ロミと妖精たちの物語236 Ⅴ-34 死と乙女㉔ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

メグミは、信州の山深い森の中にある祖母の庵で、いったい何をしているのだろう。

 

今は高知にいるという、僕の名前の由来でもある祖父ケージが残したベビーメタルのコレクションのうち、初期に発表された東京ドームの映像を鑑賞しながら、僕は彼女の今を思った。

 

4K画面に映っている、真っ直ぐな歌声で戦う美貌のSU-METALと、華麗に舞い踊り、愛らしいスクリームで盛り上げるYUIMETALとMOAMETALの二人の天使、初期BABYMETALの三人がそろった映像は、5万人のオ-ディエンスも光と影の大観衆となってショウを盛り上げている。

 

22才で分かれた僕の妹は、僕の知らない祖母の庵で一人、彼女はいったい何を考え、何を創造しているのだろう。4K画面に映る三人のうち、真っ白な妖精YUIMETALの可憐な横顔に、僕はまた、遠く離れてしまった妹のことを思った。

 

時々父の住む池袋の古い家に寄ると、僕は祖父のコレクションを黙って借りていた。祖母に捨てられて、半ば追い出されるように家を出て、高知の古い家系の女性に拾われた祖父は、今では林業と農業に勤しんでいると聞いた。まだ会ったことも無いその人のハードロックな趣味を、会うことも無い孫の僕はなぞっているのだ。

 

父は、祖父のことも、祖母のことも、何も話してはくれなかった。

メグミのことも、山間の庵で祖母と二人、どういう暮らしをしているのか話してはくれなかった、いや、父も何も知らされていないのかもしれない、ただ表情に乏しい父は、パリに残した僕たちの母、ナツミのことしか思いが浮かばぬようだった。そして、僕たちの母のことも、その家系についても何も教えてはくれなかった。

 

祖母の家系が残した都内の土地と資産を管理する、それだけが彼の人生なのかもしれない。そして僕は、唯一肉親として存在していた双子の妹のことを、唯、空想するだけだった。

 

エジマという姓は祖母の家系であり、祖父は婿養子だった、そして父ケーイチローもまた、祖父の子ではなく、ナツミのためにどこからか貰われてきた養子であることを、僕は大学時代にメグミから教えてもらったことがあった。

「エジマの血を引き継いだ男はケージ、あなただけなのよ」

 

 

祖父も父も、四の国にある、ミウネという山岳地帯に残る古い一族から寄ばれてきたらしい。子供の内にエジマ家の養子になり、それぞれ、祖母麻弓と母であるナツミとともに育てられたのだと言った。

 

「ではメグミ、僕はいったい何者なのだろうね」

僕の問いかけに、メグミは思いを寄せることもせず、無表情に応えた。

「私たちは兄妹だから、ケージ、あなたを捨てたりしないわ」

距離を置いたお互いを、ただ見つめ合うだけの兄妹だった。

 

あれから七年の時が過ぎ、何の変化も無く、僕は年齢を重ねて行った。僕は時々、幼い頃に過ごしたパリのことを思った。星の広場の家から通った聖母子教会の大聖堂のシメールたちを、モンマルトルの丘の上の教会の美しい彫刻たちを、テルトル広場の画家たちのことを、そして、優しいシモーヌ伯母さんと、愛らしいマドレーヌ姉さんのことを。

 

そして12月の冷たい風がアパートの窓を叩いてきた日曜の午後。

 

僕はいつものようにベビメタの4K映像を観ていた。高校時代、メグミが目覚めたあの日の前日に、横浜アリーナで見たYUIMETALがいなくなった最初のライブの映像を。彼女の代わりを務めたダンスの上手い少女RIHOが躍動していたシーンに、つい口元を緩めてしまった僕のポケットの中で、先月買い替えたばかりのスマホが振動を始めた。

 

手に取ってみると、スマホに父からのメッセージが浮かんできた。

――ケージ、メグミの様子がおかしい、急いで支度をしなさい――迎えに行く。

 

父は珍しく、大型のランドクルーザーを自ら運転して僕を迎えに来た。

 

 

次項Ⅴ-35に続く

 

 

 

 

今回の鍵となる(予定の)第3部のスタートページはこちらデス

 

 ↓