【ライヴ鑑賞】劇場の世界 仲道郁代 ピアノ リサイタル | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

土曜日は台風接近の影響による荒天予想。というわけで、遠出の予定が無くなったのでチケットを購入して、コンサートに出かけました。ベートーヴェンとシューマンが演目。安定ですね。

 

日時:2023/06/03
場所:サントリーホール 大ホール
曲目:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第19番ト短調 op49-1

   ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第20番ト長調 op49-2

   ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第18番変ホ長調 op31-3

   シューマン/蝶々 op2

   シューマン/謝肉祭 op9

   シューマン/トロイメライ op15-7 (アンコール)
演奏:仲道郁代(p)

 

2027年まで、毎年1回ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を順次演奏するという目標を絡めながら、その曲に関連するテーマの曲を演奏していくシリーズだそうです。2027年までの曲目もすべて決まっています。「劇場の世界」とは、今回のお題となる第18番のソナタに関して、この曲は主語が自分ではなく、周りから見渡したように見えることから、劇場の風景にたとえ、シューマンの2曲をテーマとして配置しているという事だそうです。

各曲の演奏前に仲道郁代さん自らマイクをとって曲について解説し、シューマンの2曲については演奏中の曲の部分の表題が、字幕表示されるという大変わかりやすい趣向でした。

 

ベートーヴェンは、まず第19.20番。初期作品を遅くまで出版しなかった事に対する諸井誠氏の説を取り入れて、20.19.20.19の順に4楽章スタイルで演奏されました。うまくはまって面白い試みでした。次に第18番。最初の動機の音形が、「なんだろう」と問いかけているように聞こえるという諸井誠氏の説が最初に披露され、演奏が始まるとそれがどうも頭に刷り込まれて、いちいち「なんだろう」と言っているように聞こえてしまいました。とはいえ演奏は叙情的でもあり、かつ立派なものでした。

 

ここまで聞いてきましたが、今日は座席を2階右の一番前という、舞台の後ろの線よりもまだまだ後ろの位置にとったため、当然音はまっすぐ飛び込んでこないので、低音とか残響で混濁してしまって、イマイチだなぁと思っていました。CDの録音がどうたらこうたら言っていますが、あれはベスポジで聴くという前提での評価だなと改めて感じる次第。仲道郁代さんの表情はなんとなく見えていて、それはいいのですが…。

 

さて、後半のシューマンに入ります。それぞれの曲の演奏前に説明があったのですが、まとめると、こんな感じです。「蝶々と謝肉祭の関連性」、「ヴィルトとヴルトの人の心に住む2つの心」、「消えゆく音や事象の表現について」、「フロレスタンとオイディウスについても蝶々の二人と同様」、「スフィンクスに関して、聞こえない音を聴くということ」、「幻想曲にも同様の意味の記述あり」当日仲道さんが話されたことは、パンフレットにすべて丁寧に書かれていました。

 

そして、「蝶々」の演奏に入ると、仲道郁代さん変わった印象を受けました。最初はやはりデビュー当時から弾いているシューマンの方がいいのだな、くらいに思っていたのですが、だんだんすごく気持ちの入った演奏に思え、グイグイと演奏に引き寄せられます。もうホールの残響とか関係ありません。「謝肉祭」もスタートから素晴らしい演奏が展開します。前半が終わってのスフィンクスは、演奏しないスタイルです。ただし、4分33秒までは止まりませんでした(笑)。そして、告白のリートのような美しいメロディにはっとして、ラストへと向かいます。もう、この辺りはまさに「神」です。ピアノのリサイタルでここまで心の奥深くに入ってきて感動させられるのは、なかなか珍しい体験でした。

 

最後は、人間賛歌と未来への夢ということで、「トロイメライ」がアンコールで奏されました。静かなメロディが流れた後の余韻の中で、会場は静寂にしばらく包まれていました。

 

コンサートに行く前に調べていて気が付いたのですが、仲道郁代さんは私と誕生日がちょうど1ヶ月違い。こちらは早く会社をリタイアしてのんびりしたいとばかり考えているのに、こんなに素晴らしいパフォーマンスを見せられると、ちょっと勇気づけられて、もっと前向きに頑張らないといけないと思った次第です。