ショスタコーヴィチの時代 ⑲
バレエ音楽「明るい小川」は、プラウダ批判の対象となった曲という意味で有名ではないでしょうか。実のところ、この曲がどうというよりは、そもそも「ムツェンスク郡のマクベス夫人」が社会主義リアリズムから遠く離れ、政治色が全く無く不倫という題材を扱った作品で、民衆の心をつかんでしまったことに、当局が危機感を覚えたことで、1936/1/28の「音楽の変わりの荒唐無稽」が発表され、続いて1936/2/6に「明るい小川」は、「バレエの偽善」と題して、音楽に特徴や新たな工夫が無いと、今度は全く逆方向から批判されています。つまりは、「お前はあまりにも有名だから収容所送りにはしないが、何を書いても、目立ってもだめだ。」と言っていることになります。
【CDについて】
作曲:ショスタコーヴィチ
曲名:バレエ音楽「明るい小川」 op39 (68:31)
演奏:ロジェストヴェンスキー指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1995年6月9-14日 ストックホルム Stockholm Concert Haii
CD:CHAN 9423(レーベル:CHANDOS)
【曲と演奏について】
この曲のプラウダ批判に関することについては、端的に上に書いた通りで、むしろ音楽的には過去の焼き直し的な事も批判されているようです。事実この曲には、「ボルト」からいくつかの曲が流用されています。ショスタコーヴィチのバレエ音楽はこれで3作目ですが、「黄金時代」「ボルト」ともに、台本の問題とか少々歌劇過ぎる風刺とかもあって、公演的には不成功であったわけですが、今回はショスタコーヴィチ自身があらすじを発案、前衛性を大幅に後退させた音楽で仕上げています。
あらすじとしては、コーカサスのコルホーズを舞台に、そこに洗練された娯楽を提供するために派遣されたバレエダンサー集団を中心に展開するものです。話の進行的には他愛もない色恋沙汰を含むもののように思われます。そして社会主義リアリズムを加えたものなのでしょう。音楽的にはシンプルで、この作品もソ連で人気となりました。しかしプラウダ批判によって上演はされなくなり、台本を書いた一人は逮捕されて収容所で処刑されてしまったようです。
さてその音楽ですが、このCDは当時、ワールドプレミアでした。と言っても全曲盤ではありませんが、全曲盤から、繰り返しとボルトからの引用部分を抜いたもので、実質全曲盤といってもいいのでしょう。ナンバー的には44曲中29曲が収録された形になっています。
そして、ワールドプレミアとは言え、かなり聴いたことのある曲が多いことも事実。ショスタコーヴィチは、のちに「バレー組曲第1番~第3番」を編纂(全18曲)。そして、アトヴミャーンが第4番(全3曲)を編集していますが、それらの中の半数以上の11曲は「明るい小川」からとられています。「明るい小川」組曲の拡大版のようなものですね。もともとの組曲版の「明るい小川(全5曲)」はプラウダ批判により演奏できなくなってしまっていたので、すべて新しい「バレエ組曲」に組み込まれています。
全体的に、明るい基調の音楽が多いと思います。こういったバレエ音楽なので、当然かもしれませんが…。いままであったような、先鋭的な音楽や、諧謔的ポルカはほぼ登場しません。娯楽音楽的に安心にて楽しめる曲だと思います。BGMで流しておいてもあまり気にならない感じです(笑)。
チェロのソロがある、第29曲のアダージョ。美しい音楽です。
同じ部分ですが、マイスキーのチェロによる演奏で、ピアノ伴奏です。
舞台は2003年にボリショイで復元されました。美しい舞台が見られます。
CDの演奏は、おなじみになってしまった、ロジェストヴェンスキー指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィルです。そういえば、ロジェストヴェンスキーは、チャイコフスキーのバレエ音楽も全曲録音していたと思います。さすがともいえる華麗な雰囲気のいい演奏です。たくさんの録音のあるロジェストヴェンスキーですが、ワールドプレミアはじめこのシリーズでの録音は、素晴らしいプロジェクトだと思います。
購入:不明、鑑賞:2023/11/27(再聴)