モソロフ作品集:鉄工場、ピアノ協奏曲第1番 他 スヴェトラーノフ他 (1975) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

★20世紀前半のロシア・ソビエトの作曲家と音楽 ①

アレクサンドル・モソロフ(その1)

ランダムにいろいろ聴いていましたが、多少はこだわりも持って聴いていこうと思って、昔よく聴いたショスタコーヴィチやプロコフィエフの音楽のあるこのジャンルを試してみようと思いました。お勉強ですね(笑)、といっても、月に2~3枚かな…。まずは、この時代らしいエピソードのあるモソロフから。

【CDについて】

作曲:モソロフ

曲名:①組曲「兵士の歌」 (10:16)

   ②交響的エピソード「鉄工場」op19 (1928) (3:00)

   ③ピアノ協奏曲第1番 op14 (1927) (23:47)

   ④チェロ協奏曲第2番 「悲歌」(1945) (21:12)

演奏:①ヴィターリ・グヌトフ指揮 オーシポフ・ロシア民族管弦楽団

   ②スヴェトラーノフ指揮 ソビエト国立交響楽団

   ③フォンツァリア(p) コジュカル指揮 ソビエト国立交響楽団

   ④モニゲッティ(vc) ドゥダロワ指揮 モスクワ交響楽団

録音:①1962、②1975、③1981、④不明

CD:CDVE04374 (レーベル:VENEZIA、原盤:MELODIYA、発売:VENEZIA)

 

【曲に関して】

鉄工場は、モソロフの曲の中で唯一比較的演奏機会の多い曲だと思います。吹奏楽に編曲されていて、演奏会で取り上げられることもあるようです。近代的な巨大鉄工場でうごめく機械の音を表現した音楽。機械の音と言えば、オネゲルのパシフィック231とかが有名ですね。

この曲は、1927年にバレエ音楽「鉄鋼」の中の一場面として作曲され、のちに独立した形で成立し、演奏されるようになりました。そんな曲を作曲したモソロフは、ロシア・アバンギャルドの前衛的作曲家で、その生涯の変遷の中で書かれた曲が三曲カプリングされており興味深いCDになっています。

 

【演奏についての感想】

鉄工場は、スヴェトラーノフの演奏です。機械を模した音が奔流となって襲ってくるというイメージですが、すべてが混然となってガンガン鳴っているイメージなので、少々聴きづらい所もあると思いました。まぁ、そういう曲なのですが…。それぞれのパートの分解をはっきり聞くとすれば、シャイー=ACO盤がDECCAから出ているので、そちらだとそれぞれの楽器の音がよりクリアに聴こえて、この曲の姿が判りやすいと思います。

 

さて、他の3曲の鑑賞については、モソロフの生涯を念頭に置いて聴かざるを得ません。Wikiからの引用や、各サイト等からの情報を組み合わせて、簡単に略歴を書いておきます。

モソロフは赤軍に参加し、前線に赴いたのち、負傷して戦争神経症を負います。のちにモスクワ音楽院に入学。卒業後、現代音楽協会(ACM)の室内楽部長を務めました。この時期は、ロシア・アバンギャルドを牽引する作曲家として活躍します。ピアノ協奏曲第1番はこの頃の作品です。

しかし、ロシア・プロレタリア音楽家同盟の攻撃が始まり、人民の敵とされ、1937年から8年間強制労働に送り込まれてしまいました。グリエールとミャスコフスキーの奔走もあって、8ヶ月後に5年間の国内追放に減刑となります。しかし、モソロフはその間にすっかり矯正されてしまい、当局で問題とされないような作品の作曲を1973年に亡くなるまで続けるようになります。モソロフは、そのような当たり障りのない愛国的な曲を書いて生計をたてる傍ら、純音楽的な曲も書き貯めてはいましたが、それらは生前に演奏されることはありませんでした。

 

そんなモソロフのピアノ協奏曲は、当時のアヴァンギャルドの雰囲気の色濃い曲で、鉄工場と続けて聴いていると、鉄工場の拡大版協奏曲といった雰囲気もあり、ピアノ協奏曲というよりオーケストラの各パートのソロの中で、ピアノも混然一体となっています。ピアノの独立したソロもありますが、特に第二楽章など、次々とソロを替える管弦楽の協奏曲にピアノが加わったといった形に思えます。構成的には同時期のプロコフィエフの方が立派という気もしないではないですが、なかなか面白い曲だと思いました。

 

チェロ協奏曲は、強制労働から帰還後の作品。もはやアヴァンギャルドから離れ、平易なメロディで書かれています。冒頭は不穏なオーケストラの強奏の動機。これに対して力強いチェロのメロディが入ります。動機は中間部、ラストに再び現れますが、ラストは音量がかなり落ちます。第二楽章に入って、明るいオーケストラの上で夢想的なチェロのメロディが終始奏でられます。第三楽章は勝利や歓喜を奏でるようなオーケストラの中で、チェロは最初は明るいメロディを奏でますがだんだん暗く沈んでいきます。この部分が「悲歌」の標題と合致している気がしました。オーケストラの歓喜が繰り返される中で、沈んでいたチェロが再び強くなってきて曲を終えます。チェロが終始雄弁に語る曲でした。何かを表現しようとしている雰囲気がありますが、どうなんでしょう。穿った見方をすると、ショスタコーヴィチ的意味の込め方のような気もしました。

 

兵士の歌は、民族楽器による合奏曲です。バラライカなどの民族楽器の中で、歌謡的旋律が流れていきます。何か童謡のようでもあります。曲は、兵士の行進の様子を描く「行進曲」、静かなメロディの流れる「祖国の歌」、明るい舞踏音楽を思わせる「若き騎士たちの歌」で構成されます。人生の後半に民謡の採取に注力したモソロフの曲で、初期のアヴァンギャルドの影はどこにもありません。録音も復権前の1962年になされています。

 

さて、ソ連指導部の圧力により作風が変わってしまうのはプロコフィエフにも似たところがあるかも知れません。20世紀のソビエトを生きた作曲家にはそれぞれに時代に翻弄された道がありますが、その中でも大変過酷な運命に翻弄されたモソロフの音楽でした。

 

購入:2012/12/13、鑑賞:2023/05/26(再聴)