ロミと妖精たちの物語291 Ⅴー89 生と死の狭間に⑪ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

マリアが開いた思念の翼に包まれて、

彼の意識は天空を覆う銀河の水面を滑るように流れて行く。

 

千億の星々が明滅する宇宙空間を浮遊しながら、マリアの白く柔らかな腕が彼の意識を抱き包み、その指先で彼の鍛えられた肉体の輪郭を、骨格を、筋肉の一つひとつをなぞってゆく。

 

画家がキャンバスに描くように、繊細なデッサンの中から浮き上がるように、それは燃え上がることもない、自分の命と引き換えの、冷静と情熱から生まれる立体のオブジェ。

 

彼女はゆっくりと、深い呼吸を繰り返し愛と癒しのエンパシー(共感思念)を与え続ける、それはまるで、幻影のオブジェに生命の息吹を与える儀式のように。

 

ケージローは戸惑いの中にいる、朧気な意識の流れは夢の中にいるのだろうかと疑いながら、それは3年前の冬のこと、ベルリンの人ごみの中で遭難していた少女マリアを抱き上げた時から続く曖昧な記憶の連続に、今もまた、その幻想世界にいるのだろうかと思った。

 

初心な恋人たちの儀式を見守っている巫女少女ミドリは、マリアが放つ愛のオーラに包まれながら、心の奥深くでは現実の世界から消えてしまったメグミの魂を探し求めていた。

 

そして、彼女は再び見えない小鬼の姿を借りて、マリアの指先に思念を集中し、ケージローの心の中にメグミを求め、無意識の内に心優しいケージの魂を求めていた。

 

だけどマリアの冷静な意識は、この儀式を進めることによる、自らの生命力の消耗を不安に覚え、次世代の聖少女をこの世に導くことが出来なかったらと、見えない不安に怯えることなく光を授かるためには、迷える自分を導くために小鬼となったミドリの思いを有難いと思い、ケージローの肉体を包むと共に、ミドリの心優しい意識を思念の翼で包み、尽きることのない愛のエンパシーで愛する二人を抱き包もうと心に決めた。

 

 

――ミドリ、僕はここにいるよ。

 

束の間、ケージローの意識は途切れ、ケージの魂が表に現れてミドリを求める。

 

・ ・ ・ そして。

 

――ミドリ、私もここにいる、マリアの中にいるのよ。

 

ミドリは、胸の中から取り出した勾玉をしっかりと握り、愛する二人の意識を受けとめた。

 

女神像と共に姿を消してしまったメグミの意識を自分の中に引き寄せ、マリアのエンパシーをも自分の体内に引き入れると、マリア、メグミ、ミドリの三人はM3となり、それは愛と友情と希望のトリニティー(三位一体)となった。

 

 

そしてマリアの身体に儀式を続けるための体力が戻り、彼女が描いたキャンバスの上には、創造のオブジェに明かりが灯り、黎明の光となって広がってゆく。

 

それは、

 

ケージローの魂までをも包み込み、

 

(いだ)き合う肉体とともに、

 

二人(或いは五人)の心は一つとなり、

 

惹かれ合い、求め合う恋人たちは、

 

明け行く東の空に、

 

黎明に消えゆく銀河の下に広がる地平線に、

 

新たなる生命の、希望の光を見出した。

 

 

 

次項Ⅴー90に続く