で壮大なコーダと、そのあとに沸き上がる拍手との間に静寂が一瞬訪れます。それは、かつて国威発揚という側面も背負っていたこの曲が、人間を抑圧し脅かすファシズムや圧政など諸々の事象からの勝利と解放の曲となる瞬間なのでした。

 

ストコフスキーとNBC響による、大戦中の1942年の演奏(カーネギー・ホール)

 

余談ではありますが、ジョン・ヒューストン監督の「勝利への脱出」に、この戦争のテーマが使用されていますね。この映画は、独ソ戦のさなかで行われたウクライナのチームとドイツのチームの「The Death Match」と呼ばれるサッカーの試合が元にはなっているのですが、史実とはかなり違った形になっているようです。

 

購入:不明、鑑賞:2024/01/19(再聴)