ロミと妖精たちの物語290 Ⅴー88 生と死の狭間に⑩ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

マリアの柔らかな手のひらに包まれて

 

目を閉じてその抱擁に身をまかせ

思いの一つが心に突き刺さる

 

それは無言のうちに

身体の奥底の中に忍び込み 

そこからゆっくりと

広がってゆく

 

彼女の心臓の鼓動が伝わり

彼女の息遣いが伝わる

 

闇の中で重なり合う鼓動

それは次第に波動を

ゆり起こし

 

言葉も無く

思念の内に求め合い

やがて互いにうねりあい

波のように重ねあって行く

 

彼女の眼に明かりが灯り

そこから柔らかな光が

広がり

 

光輪に包まれた

マリアの白い身体を

優美に揺らぐかたち良い脚を

 

その背中から広がる

思念の翼に包まれて

ハロウインの深夜の恋人たちは

互いに絡み合い

 

もう引き返すことの出来ない

情熱の本流に乗り

 

それは

天空に流れる銀河へと

乗り出してゆく

 

宇宙に浮遊する

イルカの群れを引き連れて

炎の天路を翔ける流星群のように

或いは極寒の氷面下を

漂う天使魚のように

 

マリアの内包する宇宙は

果てしなく広がり

 

その優美な翼に誘(いざな)われ

二人はきつく重なり合い

 

また身を離し

見つめ合いながら

伸びあがり、縮小し、

その身をくゆらせる

 

そうして彼女は深い海の底に

落ち着くようにして

今あらためて、

その身を開いてゆく

 

男と女のそれぞれに

孤独の内にあったものが

 

重なり合い、

 

求め合い、

 

そして委ね合う

 

愛の宇宙を翔ける

 

恋人たちは

 

成熟した花のように

 

一つとなってゆく

 

熟した実を結び合うように

 

互いの思いが求め合い

互いの思いを包み込む

 

己を捨て

相手を思い

その身を護ろうとする

そのとき

 

思いは一つとなり

 

そこに

 

新たな望みをつくりだす

 

 

 

次項Ⅴ―89に続く