バティアシュヴィリ:時の谺 ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番他 (2010) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

★20世紀前半のロシア・ソビエトの作曲家と音楽 ⑦

 ドミトリ・ショスタコーヴィチ(その2)

★7月に聴くために買った14枚のCD(その11)

再び2つのテーマのコラボです。ショスタコーヴィチのCDをもう一枚買っていました。このCDはバティアシュヴィリのコンセプトアルバムで、自らグルジアの政変で西側に移っていったバティアシュヴィリが、旧ソ連体制での抑圧に影響を受けた作曲家たちの作品を並べた形になっています。

【CDについて】

①作曲:ショスタコーヴィチ

 曲名:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 op77 (1948) (37:32)

②作曲:カンチェリ
 曲名:V&V (1995) (10:51)

③作曲:ショスタコーヴィチ
 曲名:叙情的なワルツ 7つの人形の踊り op91c (1952)より (3:25)

 編曲:タマーシュ・バティアシュヴィリ

④作曲:ペルト
 曲名:鏡の中の鏡 (1978) (10:21)

⑤作曲:ラフマニノフ
 曲名:ヴォカリーズ op34-14 (5:39)

演奏:バティアシュヴィリ (vn) サロネン指揮 バイエルン放送交響楽団(①~③)

   バティアシュヴィリ (vn) グリモー (p) (④,⑤)

録音:2010年5月 ミュンヘン Herkulessaal(①~③)

   2010年11月 パリ IRCAM, Espace de projection

CD:UCCD-53106(レーベル:DG、販売:ユニバーサル・ミュージック)

 

【曲に関して】

ショスタコーヴィチは、ヴァイオリン協奏曲第1番を1947年から1948年にかけて作曲しましたが、ちょうど完成を前にジダーノフ批判が発生したため、発表を控えました。そして、交響曲第10番で一応の成功をみたあとの1955年、オイストラフとムラヴィンスキーによって初演されています。内容は同時期に発表された交響曲第10番に近い雰囲気を持っていて、同じような感じで聴くこともできますが、より先鋭的な雰囲気を持っているようにも思われます。

 

ノクターンと題された第一楽章は、交響曲第10番と同様の暗い雰囲気が支配する音楽、そして第二楽章のスケルツォが、いかにもショスタコーヴィチらしい音楽で、ここでDSCHの音形が登場します。第三楽章のパッサカリアが演奏時間的には最も長いのですが、バッハの影響を受けた数々の作品を残しているショスタコーヴィチらしく、荘重な音楽が聴かれます。そして短いブルレスケで華々しく閉じられます。大変聴きどころの多い曲で、今では演奏機会の多い、ヴァイオリン協奏曲の名曲となっています。

 

さて、カプリングされているカンチェリとペルトですが、両者とも故郷を出て、後年西欧に移って活躍した作曲家。カンチェリはグルジア出身で、ペルトはエストニア出身と場所は違うのですが、グルジアには多くのエストニア人が移住したという歴史もありますので、身近なのかもしれません。そのエストニア人たちはグルジアの動乱の時期に多くは故郷に帰ったとのことですが、このあたり、映画「みかんの丘」(2013:エストニア・ジョージア合作)で、動乱の中のエストニア人の状況を垣間見ることができます。そして、ロシア革命によって故国を出たラフマニノフのヴォカリーズでCDは締められます。

 

【演奏についての感想】

ショスタコーヴィチの比較的新しい録音のCDを今月は2枚買って聴いていた訳ですが、これらを聴いていて強く印象付けられたのは、すっかりショスタコーヴィチの演奏スタイルが変わったなということ。しばらく聴いてなかったので、ブランクを経て聴いているからよけいそう思うのかもしれません。1970年代から80年代に聴いていたころは、ソ連の作家という印象が強く、そういった諸々のことが演奏の中に反映されていると思いますが、今や普遍的な音楽になっているのですね。

 

バティアシュヴィリの演奏は、大変美しい音色のロマンティックなヴァイオリン演奏が展開するもので、かつてのオイストラフやコーガンの演奏とは全く似て非なるものという気さえします。並べて聴いてみるとまるで違う音楽が展開しています。プロコフィエフの時も感じましたが、あちらは曲自体にそういった要素が入っているので納得していましたが、ショスタコーヴィチでもやはり同じでした。まったく新しい演奏のフェイズに移り、純粋に音楽と人間の関係性ととらえ、聴く方としては、その感情を普遍的な事として、現在の事象に相対することとなります。

 

このCDはバティアシュヴィリのコンセプトCDの形をとっている訳ですが、曲の構成からノスタルジックな印象を強く感じます。最後のヴォカリーズが極めつけで、このCDの性格を象徴していますね。単純な感想になるかもしれませんが、ここに聴けるのは、故郷に残った作曲家の苦悩、故郷を出ざるを得なかった作曲家たちへの共感と、故郷を懐かしむ郷愁が強く感じられるものとなっていました。素晴らしい作品と思います。

購入:2023/06/23、鑑賞:2023/07/15