ロミと妖精たちの物語292 Ⅴー90 生と死の狭間に⑫ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

パリ凱旋門のエトワール、星の広場を見渡す古いアパルトマンの5階から更に上にあがるロフトの部屋で、ケージが話すロミの両親の束の間の愛の物語りはそこで止まった。

 

「それで、どうなったのケージさん」

彼はロミの眼を真っ直ぐには見返すことは出来なかった。

 

「僕の意識はそこで止まってしまった」

 

「マリアとケージローの宇宙空間にまで広がる壮大な愛、そこにはメグミがいてミドリがいた、そして三人の思いに包まれたまま、僕の意識はそこで停止してしまったんだ。最後に見たのはマリアの中に新たな光が、希望の光が灯っていたこと」

 

「そして僕は年月を経て父が用意してくれたアンドロイドの中で目覚めた」

 

ケージの長いお話は、ある意味彼の独りよがりな物語りなのかもしれないとロミは思った。

 

「伯母さま、フィニアンとファンションは私の親しい友達です。そして巫女少女ミドリはたぶん、私の親友に縁のある人かと」

 

出会ってから3年にわたる両親の初恋の長い話を聞いて、そこまでに至る母の思惑に複雑な思いを抱き、うつむきながら声を発したロミに、パリの妖精の女王シモーヌは応えた。

「ロミ、どうかしら、その場に居合わせたあなたのお父さんに確かめてみたら」

 

「伯母さま、ケージのお話のとおりだとすると、たぶん父には漠然とした記憶しかないと思うの」

ロミはいつも、父博士にたいする評価はかなり低い。

「それにパパは別の人と結婚して、まだ小さい双子の父親なのよ」

 

「私の知る限りでは、ママはベルリンで恩師に当たるマーガレット・ハリスン先生にお世話になって、私を生んだのだから」

 

「だけど私を育てることも叶わず、ママは力尽きて、死んでしまったのよ」

 

 

ロミは、イヅモにいるミドリの意見を聞きたかった。

「マリア、ドラゴンボウルを出してくれない?」

 

宇宙少女マリアは胸の間からドラゴンボウルを取り出し、そこにぼんやりとしたままでいるケージの眼の前で、ロミの胸元に向けてドラゴンボウルを差し出した。

 

ロミは目を閉じて心眼を開いた。

 

――ねえミドリ、聞こえている?

 

――私は今、この状況で何をすればいいのかしら。

 

だが、ロミはミドリの言葉を待たなかった。

 

――いいえ、今やるべきことは、私のことでは無いわ。

 

アンドロイドの中にいるケージのイドを探り、ロミはこれから成すべきことを探した。

 

――どうしてケージという名前を持つ男は、みんなポンコツなのかしら。

 

ケージの話した物語を俯瞰してロミは思いを決めた、今求めること成すべきことは、ケージの双子の妹、メグミの行方を捜すことが先決だと。

 

ドラゴンボウルから虹色の光が現れると、ロミは思念を集中しメグミの行方を追い始めた。

 

 

次項Ⅴ―91に続く